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【渥美心、世界への一歩】掴み取った夢の切符。カルチャーショックの連続/EWCボルドール24時間(前編)

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【渥美心、世界への一歩】掴み取った夢の切符。カルチャーショックの連続/EWCボルドール24時間(前編)

 9月18~19日、2021年FIM世界耐久選手権(EWC)第3戦ボルドール24時間耐久ロードレース選手権がフランスのポール・リカール・サーキットで開催され、渥美心選手はフランスのチーム『OG Motorsport BY Sarazin』からスポット参戦しました。

 マシンは初めて駆るヤマハのYZF-R1で、タイヤはダンロップ。戦った結果は、全41台中総合7位、SSTクラス4位と上位でフィニッシュを決めました。

渥美心、初の24時間レースを走破してSSTクラス4位「完走できたことが奇跡のように感じた」/EWCボルドール24時間

 さて、今回のコラムの前編では、参戦の経緯、コロナ禍での渡航、日本とは違う文化やトランスポーターやホスピタリティの規模、今回参戦したチームのことなどを同行した広報兼ヘルパーの目線で詳しくお伝えします。

※ ※ ※ ※ ※ ※ 

■参戦の経緯と、コロナ禍での海外渡航の苦労

 まずは渥美心がEWCボルドール24時間を戦うことになった経緯をお話ししたいと思います。

 2019年12月に開催されたEWCセパン8耐に参戦後、鈴鹿8耐だけでなくヨーロッパで開催されるEWCで走りたいと思い、多くの海外チームにコンタクトを取っていました。その中で興味を持って返事をしてくれたチームのひとつが『OG Motorsport BY Sarazin』でした。

 結局、2020年にはライダーが3人集まったため参戦は叶いませんでしたが、しばらく経ったボルドール開催2カ月前の今年7月に突然「ボルドールのライダーを探している」との連絡が。まさかの大チャンスにふたつ返事で引き受けたかったのですが、もし参戦するとなれば僅か2カ月しかなく、本人も普段はサラリーマンをしているため仕事を休ませてもらわなければなりませんし、参戦している全日本ロードレース選手権のオートポリスラウンドが同日開催であったため悩みました。

 また、コロナ禍でもあるのでフランスに行けるのか? ということも不明でした。最初は「きっと厳しいだろう……」とあまり前向きには考えていませんでしたが、改めて夢でもあった24時間耐久への参戦オファーが目の前にあるのに掴まないのは確実に後悔すると思い、全日本ロードで所属しているチームのTONE RT SYNCEDGE4413 BMWに確認を取ったところ快く承諾してくださいました。職場にも理解を頂きました。本当に感謝しかありません。その後しばらくしてボルドール参戦が決まりました。

 正式に決まったのは8月の上旬。出発まで残り1カ月しかありません。そこからは本当に毎日ドタバタです! コロナ禍ではフランス政府が発行している『衛生パスポート』を入手しなければ、入国してからサーキットだけでなくスーパーやレストランにも入れず、生活に困るとの情報がありました。

 住んでいる国内の自治体ではワクチン接種券すら配布されていなかったため急いで事情を説明して入手しました。入手してから住んでいる地域で接種できる病院を必死に探しましたが、接種できる枠が見つからなかったので、他地域で探して接種してもらいました。

 さらにはワクチン接種は1回目と2回目の間を2週間空けなければならず、接種後1週間を経過していなければ衛生パスポートを発行できなかったので8月の一週目あたりは「ワクチンを接種できなかったらどうしよう」という焦りでいっぱいでした。このような事情を理解し、受け入れてくださった医院には本当に感謝しかありません。

 そこからは、RSタイチ様にはレーシングスーツを、アライ様にはFIM規格のヘルメットを超特急で準備していただきました。

 EWCを含めた世界選手権ではFIM規格のヘルメットを使用しなければなりません。また夜間走行があるためヘルメットに反射ステッカーを貼り付けるレギュレーションになっています。車検で初めて知ったのですが鈴鹿8耐とは貼る場所や種類が違うようで、予備ヘルメットに貼ってあったものを張り替えて対応しました。

