■モータースポーツの現場でカーボンニュートラルを実践
2050年にカーボンニュートラルを実現させるために「マルチソリューション」を掲げるトヨタですが、今回は「水素技術を活用して内燃機関の可能性を探る」という未知への挑戦をおこないました。そのステージとして選んだレースが「富士24時間耐久」でした。
この模様はすでにTVや新聞、ネットメディアをはじめとするさまざまなメディアで紹介されていますが、筆者(山本シンヤ)はこの結果を生んだ裏側が非常に重要だと考えています。
そこで今回、筆者がレースウィーク前から現場に出向いて、自ら「見て」、「聞いて」、「感じた」ことを紹介していきます。
【画像】新型「ハイエース」発見! 過酷な24時間…水素エンジンの壮絶な戦いを見る(27枚)
この挑戦のスタートは、2021年5月20日の専有走行からです。筆者は午前中に別件の仕事を終え昼過ぎに富士スピードウェイに到着。
メディア申請をおこなった後に44-45番ピットに向かうと、チーム関係者に「シンヤさん、一番乗りですね!!」と声をかけられました。
チームに余裕があるときこそ取材のチャンスというのが筆者の耐久レース取材の知恵です。
ピットはもちろんパドック周り設営もすでに完了していますが、実は筆者はこの時点で「違和感のない違和感」を感じていました。
それはパドックで聞き慣れた発電機の音がしないことです。実は今回、水素エンジンのマシンを走らせるだけでなく、モータースポーツの現場でカーボンニュートラルを実践させています。
燃料電池電気自動車(FCV)の「MIRAI」とFCVにコンバートされた「グランエース」がパドック周りの電源を供給、さらにはチーム関係者のお腹を満たすためのキッチンカーには、日本未発売の「ハイエース(300系)」が用意され、これもFCVにコンバートされたモノです。
グランエース/ハイエースは、MIRAIのパワートレインを水平展開した試作車ですが、ベース車のレイアウトを活かした搭載方法になっています。
開発者は「色々課題はあるのは承知ですが、まずはカタチにして実際に使ってもらいカイゼンを続けています」といいます。
さらに、交流から直流に変換するためにはホンダの発電機を使っていますが、現場にいたモリゾウ選手(トヨタ・豊田章男社長)にこの話をすると、「メーカーを超えたコラボ、これもルーキーレーシングだからできること」と教えてくれました。
■GRヤリスとは違う、水素エンジン搭載のカローラスポーツ
マシンは午前中の専有走行1回目を終え、午後の専有走行2回目にむけてメンテナンス中でした。
片岡龍也監督は「GRヤリスのときとは違い、レーシングメカニックと水素を取り扱うメンバーの融合です。水素メンテのときは通常メンテが出来ないので、当初は作業も遅くまでかかっていましたが、今はチームワークが上手く結束は高いです」といいます。
シェイクダウン時に真っ白だったボディはブルー/イエロー/ホワイトの迷彩であるルーキーレーシングカラーが施され、ボディの前後左右には「TOYOTA GAZOO Racing」のロゴも貼られています。
豊田社長は「私が両方のトップだから当たり前だと思うかもしれませんが、実は歴史的なことです。私自身が(元祖)GAZOO Racingを立ち上げたときのトヨタはトヨタロゴを使うことを許してくれませんでしたが、今はそんな垣根はありません。ルーキーレーシングとTOYOTA GAZOO Racingが組んで未来を創る、恐らく10年後の景色は変わると思います」と説明。
細かく見ると、シェイクダウン時とは異なる部分も。エンジン周りは吸気ダクトの変更やヘッド周りにパイプが追加されているのがわかります。
さらにシェイクダウン時のフィードバックと耐久テストの結果を踏まえて、エンジン回転数は500rpmアップの6500rpmに変更。
加えて、心地よいサウンドのためにエキゾーストもアップデートされています。インテリアも配線や補機がむき出しだった助手席部はカーボンパネルが貼られてスッキリした印象です。さらに水素充填時に苦労しないために、レーシングカーとしては珍しいハンドル切れ角アップもおこなわれています。
短い期間ながらもセットアップも煮詰められ、佐々木雅弘選手は「GRヤリスでの経験を元に4WDの駆動配分も活用しながらフィードバックをおこなっています。このカローラはGRヤリスよりも200kg重いですが、ハンドリングのバランスはいい所に来ていると思います」といいます。
さらにモリゾウ選手は「佐々木ドライバーを中心にモリゾウが乗りやすいように味付けしてくれています。私はテストドライバー、彼らはプロのレーシングドライバーという違いはありますが、双方が妥協なく努力と執念でクルマは変わってきています」と捕捉してくれました。
