今やファミリーカーの象徴となっているミニバンだが、その原点が日産車だったことを知る人は少ないかもしれない。連載第8回目となる日産ヘリテージコレクションの名車紹介では、ミニバン界のパイオニアである初代「プレーリー」(M10型)を取り上げる。
文/大音安弘、写真/池之平昌信
あまりに登場が早すぎた!? ニッポンの「ミニバン」先駆者として輝きを放った初代プレーリー! 海外からの評価も非常に高かったが……
■ビッグキャビン&ショートノーズのスタイルで登場!
1982年8月に登場したミニバンの先駆け的なモデル、初代プレーリー。当時の2代目スタンザ&オースターをベースに開発された
ワゴンといえば、ワンボックスカーを指す時代だった1980年代の乗用ワゴンは、商用バンをベースに快適化と上級化を図ったものであった。日産では、これを「コーチ」と呼び、小型ワゴン「バネットコーチ」と大型ワゴン「キャラバンコーチ」が、その役目を担った。
当時の乗用車におけるレジャーニーズの高まりを感じた日産は、既存の概念にとらわれず、RV(レクリエーショナルビーク)に求められる居住性や多用途性を最大限に追求しながら、走行性能や経済性などの基本性能も重視した新ジャンルのクルマを開発した。それが1982年(昭和57年)8月に投入した新型車「プレーリー」だった。
新たな時代のクルマの在り方のひとつを示す世界初のニューコンセプトカーとして提案された。それはまさしく現代のミニバンの基礎となるもの。商用車の延長であったワゴンのイメージを払拭し、セダンライクな運転感覚と走行性能、そして、最大8名乗車を可能とする広々した居住空間を実現すべく、まったく新しい「ビッグキャビン・ショートノーズ」デザインを採用。これは1.5ボックスと呼ばれるノーズ付きワゴンの先駆者でもあった。
初代プレーリーは広々としたキャビンを実現するために、駆動系がボンネット内に収まるFFレイアウトに加え、世界初のセンターピラーレスフルオープンドア構造を採用。このため、全高を1600mmに抑えながらも、後部座席への優れたアクセス性を実現していた。
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■多彩なシートレイアウトも初代プレーリーの特徴
多彩なシートレイアウトも初代プレーリーの持つ美点であった
シートレイアウトも多彩で、フロントベンチシートによる3+3+2の8人乗りをはじめ、フロントセパレートシートとなる2+3の5人乗りの乗用仕様に加え、プロユースを意識した前席のみの3人乗りと3+3の6人乗りも用意された。
パワートレーンは、主力となる直4、1.8LのCA18型エンジンとFF専用開発の直4、1.5LエンジンのE15型を搭載。フロントベンチシートとなる8人乗り車と6人乗り車は、コラムシフトの4速MTと3速ATを設定。また、プロユースの3人乗り車はコラムシフトの4速MTのみ。
フロントセパレートシートとなる5人乗り車は、フロアシフトとなり、5速MTを基本とするが、1グレードのみフロントベンチシートの5人乗り車があり、こちらはコラム式3速ATとされた。
サスペンションはフロントがストラット式、リアが広いフロアを実現する目的でフルトレーリングアーム式を採用していた。モデル構成は、乗用仕様のセダンとビジネス仕様のエステートを用意。発売時の価格はセダンで119万~134万5000円(東京地区MT車価格)であった。
■登場から約3年後にビッグマイチェンを実施
初代プレーリーマイチェン前モデルのリアビュー。マイチェンではリアサイドガラス部が拡大されている
1985年(昭和60年)1月のマイナーチェンジでは、フェイスリフトを含む134項目の改良を加えたビッグマイナーチェンジモデルを投入。エアダム一体式大型樹脂バンパーを採用し、より現代的な顔付きとなった。
また、外観上の特徴のひとつとして、リアサイドガラスを大型化し、ルーフ部まで拡大している。同年9月には、初の4WD車を追加。パートタイム4WDは、車内のボタンで切り替えが可能となっており、エンジンも2LのCA20S型を搭載し、性能を向上。
4WD車はフロントセパレートシートの7人乗り仕様のみで、フロアシフトを採用。トランスミッションでは、乗用4WD車で日本初となるOD付4速ATを採用したことが自慢だった。1988年(昭和63年)9月に2代目へとバトンタッチし、モデルライフを終えた。
■センターピラーレス構造で見通しのよさと抜群の開放感が特徴
初代プレーリーはセンターピラーレス構造を採用しており、ボディ剛性が心配になってしまうほどの見通しのよさだ
日産ヘリテージコレクションにある展示車は、マイナーチェンジ直前の1984年式「JW-G」で、8人乗り仕様の最上級グレードにあたる。そのボディサイズは全長4090×全幅1655×全高1600mmとコンパクトだが、その背高キャビンを効率よく使い、3列8人乗りを実現している。
自慢の大開口ドアを左右ともにすべて開くと、驚くほどの見通しのよさだ。ちょっとボディ剛性が心配になるほどで、実際にセンターピラーレス構造による重量増とボディ剛性の低さが指摘され、販売は不振に終わっている。
しかし、優れた乗降性と抜群の開放感は、とても魅力的に感じる。きっと、ドライブ先でドアを開け放ち、後席に座って景色を楽しんだユーザーもいたことだろう。
ガラスエリアが広く、ピラーも細いため、運転席からの視界にも優れる。また、ラジオもアナログ式でカセットデッキも備わっている。パワーウィンドウも後付けらしく、ドアトリムにアンバランスなボックスユニットが見られた。
後付けドライブコンピューターのカーメイト製「カートロニクスプレイセンサーCX-20」
ふとダッシュボードに目をやると、不思議な機械が……。調べてみると、カーメイト製「カートロニクスプレイセンサーCX-20」という機種であることが判明。いわゆる後付けのドライブコンピューターだ。かつてのオーナーがドライブ好きだったことを想像させるアイテムだ。
■ミニバン先駆者として評価すべき1台だった
日産ヘリテージコレクションに収蔵されている1984年式初代プレーリーの運転席に座る筆者
日本での商業的な成功こそなかったが、初代プレーリーはそのアイデアが評価され、1987年の「昭和62年度全国発明表彰」で特別賞である「通商産業大臣発明賞」に輝いた。
さらに、北米や欧州などの展開によって海外からも高い評価を受けており、1982年(昭和57年)にフランス『オートモビル誌』の「イノベーション賞」に、昭和61年にはカナダカーオブザイヤーの「バン・トラック部門賞」を受賞している。
ミニバンの先駆者として、デザインや機能的なチェレンジを行い、その市場を開拓したプレーリーは、歴代ともに地味な存在で終わったが、日本の自動車史で語り継ぐべき、重要な1台だったといえよう。
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みんなのコメント
いい時代ですね。今考えたら凄くいいのに!
現在のミニバンとは基準の相違がありますが、日産が本当に元気な時代のモデルなのに見掛ける事が少ないモデルでした。
まだクーペやセダンが売れている時代でもありアウトドアや車中泊などといったスタイルもなかった時代だったので、ズレがあったのかもしれません。
現在とは安全性などの基準に相違はありますが、そのコンセプトは今に通じる所が感じられるモデル。
これが後のセレナやラルゴに繋がったのかもしれません。