 また、以前よりEWC参戦の事で相談していた出口修選手やEWCチャンピオンである北川圭一さんには24時間の戦い方を伝授していただきました。睡眠や食事など身体の回復についてはとてもタメになったので実践しましたし、転倒しやすい時間帯の情報は事前に知っておけたことで身構えることができました。

 本当にたくさんの方に協力いただき無事に渡航の日を迎えることができました。

 ついにフランスに到着! 着いてから最初に感じたのは日本とのコロナ対策とのギャップ。日本では検温、消毒液、マスクの徹底がされていますが、フランスでは一回も検温をされることはなく、消毒液が置かれている程度で屋外でマスクをしている人はほぼおらず、屋内でのみマスクを着用しているようでした。

 ポール・リカール・サーキットでは、ワクチン接種証明書が確認されると、レースウイーク中に着けるリストバンドが配布されました。コロナ関係でのチェックはこちらのみで、全日本ロードで行われるような毎日の体調確認フォームの提出などは一切ありませんでした。観客も同様、衛生パスポートの提出のみだったそうです。

■サーキット到着! 国内レースと海外レースの文化の違い

 私たちが初日にサーキットに到着してすぐ、すべての規模感に圧倒されました。

 もともと、耐久レースには興味があったのでテレビやインターネットでこのような設備があるということは知っていましたが、それでも実際に目の当たりにするとそれぞれのチームが所有するトレーラーやホスピタリティなどが日本と比べると何もかもが大きいので感動しました。

 では、なぜここまでサーキット内の設備を充実させているのかというと、サーキット内でレースウイークを過ごすからです。

 私たちは、急きょ決まったスポット参戦なので、直前までサーキット内での宿泊場所が確保できるかわからず、サーキットから10分以内の場所に家を借りてそこで生活をしました。

 渥美心が参戦した『OG Motorsport BY Sarazin』は完全プライベーターチームですが、運搬用のトレーラーとホスピタリティ用のキッチンのついたトレーラー合わせて2台所持していました。

 運搬用のトレーラーは二階建てになっており、1階部分の半分は金属加工をするための機械が並んでいます。もう半分はライダーが荷物を置いたり、着替えたり、少し休憩できるほどのスペースに使われています。2階部分は主にメカニックが寝泊まりするための2段ベッドが4つで合計8台と、シャワー、洗面所、トイレがあります。その奥にはもう一部屋。この部屋ではライダーがフィジオセラピーを受けるための個室になっていました。

 もう一台のホスピタリティのトレーラーには、日本の一般家庭とあまり変わらないような設備が備わっているキッチンがあり、もう半分には同じく6台ほどのベッドとシャワー、洗面所がありました。

 これだけではなく、車で移動できる範囲から来たチームスタッフやライダーは、個人的にキャンパーを持参しそこで生活していました。

 日本で行われる鈴鹿8耐でもサーキット内で生活するチームも中にはありますが、ここまでの設備を持っているチームは私たちの知っている限りではなく、大抵のチームは近くのビジネスホテルなどに宿泊するのが一般的です。

 さて次はそこで生活するチームのホスピタリティや食事事情について紹介します。

 先ほど紹介したキッチンのついているトレーラーの横にはチームスタッフ、ゲストなどすべての人が食事を出来るほど広いテントがあり、カフェテリアのような空間になっています。他のチームも同様、このようなホスピタリティをそれぞれ持っています。

 ホスピタリティでは数人の女性のチームスタッフが、全員分の一日三食分の手料理をレースウィーク中は作ってくださいました。

 食事を頂いた感想は、フランスの家庭で出されるようなイメージの食事で、日本食もあっさりとした健康的な食事が多いですが、フランスの料理はもっとシンプルな味付けで素材の味を生かした料理がたくさん出されました。毎回の食事では必ずフランスパン、チーズ、ヨーグルトが決まって登場しました! さすがフランスです。

 私たちは外食した際にレストランで食べた食事よりもママたちが作ってくれる食事の方がとても口に合い、毎回の食事の時間がとっても楽しみでした。常に私たち日本人の体調を気にかけてくださり、時々希望の食事を聞いてくれて個別に提供してくれることもありました。