実はドライバーの1人である小林可夢偉選手はS耐初参戦です。そのため、ほかのルーキードライバーと一緒に初心者講習を受けています。
小林可夢偉選手は「僕がいちばん24時間耐久レースに出ているはずなんですけどね」と笑いながら語ってくれましたが、一緒に初心者講習を受けた別のドライバーに話を聞くと、「先頭で熱心に話を聞く、とくにFCY(フルコースイエロー)について熱心に質問をしていたので、『誰だろう?』と思ったら『えっ、可夢偉選手だ!?』」と、ビックリしていたそうです。
ちなみに今回の要ともいえる水素充填はレイアウトを含めてカイゼン、観客席からも見えるようになっています。
豊田社長は「電動車もそうですが、インフラと走るクルマの接点はあまり見られていないので、充填メンバーの耐久戦も含めてぜひ見ていただきたい部分です。ただ、これがそのまま世の中に出るわけではありません。今回はあくまでも大実験室ですから」と語っています。
※ ※ ※
水素は、福島県浪江町にある再エネルギーを利用した世界最大級の水素製造施設「FH2R」で製造されたグリーン水素を使用。
ちなみに移動式水素ステーションで使う発電機の燃料もバイオ燃料と徹底しています。
豊田社長は「浪江ウォーター、安室奈美恵ではありません」と親父ギャグと共にアピールしていましたが、これにも理由がありグリーン水素の原料は浪江町の「水」を使っています。
■超豪華独占インタビュー! モリゾウ選手/小林可夢偉選手/片岡龍也監督、そしてGRカンパニーの佐藤恒治プレジデントの豪華メンバー集結!
5月21日、本来なら予選日ですが、降り続く雨は勢いを増し、12時から始まる予定だったAドライバー予選はディレイに継ぐディレイ、そして天候回復が見込めないという判断から予選は中止されました。
各クラスはシリーズランキング順で決定されましたが、「ORC ROOKIE Corolla H2 concept」のグリッドはこれまでのタイムを考慮した結果、第2グループのST4とST5の間です。
早めに切り上げるメディアも多いなか、筆者を含めた数名はしぶとく居残り、その粘り強さの甲斐あって、チームがインタビューセッションを用意してくれました。
何とモリゾウ選手/小林可夢偉選手/片岡龍也監督、そしてGRカンパニーの佐藤恒治プレジデントといい錚々たる面々です。
――20日のフリー走行で走られたモリゾウ選手のファーストインプレッションは?
モリゾウ:GRヤリスと比べるとパワー的には少ないですが、聞かれなければ水素エンジンとはわからず、違いは「意識」だけですね。ハンドリングもGRヤリスに乗っているような感覚です。
――音と振動が好きなモリゾウ選手ですが、その辺りに関しては?
モリゾウ:水素サウンドは甲高い音で品があります。まだトライ&エラー中ですが、そのうち出来上がって来ると思います。
――今回の参戦に関して、FIAと一緒に規則を作ったそうですが。
モリゾウ:モータースポーツの世界もカーボンニュートラルが求められています。
ただ、レースにさまざまなカテゴリーがあるように選択肢を広げる必要があります。つまり「フォーミュラEだけではないよね」と。
――モータースポーツに投入することで、開発スピードも大きくアップすると思います。
モリゾウ:開発スピードが上がると、当然「実用化」という話になりますが、私はその出口はモータースポーツだけではないと思っています。それは商用車かな……と。
――トヨタの水素エンジンの挑戦は、いわば「内燃機関に水素の知見を与える」ですが、後に続くメーカーは増えて欲しいですか?
モリゾウ:実はまだ自信を持って「どうぞ」といえる状況じゃないです(笑)。
しかし、こういうタイミングでこんなことができるトヨタに変わったということです。回答がないからこのような現場が必要です。
――社長はニュルのときもそうでしたが「24時間」にこだわっているように感じます。それに関してはどうでしょうか?
佐藤:実は2020年11月に乗っていただいた仕様のエンジンであれば3時間だったら持っていたと思います。
そのため、逆をいえば3時間でのレースなら何もしなかったと思います。ただ、「24時間に出るぞ」といわれてテストをしたら持たなかった。
目標が明確だと開発スピードは明確に上がります。すでにシェイクダウンのときからも改良され特性も変わっていますし、現在もさまざまな検討やデータ取りをしています。そんな時間軸で動いています。
――GRヤリスから水素エンジン搭載カローラへのマシン変更、片岡監督の本音は?
