現行GT500規定は2020年から共通部品の適用範囲が拡大され、サスペンションを構成する各コンポーネントやアップライトなども全メーカーが同一の部品(EB)を採用する。そのうえで各ボディが持つ空力的な特性に合わせ込み、ブレーキング時のスタビリティを作り込んで確保する必要がある。スーパーGT第8戦モビリティランドもてぎはブレーキングに厳しいサーキット。そのGT500のブレーキング事情、これまでの開発経緯などを開発者に聞いた。
元来、カレンダーでもっともブレーキに厳しいストップ・アンド・ゴーの特性を持つモビリティリゾートもてぎだが、今回はハーフウエイトでの1戦となるだけに、ランキング上位勢では40kg台の実ウエイトを積む車両も存在する(50kgを超えると燃料リストリクターが1ランクダウン、95.0kg/h→92.6kg/hで34~50kgの実ウエイト)。
やっぱりGT500マシンはすごい! 読み応えありすぎのホンダNSX-GTテクノロジー説明
そんなもてぎで昨季はタイトルを決めたTCD/TRD陣営だが、とくに王者36号車(au TOM'S GR Supra)はダウンヒルからの90度コーナー飛び込みで、レースを通じ特徴的な動きを見せていた。
「昨季2023年のクルマは見て戴いていたとおり、すごく跳ねながらブレーキングしていたと思うんですけども(苦笑)、あんな状況を招かないよう、空力としてはやはり車高感度に対するマイルドさというか。そういったところはチェックしながらでした」と語るのは、そのTOYOTA GAZOO Racing(TGR)陣営でGRスープラの車両開発を統括するTCD/TRDの池谷悠氏だ。
「2024年型車両では安定性が上がりつつ、曲がるクルマになっているのが全体的な特性と印象ですので。それはもてぎでも充分、効力を発揮してくれるかなというふうに思っています」
シリーズでは今季開幕よりコーナリングスピードを抑制する施策も導入され、最低地上高を規制しているスキッドブロックの最小厚を増すことにより地上高を5mmアップさせる規則が適用されたが、これがGR Supraにとって追い風にもなった。
「車高は規則の方で床下部分で上げられている。これにより(空力性能の)ピーク、すごく高いところを使わずに走っているという部分も一因かなと。結果として両方の観点からですかね」
ブレーキング時に"跳ねる"現象は、そもそものコーナーダンパーが高い減衰設定になっている可能性以外にも、現代の空力依存度の高い車両ではノーズダイブ(ブレーキング時の前傾姿勢)によりフロアと路面の距離が狭まることで床下の気流が変化し、ダウンフォース量の増減が繰り返されることで起きる"ポーパシング/バウンシング現象"が挙げられる。
どちらかといえばしなやかな動きを特徴とする36号車auの場合、昨季の"跳ね"は後者の要因が大きかったと思われるが、ノーズダイブを制御しようにも現行GT500規定ではサードエレメントの使用が許されていない。
またDTMドイツ・ツーリングカー選手権との共通規定導入初期の2014年から2019年までは、アップライト側のサスペンションアーム取り付け点(ピックアップポイント)に大幅な設計自由度が設けられていた(車体側は定められた範囲内に設定)が、前述のとおり2020年以降は全車が共通となったことで、ジオメトリーの独自性もほぼ消滅したことになる。
「そういう意味だとインナー(車体側)のポジションは、基本的にこの現行規定になっても2019年以前と使えるところはあまり変わらない。その振れ幅というところは、いわゆるClass1+αだからということはあまりなく、各社のクルマの特性に合わせて、皆さんジオメトリーとしては設定されているはず」と続けた池谷氏。
「根本のDTMのそもそもの発想として、アンチダイブ(ブレーキング時の前傾姿勢を抑制すること)、アンチスクウォート(加速時の車体の後傾を抑制すること)の制御は、構成の成り立ちからしてちょっと強めでして、我々がそれより以前(2009規定時代など)によく使っていたような範囲からは、かなり強めの方向でもあります。彼らがどういう思想でそうしたのかまでは追えていませんが、結果としてサードエレメントがなくても、という構成を彼らは使っていました」
そのうえで規定初代のRC FからLC500、そしてGR Supraとクルマが持つエアロの特性とサスペンション側の設定をどう組み合わせていくか、定められた範囲のなかで「あっちへ行ったり、こっちへ行ったり(池谷氏)」しながら、現状の良きポイントに収斂してきたのが基本の流れだが、2020年に登場した現行のA90型GR Supraでも、初代のロードラッグ&レーキアングル(平常時からのフロアの前傾姿勢)仕様から安定したダウンフォース量を発生する今季2024年型仕様まで、使用するポイントは変遷している。
「そうですね。アンチ成分だけではなく、他にもいろいろとパラメータはありますので。ロールセンター高ですとか、そういうところも諸々ひっくるめて、都度そのクルマに合わせて見直しているカタチです」
レース距離が300kmと比較的短いもてぎとはいえ、ブレーキそのものに掛かる負担も大きい。これも規定導入初期にはカーボンブレーキの熱害や酸化などでトラブルが散見された。しかし2016年以降にマテリアルそのものの見直しとローターの冷却ホールを"Yベント"と呼ばれるデザインに変更し、流路を拡大して冷却性能を高めて以降は大きなトラブルなく来ている。
「今回はハーフウエイトということですが、ここ(もてぎ)は9月にテストを実施していて、気温や路温などが今よりも高かった状況を確認はしています。レースマイレージでもブレーキに対して、そんなに心配をしては来ていない状況ではあります」と池谷氏。
今季のホンダ/HRC陣営は、ベースモデルの形状由来ながらダウンフォース至上主義のコンセプトによりホームコースで無類のブレーキングスタビリティを発揮したNSX-GTから、現行FL5型をベースとしたCIVIC TYPE R-GTにスイッチ。
一方、ニッサン/NMC陣営は一昨年の同地にてタイトルを決める好走を披露したとおり、R35型GT-Rより「ダウンフォース総量の大きい」初代RZ34型を引き継ぐ"Z NISMO"でも、ここもてぎのブレーキングに相応の自信を持っている。
「他メーカーさんもおっしゃっていますけど、すごく小さい範囲で特徴があるということになってきているのかなと。そのなかで我々は車種が変わっていませんし、一番変化点が少ない。去年の悪かったところをベースにして総括してきました。(ニッサン)Zの方もGノーズによって外板全体が変わられたりとか、変化点が多かった皆さんよりは少し完成度が高いということかもしれないです」
あいにく、この第8戦の土曜も雨量で赤旗が続出するようなコンディションに見舞われたが、決勝の日曜は晴れ予報。ドライ路面で3車3様の個性を活かしたブレーキング勝負が見られるハズだ。
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