世界的システムサプライヤーのZFが、2019年11月下旬に富士スピードウェイで自動車メーカー向け試乗会を開催した。その最終日に参加できる貴重な機会を得ることができたのでお伝えしよう。
これはB to Bの試乗会で、日本のカーメーカー向けにZFが提供するシステム、パーツの購買、紹介イベントだ。したがって、参加者はカーメーカーの開発エンジニアたちで、これから紹介する技術やパーツの情報は専門的であり、詳しい人でないと難しいかもしれない。ということで早速お伝えしよう。
この動画はZFのデモカー「フライングカーペット」で、瞬時に車高が変わる油圧のアクティブダンピングシステムを搭載。路面の凸凹を瞬時に吸収し、フラットライドが可能になる自動運転車向けに提案したものだ。
システムサプライヤーの営業イベント
この自動車変革期においてサプライヤーの果たす役目も重要になってきている。特に自動運転の分野や統合安全といった分野では、サプライヤーなしでは成立しない領域だ。ドイツ・ZFは今回のテストデーを「Vision Zero Days」とタイトルし、すぐにでも搭載できる技術やシステム、そして将来にむけてのコンセプトモデルを展示、試乗体験を通じてカーメーカーに提案していた。
来場したカーメーカーは全部で9社だという。乗用車メーカーを中心に商用車も加わっていたと思うが詳細は不明だ。また、来場のエンジニアも250名が参加し、あるメーカーでは50名を超えるエンジニアが参加したという専門家の中では注目のイベントだ。
今後発売される日本のクルマには、この日展示、体験したパーツやシステムが組み込まれる可能性は高く、自動車通としてはぜひ、把握しておきたい情報でもある。ここでは、車両制御、自動運転、統合安全、電動化という4つの分野ごとに見ていくことにしょう。
車両制御Vehicle Motion Control分野
統合型ブレーキコントロール=IBC:Integrated Brake Control
IBCはブレーキバイワイヤのためのユニットだ。ZFでは2タイプを展示しワンボックスタイプとツーボックスタイプがあった。メインはワンボックスタイプで、ブレーキブースター、ESC、ABSなどの制御を含め一体型となったもの。
これは電動車やハイブリッド車向けで回生ブレーキと油圧ブレーキの協調制御がやりやすいメリットがある。油圧は電動で昇圧でき、ブレーキペダルの擬似的な踏力をペダルストロークから作ることができ、ラバーとスプリングを使用してペダルフィールを作ることができる。
ペダルストロークや踏み込むスピードなどから必要な圧力を作り、内蔵するシミュレーターで踏み応え感をつくることができる。通常、ペダルフィールはキャリパーやブースターといったハードパーツに依存しているが、そうしたハードパーツの影響を受けずに、自由に設計できるメリットがある。
展示のIBCはすでに量産されており、キャデラックのエスカレードなど大型SUVといった車重の重たいモデル用だったが、試乗では小型版のIBCをテストできた。試乗車は通常のガソリンモデルのスバル・フォレスターと、EV車は中国上海汽車のマーベリックでテストできた。
いずれもペダルタッチに違和感を感じる部分はなく、EV車のマーベリックでもこれまでの油圧ブレーキとの違いはわからない。また、ABSを作動させるような急ブレーキのテストでは、ペダルへのキックバックは皆無で、ドライバーは常に同じ踏力でペダルを踏み続けることができた。またブレーキのリリースでも特に違和感はなく、素直に減速感を弱めることもできた。
また、ワンボックスタイプはフェールセーフ機能も内蔵し、メカニカルで負圧をあげることが可能。万が一電気系統のトラブルが出た場合でも500Nmで0.6GまでのGを立ち上げることができるということだ。
周波数感応式ダンパー=Selective Damping Control
SDC3は周波数によりメカニカルに減衰をコントロールするダンパーで、第3世代になる。通常のピストンバルブと追加のバルブがあり、通常のバルブにプリロードをかけ、バルブが開きにくくなるような油圧油路をつくり減衰力を上げている仕組みだ。つまり、ある領域までは通常の減衰力を発生させているが、その領域を超えるときに通常のバルブにプリロードをかけることで新たな減衰力を発生させる仕組みだ。
だから低周波のときも減衰力は追加されるので、通常の減衰力は低く設定でき、乗り心地を損なわないで運動性能を維持することができるというダンパーになる。第2世代と比較してより周波数への依存度を高め、常に路面の変化に追従した減衰を出すようにできたという。さらに、切り替わりの変化点が急変しないようにし、不連続感や違和感の出ないように大きく改善できたということだ。