片岡:GRヤリスは1年かけて勝てるマシンに仕上がりましたが、菅生で「カローラに替えます」という話を聞き、頭の中は真っ白になりました(笑)。
誰も挑戦したことのない水素エンジンで24時間を走らせる、正直不安だらけでした。
ただ、僕らの知らない所で準備をしてくれていたので、テストをすると大きなトラブルなく走る……。「意外とこんなに順調なのね」と驚きました。
――可夢偉選手が、今回の挑戦のいいだしっぺだと聞いていますが?
小林:豊田社長と一緒に蒲郡の研修所で試作車に乗りました。ダートで走らせましたが、トルクの立ち上がりが非常にスムーズで、「逆にダートではガソリン車よりも向いているのでは?」と思ったくらいです。
僕はWECをハイブリッドで戦っていますが、「ハイブリッド=プリウス」のイメージが強かったこともあり、水素エンジンが「スポーツにも使える」を証明するまで時間がかかりました。
水素エンジンはBEVと違って音がします。これはモータースポーツとカーボンニュートラルが共存できると直感しました。
――可夢偉選手が進言し、社長が決断し、佐藤プレジデントが苦労し、そして片岡監督が驚いた……と(笑)。ただ、この短期間でこの状態になったのは、色々なモノの積み重ねだと聞いています。
豊田:WRC参戦でコクピットの強度の持たせ方がわかり、MIRAIを開発したことで水素タンクの耐久性・強度がわかりました。
そして、デンソーのなかにインジェクターをコツコツやっていたエンジニアがいました。
また、ルーキーレーシングが去年壊しては直しの繰り返しで普通では出ない不具合を短時間で出し、モータースポーツの現場で使える適切なパーツや賞味期限を知ることができた……などなど、色々なことが重なった結果ですね。
佐藤:モータースポーツ起点はホントに大事なことです。GRヤリスはモータースポーツからの量産車開発にトライしたモデルですが、そのなかでもあのエンジンは高温/高圧に耐えられる基本素性を持っていたことが水素エンジンに役立ちました。
そこにデンソーのインジェクターが合体したわけです。さらにインフラ開発も進むと思います。
今回は75MPaで水素を入れますが、タンクの残圧によって入り方も変わります。ここまで頻繁な充填も例がないので、その辺りも鍛えられるはずです。だからこそ、FIAとやるわけです。
――表だけ見ると、やっていることが神がかりのように上手く重なったように見えますが。実際は表に出てこない無数のトライ&エラーをしているわけですよね?
豊田:私が「もっといいクルマづくり」を目標にしたのは、そこにあります。つまり、現場はそのためなら「何をやってもいい」わけですから……。それが色々合わさったひとつの例が、水素エンジンなのです。
――トップが「オレが責任を取る」といってくれるのは、現場は嬉しいですよね。
豊田:だって僕が乗るんですから(笑)。
■結果は無事完走も…じつはさまざまなトラブルを乗り越えていた
5月22日、決勝日は雨が止んだものの曇り空。15時のレーススタートに先駆け、ルーキーレーシングはメディア向けに記者会見を実施。
モリゾウ選手を含む全ドライバー、片岡監督、GRカンパニーの佐藤恒治プレジンデントが出席しました。
自動車メディアはもちろん、経済誌/新聞、さらには地上波すべてのTV局が来るなど、普段のS耐では考えられない報道陣の数に、この挑戦への注目度の高さを改めて実感しました。
モリゾウ選手は「水素エンジンでレースを走りますが、ゴールは『カーボンニュートラル』ということ」、「モータースポーツの場で選択肢のひとつを実証実験できる場が訪れたと思っている」。
「スーパー耐久の理念『モータースポーツを起点としてもっといいクルマづくりに活用してほしい』は、ルーキーレーシングとTOYOTA GAZOO Racingと合致している」など、トヨタ自動車社長や日本自動車工業会会長の顔ものぞかせました。
そして、15時に決勝がスタート。ここまでは比較的順調に見えた「ORC ROOKIE Corolla H2 concept」でしたが、テストでは起きなかったトラブルが発生。
ちなみにS耐ではテレメトリーシステムの使用は禁止ですが、水素エンジンの開発ということで、特別に許可を受けています。
エンジニアはピットから離れたモビリタ内(富士スピードウェイの施設)でエンジンの状況を常時チェックしていましたが、「筒内圧上昇」の数値が。