 このような気遣いもあり“初日を除き”、レースウイークは体調を崩すことなく万全な状態でレースに挑むことができました。

 先ほどの食事のお話で、“初日は除き”と書きましたが何があったのかというと……

 渥美心、ガストロ(急性胃腸炎)になってしまいました。原因は搬入日の夜にスーパーで買って食べたパテ(レバーや肉をペースト状に練り上げたフランス料理)だと思われます。

 筆者の私は、何事もありませんでしたが……。翌日から走行開始なのにも関わらず、初日の夜中にお腹の調子を崩し、朝にはマシにはなったものの完全には良くならなかったので、ホスピのママたちに相談してみると、とりあえずコーラを飲んで! とのこと。

 最初は言っていることが通じていないのかなと思いましたが、フランスではガストロになったらコーラを飲むのが常識なようで、恐る恐る本人が飲んでみると少し胃が荒れている感じが治ったとのこと。

 その後、メディカルセンターでも念のため見てもらうことになり、お医者さんからは舌の裏で溶かす胃薬と、茶色の泥のようなものを水で溶かした薬を処方してもらい、ここでも炭酸を少し抜いたコーラを飲むように言われたそうです(笑)

 その日の午後からは無事に回復しました。フランスで一番衝撃だったカルチャーショックのお話でした。

 渥美心が今シーズン日本で所属しているチームと比べるとピット内の設備にはさほど大きな違いはありませんが、耐久の設備でサインボードが全チーム電光掲示板だったり、夜間走行で使われるピット前の作業用ライトの設備を全チーム持っていました。

 24時間戦うために必要なチームスタッフは、鈴鹿8耐などと比べ多くの人数が必要ですが、人数がたくさんいるにも関わらずレースウイーク初日からそれぞれのスタッフにそれぞれの役割が明確に与えられており、各スタッフが任された仕事に誇りを持って周りもそれを認め合っている空気感をレースウイークを通して感じました。

■チームが常にポジティブな秘訣

 今回、このチームで初めて日本人ライダーが走ることを決断してくれた代表のファブリスはもともと24時間耐久を何度も経験したことのあるライダーで、現在はチーム名にもあるOG MOTORSPORTというカーラッピングやバイクの整備をする事業をされています。

 実際にチーム代表と会うのは今回のボルドールが初めてでしたが、連絡を取り合っている時からとても親身で丁寧な印象で、実際に初めて会ってみても想像通りの温厚で真面目な性格の方で、以前にも会ったことのあるような温かい雰囲気でした。

 また、初日のミーティングで彼が話してくれたエピソードがとても心に残る話だったので共有したいと思います。

『チーム全員がファミリーで、全員にリスペクトしよう。そしてライダーは常にNo plesure,Relax,Stay safety(プレッシャーを感じることなく、落ち着いて、安全に)』とライダーに話しました。

 その言葉の通り初日からチーム全員がとてもあたたかく私たちを迎えてくれて、レースウイーク中はうまく結果が残せず焦ってしまう場面でも常に冷静にチームが向き合ってくれました。

 上手くいかない時は頑張ったこと、出来たことに対してみんなが励まし合い、上手くいった時にはライダーやメカニック関係なく拍手が巻き起こるような常にポジティブな環境でした。

 レースだけでなく食事の場面でも、作ってくれたママたちにみんながハグをしたり、一日の始まりと終わりはビズ(頬には触れずキスするフリをする)と呼ばれる挨拶を交わしたりとどのような場面でも必ず感謝を伝える習慣があり日本の文化とはまた少し違う喜びの伝え方や、表現の仕方が私たちにはとても新鮮でした。

 そんな明るくて温かい空気感の中でレースに向けての練習に挑めたので、レースウイークを通して決勝に進むにつれライダーもメカニックもチーム全体的に日に日に自信がついていきポジティブなマインドになっていくことを私たちは感じました。

 そしてレースに向けてサーキットにいる人たちのテンションも徐々に盛り上がってきています!

※後編に続く


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みんなのコメント

1件
  • 欧州のレースは文化度が高いので人生で一度は見てみたい。
    あと、プレッシャーの綴りが違います。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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