2009年、W124以来、途絶えていたメルセデス・ベンツEクラスクーペが14年ぶりに復活した。実質的にはCLKの後継車とも言える位置づけだったが、新型Eクラスセダンのコンセプトを正しく継承することで、「メルセデス伝統のクーペモデルの復活」を印象づけていた。ここでは日本上陸間もなく開催された国内試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年10月号より)
ネーミングに託された「エレガントでダイナミック」なコンセプト
新型Eクラスの日本発表からわずか2カ月、Eクラスの名を持つ正統派クーペ、Eクラスクーペが登場した。Eクラスのクーペを名乗ることで、セダンと変わらぬ「快適性」「安全性」「環境適合性能」と、2ドアクーペならではの「上質なインテリア」「スポーティな走行性能」「美しいスタイリング」を併せ持つモデルであることを主張している。
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従来のCLKの後継モデルという位置づけにも見えるが、CLKとはその名前のとおり、CLのショートバージョン的な位置づけ。Eクラスクーペとは少し意味が違う。CLKのポジションはEクラスとCクラスの中間、どちらかというとEクラスに近いという微妙なものだったが、CLKという名称がCクラスをベースにしたものという印象も与えていた。実際、同じエンジンを搭載するモデルで比較して、Eクラスセダンより価格も低めに設定されていたから、やはりEクラスのクーペというほどの高級感はなかった。
そこで、これまでCクラスクーペと呼ばれていたモデルがフルモデルチェンジを機にCLCと名乗ることになったこともあり(日本にはまだ導入されていない)、晴れて、正しくEクラスを継承するクーペとなったというわけだ。Eクラスのクーペか、CLのショートバージョンか(CLKの後継車か)、美しくダイナミックな2ドアクーペをどう表現すればユーザーにアピールできるかだが、Eクラスクーペのほうがデザインも踏襲しやすく、ストレートでわかりやすいように思う。ネーミングはコンセプトを表現することになるので重要なことだ。
さて、このEクラスクーペのポイントは、セダンのデザインを継承しながらもコンパクトにまとまっていることだろう。ホイールベースを思い切って115mm縮め2760mmとし、全長×全幅×全高は4705mm×1785mm×1395mmと、セダンよりも165mmも短く70mm狭く75mm低くしている。
よく見るとボディの絞り込みがきつく、全体的にシャープで、セダンとは違うラインを持っていることがわかる。フロントグリルには大きなスリーポインテッドスターが配され、1950年代の名車ポントン・メルセデスのデザインを採り入れたという例のリアフェンダーもくっきりとした陰影を見せている。同じに見えるヘッドライトやリアコンビランプも微妙に異なる。
フロアシフトを採用。セダンとの違いを強調する
もっとも、Bピラーを持たないサイドビューはエレガントで、サイドウインドウがフルオープンになるなど、セダンとまったく違う面も見せるが。
インテリアもクーペらしい特別な雰囲気に包まれている。シートはセダンとは異なるハイバックタイプで、E550クーペにはサポートやクッションをエアで調節できるマルチコントロール機能やベンチレーターも備わる。シート自体は意外にソフトだが、ホールド性は悪くない。また、CLKよりもホイールベースが45mm長く全幅も45mm大きくなったこともあって、4シータークーペとして後席も十分なスペースを確保している。
もうひとつセダンとの大きな違いはフロアシフトとなること。やはりクーペにはコラムのセレクターレバーは似合わないということらしい。
いかにも優雅なクーペらしい洗練された乗り味を持つ
走り出してすぐに、その乗り心地の良さに驚いた。
セダンと違ってクーペにはエアサスの設定はなく、E550クーペはダイナミックハンドリングパッケージを含むAMGスポーツパッケージが標準装備される。
これは、全車に標準装備される走行状況に応じてダンパー内のオイル量を変化させて減衰力を調整するアジリティコントロールサスに加え、サスペンション、アクセルレスポンス、AT制御をノーマルとスポーツに切り替えるものだが、路面の継ぎ目を伝える粗さはなく、大きな衝撃もやんわりと吸収して嫌な余韻を残さないのは見事。ノーマルモードでも速度を上げていけば、それに合わせたものとなる。
ハンドリングは敏感過ぎず、正確でどっしりとした味わいのあるもの。むしろスポーツモードでは鋭すぎるという感じさえした。
エンジンは3.5L V6と5.5L V8の2種類。3.5L V6は市街地から高速まで全域においてトルクフルで、まさにこのクルマにピッタリと感じる。ただ、5.5L V8に乗ってしまうとその迫力ある排気音としっとり感、そしてアクセルを踏み込んだ時のパワーに惚れ惚れとしてしまう。いずれも手慣れたエンジンだけに、その熟成ぶりには文句はない。
もちろん、Eクラスクーペもセダン同様、様々な最先端安全機能、運転支援システムが装備される。詳細に紹介するスペースはないが、それらもEクラスクーペにゆったりとした走り味や安心感をもたらしているのだろう。
優雅で贅沢なクルマである2ドアクーペの魅力が、Eクラスをベースとしたコンセプトとすることで見事に実現されている。(文:Motor Magazine編集部 松本雅弘/写真:堀越 剛)
メルセデス・ベンツ E350クーペ(右/左) 主要諸元
●全長×全幅×全高:4705×1785×1395mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1670kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3497cc
●最高出力:200kW(272ps)/6000rpm
●最大トルク:350Nm/2400-5000rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●10・15モード燃費:9.1km/L
●タイヤサイズ:235/45R17
●車両価格:860万円(2009年当時)
メルセデス・ベンツ E550クーペ(左) 主要諸元
●全長×全幅×全高:4715×1785×1395mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1730kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:5461cc
●最高出力:285kW(387ps)/6000rpm
●最大トルク:530Nm/2800-4800rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●10・15モード燃費:7.7km/L
●タイヤサイズ:前235/40R18、後255/35R18
●車両価格:1095万円(2009年当時)
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