水素エンジンの1番の課題は異常燃焼で、その可能性があるということでピットイン。
各部を外してチェックをおこなうが問題はなし。どうやらセンサー周りの問題だったようですが、念には念を入れてインジェクターを含む部品を交換してコースに復帰しました。
続いて「水素濃度上昇」という数値が出たため再びピットインしてチェックです。
水素漏れは絶対に起きてはならないので心配されましたが、振動でブローバイをインテークに戻す配管が外れたことで大気解放状態に。
ブローバイに含まれる僅かな水素をエンジンルーム内のセンサーがキャッチしたようです。
逆をいえば、センサーの精度の証明でもありました。こちらも修復をしてコースに復帰します。
通常のレースチームであれば、トラブルにもよりますが、早くコースに戻すために応急処置もしくは騙し騙し走らせるという手段を取ることもあります。しかし今回は開発のために参戦していることから状況をシッカリ見極め、対策をシッカリおこなったうえでコースに戻すが基本です。
その後、筒内圧上昇の症状が何度か出たようですが、その度にピットインしてチェックをおこなっていました。
夜間走行を始める頃には、「一旦ホテルに戻って寝ます」というメディアがポロポロと。
気が付くとTOYOTA GAZOO Racingが用意した取材ルームには筆者と同業の河口まなぶ氏のみに。
耐久レース取材は「いつ、どこで、何が」起きるかわからないので、筆者は「寝ずに見届ける」を基本にしています。
とはいえ、睡魔には勝てないときもあるので、日付が変わる前に様子を見て「何もなければ交代で寝ようか」と相談していた矢先に、ダンロップコーナー付近でマシンストップという情報が入りました。
慌ててピットに行くとマシンはすでにピットで修復が開始されていました。ドライバーの松井孝允選手は「システムを再起動するとエンジンが始動したので、戻ってくることができました」といいます。
細かい内容はわかりませんが、ある部品の破損で電気系統のトラブルが発生したようです。
致命的ではないとはいえ、部品の修理に思った以上に時間が掛かってしまったこと、さらに電気系統ということで念には念を入れて周辺部品はすべて交換、さらにすべての機能がシッカリ作動するかのチェックを含めた大手術となりました。
筆者と河口まなぶ氏はそのすべてを見ていたのですが、驚いたのは「夜勤はプロに任せる」といっていたモリゾウ選手が心配して駆けつけ、メカニックやエンジニア、そしてドライバーに声をかけていたことです。彼らは「絶対に復旧させます!!」と。
さらに驚いたのは、部品の修理に小林可夢偉/松井孝允選手も加わっていたことです。
実は2020年の菅生でのクラッシュからの生還時も、同じような光景がありました。
トラブルは起きてほしくありませんが、トラブルが起きたことで、ルーキーレーシングの「チームであると共に家族のような存在」、「心ひとつに」という部分が垣間見えた瞬間でした。
約4時間後の3時30分、コースへと復帰。ピットでは自然と拍手がでました。それ以降は、リアモニターのブラックアウトなど小トラブルは起きましたが、パワートレインはこれまでのトラブルがウソだったかのように順調な走行を続け、メカニックも食事や休息を取れる余裕が出たようです。
10周から13周で1回おこなわれる水素充填も回数を重ねる頃にカイゼンが進んでいます。
実は筆者はタイムの計測をしていましたが、記念すべき1回目は6分30秒ほど掛かっていましたが、23日に何度か計測すると5分30秒から6分の間で完了と、明らかに早くなっていました。
日中はコースサイドで走りもチェックしてみました。トヨペット100Rコーナーで走りを見ていると、コーナリング姿勢は非常に安定しているだけでなくコーナリングスピード自体もST2/3のマシンに負けていない印象です。
更に印象的だったのはFCY(フルコースイエロー)解除のときでした。
50km/h制限が解除されどのマシンも全開走行に戻るのですが、「ORC ROOKIE Corolla H2 concept」は、ほかのクルマと見比べると明らかにダッシュ力がいいのです。
これは水素エンジンのトルクフルかつレスポンスの良さが活きていることが可視化できたように思いました。
■レース終了後に豊田社長が語ったこととは?