このSDC3ダンパーにはCH-Rの試乗車で体験し、現在標準で装着されているダンパー(市販車SACHS製を装着)と、このSDC3との乗り比べができた。テストコースは一般道で40~50km/hでの走行時の乗り心地を比較したが、全ての領域で上回る性能を体験した。
もともとCH-Rはスポーティな味付けで低速域での硬さがあり、乗り心地は良い方ではない。しかしスポーツドライブをするとその減衰の高さが発揮され、気持ちよく走れるように車両姿勢をコントロールすることができるという特徴がある。
このSDC3装着車になると、その乗り心地の悪い低速域でもしっかりと減衰され、丸くいなされていく乗り心地を味わう。そしてコーナリングなどでのロールやピッチもしっかりと減衰されるので、スポーティさも失われていないことも感じられた。このSDC3は、開発が終わった直後ということで、これからカーメーカーへのセールスが始まるタイミングということだ。
CDCの第2世代ダンパー
従来のZF(SACHS) CDCの第2世代となるダンパーで、マグネティックコイルを持ち、電流の強弱でバルブの流路を開いたり、閉じたりする電子制御式ダンパーだ。
このマグネティックコイルを内蔵するタイプと外部取り付けとするエクスターナルタイプの2タイプが展示されていたが、使い分けとしては車両のレイアウト次第で対応できるように2タイプ用意したという。
つまり、内蔵タイプはストローク長がエクスターナルタイプより短くなるため、ボンネットの低いスポーツカー向けで、エクスターナルはSUVや高級車に向いているという。どちらも価格的には同等ということで、カーメーカーの都合で選択できるようになっている。ちなみにインターナルタイプは韓国で生産され、エクスターナルはメキシコで生産されているため、輸送コストには違いがあるという裏情報はあった。
いずれも微低速域の乗り心地を確保しながら、スポーツドライブなどの車両姿勢コントロール性が高いことを目的にしたダンパーで、メカニカルタイプのSDC3か電子制御式CDCかという選択肢を提案していた。
フライングカーペット
ZFのコンセプトカーでリヤ操舵、アクティブダンピング、前述のIBCなどを装備したモデルで凸凹を吸収する油圧アクティブダンピング機能を持っている。またリヤ操舵機能=AKC:Active Kinematic Controlは低速域では小回り、高速域ではスタビリティという位相変化だけでなく、高速域でも同位相にし、車両がななめに移動するような動きを再現している。
40~50km/hで走行しているときに、フロントタイヤとリヤタイヤが同じ方向にタイヤが操舵されるので、車両は横へスライドするような動きになり、これまで体験したことのないような新しい、車両運動姿勢ということになる。
このコンセプトカーはレベル3以上の自動運転車に対する提案で、ドライバーがセカンドタスクのできるレベルの自動運転車の場合、従来の車両の動きでは、ヨーの発生によってクルマ酔いが発生する。そうしたヨーの発生を抑制しつつ安全に走行するシステムという位置付けでのコンセプトモデルになる。
ちなみに、リヤタイヤは最大8度の切れ角を持っている。が、搭載するモデルのリンク形状次第で最大切れ角は変更できる。また、アクティブダンピングもリヤステアリングシステムもカーメーカーの考える領域で制御変更が可能で、スポーツカーにも適応できるし、無人車両にも搭載が可能になるという提案だ。また、このAKCはすでに量産しており、ポルシェのパナメーラにも搭載されている。
さらにこのコンセプトカーには、mSTARS(エムスターズ)をリヤアクスルに搭載し、電動化されている。こちらはモーターユニットをリヤのビームに搭載しており、モーター走行している。このmSTARSは以前からZFのポートフォリオとして存在しており、ICE搭載のFF車を容易にEV化できるユニットという位置付けのものだ。
統合安全Integrated Ssftyの分野
オペル インシグニアのテスト車で同乗体験をした。これは主にシートベルトの機能で、自動運転レベルに応じて、ドライバーへの注意喚起をシートベルトでも可能になるというデモだった。
ドライバーへの注意喚起としてはシートベルトが振動して知らせ、危険度によってシートベルトの締め上げを自動で赤キョック的に行なう。その締め上げも4段階のレベルで設定が可能で、振動も4パターンほど設定していた。
こうした事故直前に締め上げるシートベルトによって、サブマリン事故、つまりドライバーや助手席の乗員がダッシュボードの下に潜り込んでしまい、怪我をすることを未然に防ぐことが可能になるという。そのため、ニーエアバックの有無の選択肢にメリットがあるという。
自動運転 Automated driveの分野