レース終盤、このプロジェクトを統括する伊東直昭氏はこれまで起きたトラブルについて、次のように話しています。
「今回のトラブルはすべて補機類の問題で、エンジンベンチでは起きなかったことが実際に走らせると起きた……ということです。
ただ、エンジン本体に関してはまったく異常なしで、我々がもっとも心配していた『燃焼コントロール』に関しては、現状では100点といっていいレベルだったと思っています」
今回のレースはエンジントラブルが続出し、途中でエンジン交換を強いられたチームもいくつかありましたが、それを考えるとすべてが手の内ではない水素エンジンがここまでトラブルフリーなのは、まさに大健闘といってもいいかもしれません。
チェッカーまであと1時間を切った辺りで、石浦宏明選手から足回りに異変との連絡が入ります。
すぐにピットインしてチェックをおこなうと、リアサスペンションを固定するボルトに異常を発見。
予期せぬ部品のため予備はなかったのですが、GRヤリスのプライベーターチームへのサポートで来ていたGRヤリスの開発責任者の齋藤尚彦氏が乗ってきたGRヤリスから同部品を取り外してレースカーに装着。
GRヤリスのリアセクションはカローラと同じGA-Cプラットフォームなので流用可能だったのです。
そして、最後のドライバーはモリゾウ選手です。
「ニュルのときから『最後のドライバーをやってください』といわれていましたが、当時は足を引っ張っていたので、『自分が走って抜かれたら嫌だな』と思っていました。
でも、最近は個性豊かなドライバーのなかで『私が1番安全なドライバー(笑)』として、どんなときでもゴールまで運ぶので引き受けています」とのことでした。
残りの時間と航続距離を逆算して残り20分前にコースイン。同じチームのGRスープラを駆る豊田大輔選手が追い付き、ここからはルーキーレーシングの2台のランデブー走行となり、3時にゴールしました。
●周回数:358周(1634km)
●ファステストラップ:2分4秒059
●走行時間:11時間54分
●水素充填時間:4時間5分(35回)
これが世界初となる純粋な水素エンジン搭載のレーシングカー「ORC ROOKIE Corolla H2 concept」が戦った「スーパー耐久シリーズ2021 Powered by Hankook 第3戦 NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース」正式記録です。
実は「ST-Q」クラスは章典外ですが、この世界初の快挙に対して「何らかの賞を上げてもいいのでは?」と思いました。
レース後に記者会見がおこなわれましたが、まず豊田社長はこう語りました。
「長いストップタイムがありましたが、この場にいなければこれらのトラブルは出ませんでした。
今回24時間走り抜き、データを得て、何より会社の枠を超えて経験を積むことができた人材がいたことは、今後の未来づくりにとっては良かったことだと思っています。
10年後、20年後の未来を創るのは規制や目標値ではなく、『意志ある情熱と行動』、そして『会社を超えた取り組み』が変えていくことを実感しています。
レース前、レース中、レース後にさまざまな人からメッセージをもらいましたが、未来づくりはトヨタだけではできません。
550万人の仲間に加えて、水素社会を知らない人、クルマに興味のない人、モータースポーツに興味のない人が『未来の扉』を開け、我々と共に旅を始める準備ができたレースだったと思っています」
一方、モリゾウ選手は「私が唯一、ほかのドライバーより優れていた点は『燃費』でした。それはアクセルを踏んでいない証拠かもしれませんが(笑)」と謙遜していますが、ほかのドライバーよりも多くのスティントを担当し、ほぼプロドライバーと変わらないタイムで走っていたのはいうまでもありません。
S耐初参戦だった小林可夢偉選手は「これまで『勝つため』にレースをやってきましたが、今回初めて『ゴールまで届ける』レースをしました。そこで思ったのは、これこそが『クルマの原点』だな……と。かつて耐久レースは走り切るのが難しく『走り切った人が勝つ』だったと思います。そう思うと、今回水素エンジンでチェッカーを受けたのは優勝に匹敵すると思っています」。
石浦宏明選手は「順位だけ見ると競っていないように見えるかもしれませんが、ドライバー目線でいうと『コーナーで抜いたり、ブレーキング競争をしたり』と、ほかのマシンと抜きつ抜かれつのレースができていました。それが初戦からできたことは凄いことです」と、二人共に水素エンジンの凄さと可能性を語ってくれました。
開発段階から携わっていた佐々木雅弘選手は「決勝を走って、燃費/温度/エンジンの状態など、長く走ったことで良い点/悪い点が見えました。この課題をどう克服するかが大事だと思っています」と、すでに気持ちは次のステージに向かっているようでした。
※ ※ ※
このように、多くの人の記憶のなかに大きく刻まれた2021年の富士24時間。
ただ、大事なことはここがゴールではなく「カーボンニュートラルの実現」に向けて「水素技術を活用して内燃機関の可能性を探る」という旅の「スタートラインに立った」ということです。
今のトヨタのスピード感であれば、今回の結果を受けて成長する姿をすぐに見ることができると思っています。
そして、いつの日か水素エンジンが当たり前になった時代に、「あのときはね……」と、歴史の証人として語ってみたいものです。
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トヨタがやってくれたということが大きい。社長がモリゾウさんじゃなきゃやらなかったかも。