将来の自動運転に向けて、カメラ、レーダー、ライダー、そして車載コンピュータの展示と試乗車が用意されていた。
特にS-CAM4.2といわれるシングルカメラは、従来52度の画角だったものが100度までワイドになった。これはNCAPのさまざまなシナリオに対応するためで、レベル2でのレーンチェンジ機能を盛り込んだり、交差点を曲がる時に人物の検知などの要求に対応するバージョンへとアップデートしたものだ。
またレーダーでは240mまで検知するロングレンジレーダーも2021年に納品が始まるということだ。そしてLider(ライダー)はIBEO社(イベオ)と協業し、ソリッドステートタイプで開発している。このライダーはカメラと同等、つまり画像認識と同等のデータ解析が可能になるという。またカメラからの画像データ解析ロジックはモービルアイと協業し、制御をZFで行なっている。
それらを車載コンピュータで制御していくが、ZFでは現在第4世代まで開発しており、最新のZF Robo Thinkはレベル5にも対応できるスーパーコンピュータになっている。もちろん、第1世代からコンピュータはラインアップしており、必要とされる演算能力次第で選択できるようになっている。
電動化 Electric Mobilityの分野
ZFではドイツ・シュバインフルトにモーターの生産工場をもっており、三相交流のインダクションモーターもラインアップしている。もちろん、パワーコントロールユニットの開発、SiCを使ったユニットなどの研究も行なっているが、電動化エリアでの提案はユニークなものだった。
マイルドハイブリッド
P4に配置したハイブリッドのテスト車、ダチア ダスターに試乗した。こちらはAMTを標準とし、シフトアップ時の加速Gの失速感をなくすことができるユニットだ。ドライバーはAT車と同様にアクセルペダルを踏み続けても失速せず加速感が維持できる。P4ポジションに搭載したモーターがシフトチェンジの時に駆動アシストしているためだ。
そして、このダチア ダスターはEV走行も可能のタイプで、本来FFモデルの1.5Lディーゼルを搭載しているのだが、EV走行できることも披露した。これはリヤ・アクスルにモーターを搭載したデモカーだ。
小型トラック用EVモジュール
Ce Trax lite(セトラックスライト)といういすゞエルフを電動化したデモカーで、集配車両をイメージしたモデル。こちらはZFの電動駆動ユニットCe Trax liteをリヤアクスルよりやや前方に搭載している。モーターは150kWの出力で、メルセデス・ベンツの市販EV車EQCに搭載しているモーターと同じものを使用している。
モーター用2段減速機
モーターにも変速機を持たせる提案だ。最高車速と最高トルクは背反性能であり両立できない。したがって、従来は最大トルクが欲しければ最高速を犠牲にしてトルクを出す。車速が必要であればトルクを犠牲にするという二律背反だが、それを両立させるのがこの2スピード減速機だ。
トルクが欲しい時はローギヤで、最高速が欲しい時はハイギヤを選択することで両立できる。また、実際の車両に搭載したときは、アクセル開度と車速によって自動変速するので、人間が操作する必要はない。つまり小型モーターでも出力の大きいモーターと同等の走行性能を得ることができるということで、モーターの設計自由度が向上するわけだ。
ZFとは
こうしたすぐにでも搭載可能な事故ゼロアイテム、排出ガスゼロを国内のカーメーカーにアピールするイベントであったが、現在、ZFは広島、愛知、宇都宮、横浜に拠点を持ち、日本のカーメーカーに対応している。また、中国・アンチンにもテックセンターがあり、国内のメーカーも対象に開発が行なわれている。
ZFは自動運転に対し「see think act」というワードで、必要な機器、システムを開発し、もともとトランスミッションで有名だが、そうしたハードとシステムをセットで提供できる強みを持っている。もちろん、モーターだけ、ギヤだけといったパーツレベルの販売も可能だが、制御を含めたシステムサプライヤーとして存在感の高いTier1だ。
またZFのビジョンはVision Zeroであり、事故ゼロ、排ガスゼロだ。そして2019年7月にはMobility Life Balanceキャンペーンを立ち上げている。これは人々の暮らしがそれぞれの人生観に適したモビリティサービスが利用できる世界を目指すことであり、さまざまなサービスが展開されていく中、サプライヤーとして提供できる技術を安全とCO2といった分野で貢献していく姿勢を掲げている。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>
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