ファッション感覚で乗れるEVバイク
それまでの東京モーターショーから生まれ変わった「ジャパンモビリティショー」は、初年度の2023年が一般消費者を対象としていた一方で、2024年は主にビジネス用途の来場者をメインに据えて「ジャパンモビリティショー ビズウィーク2024」として開催された。
バスや電車を降りたあとの「足」に続々新提案! ジャパンモビリティショーに展示された「電動小型モビリティ」3台をリポート
自動車メーカーの実車が集合したスペースは華やかなれど、そのほかは業界関係者向けに質実剛健な展示に。ビジネス展示会らしい専門的な内容で、「わかる人にはわかる」展示物が所狭しと並べられたほか、スタートアップ企業が多数参加し、チャレンジングかつ自由な発想のもとに開発された試作品が出品され、非常に興味を掻き立てられた。
そこで、一般消費者の目にも留まりそうな展示物を中心にいくつかご紹介させていただこうと思う。
今回は、SNS発の遊び心あふれる折りたたみEVバイク、乗員はフラットなまま階段を昇り降りできてしまう電動小型モビリティ、手動車いすに取り付けるだけで特定小型原付に変身する装置、以上の3つについてご紹介したい。
ICOMA「タタメルバイク」
一瞬で目を奪われたのがこちら。あのホンダのモトコンポを彷彿とさせる折り畳み式電動バイク、その名も「タタメルバイク」だ。
見た目のファニーさにひかれてブースを訪れたものの、取材中にうかがった製品誕生の経緯が面白かった。老舗玩具メーカーで変形ロボットアニメの製品開発に携わっていたICOMAの代表が、ある日SNSに折りたためるバイクのCADの3D CGをアップしたところ、それが大バズリ。製品化の要望が多く寄せられたことで、本格的に開発が始まったのだという。
しかし、いきなり本格的なプロダクトを開発するのではなく、12分の1サイズの縮小モデルを開発し、ジオメトリーを研究。この縮小モデルが愛らしい形をしており、研究用だけにとどめるのは惜しいということで、ガチャガチャのカプセルトイとして販売したところ、これまた大バズり。10万個以上を売り上げるヒット商品になったのだ。
SNSがバズリ、ガチャガチャでもヒットを飛ばしたことから、それらで「タタメルバイク」を知った人々から早期の製品化を熱望する声はさらに高まった。そこでICOMAは「タタメルバイク」の開発にあたっては、フレームの製造に金型を使わないオール金型レスの板金曲げ加工を採用することで、工場へ図面だけで発注することを可能とし、開発期間の大幅な短縮を実現させた。
こうして開発を始めて3年という短い期間で製品化に漕ぎつけたのだが、この板金曲げ加工によるフレーム設計が、結果的に無骨でギア的な印象を与えることにもつながっており、メカ好き男子やストリートファッション好きの若者に大ウケしそうな気がしてならない。
バイク状態での全高は1000mm、全長1230mm、全幅650mmと、かなりコンパクトな設計。これを折りたたむと、全高と全長はともに690mmの正方形に収まり、さらにコンパクトに。ハンドル部もその正方形のなかに収納されることから、全幅は260mmまで小さくなる。なお、バイク状態から折り畳み状態へのトランスフォームは、記事の下にあるフォトギャラリーを参照いただきたい。
車体重量こそ63kgと重いが、地面を転がして移動するためのローラーがリヤタイヤ上部に備わっているので、ハンドルを出した状態であればキャリーケースのように多少の段差を乗り越えつつエレベーター内部まで押し込んで、マンションの自室まで運び込むことが可能だ。余談だが、ローラーを取り付けたことでリヤタイヤが浮き、インホイールモーターの保護にもつながるし、押すための力も軽減される。
なお、リヤに収まるインホイールモーターの定格出力は600Wで、リン酸鉄リチウム電池の定格容量は12Ah(約0.6kWh)だ。これにより、1回の満充電で約30kmの距離を走ることができる。最高速度は45km/hに達するため、原付一種に該当するので運転には然るべき運転免許が必要となる。車両本体価格は税込み49万8000円(送料別)だ。
両サイドのパネルは脱着式のため着せ替えが可能で、左右セットで税込み2万5000円。豊富にラインアップされている既存のパネルで雰囲気を変えるもよし、DIYでオリジナルデザインにカスタムしたり、イラストデータをICOMAに送って塗装してもらうのも良しと、玩具メーカー出身者が本気で考えた1台だけに遊び心も忘れていない。
歩行困難者の外出がもっと楽しく容易になる
歩行困難者の生活を豊かにするのも、モビリティにとって重要な役割だ。会場内をまわったなかで、思わず「これは素晴らしい!」と感じた移動の自由度を劇的に上げる出品物をふたつ紹介したい。
LIFEHUB「AVEST Launch Edition(開発プロトタイプ)」
LIFEHUB(ライフハブ)が出展した「AVEST(アヴェスト)」は、椅子型の四輪EVカートのトレッド間に、2本の左右独立駆動クローラーを搭載している。これにより座席に座ったまま階段の昇り降りが可能になる優れものだ。
しかし、アヴェストの素晴らしさはそれだけではない。アヴェストは座席のシート下にダンパーを備えている。このダンパーが座席を常に水平に保つ姿勢安定装置の役割を果たし、乗員は普段と同じ姿勢のまま進行方向を向いて階段を昇り降りすることが可能になるのだ。よって、進むべき方向の安全を目視で確認することが容易になり、走行時の安全性が飛躍的に向上することが見込める。
展示品は開発プロトタイプのため、操作パネル等は実際の製品と異なる部分があるものの、50台限定の製品版「アヴェスト ローンチエディション」は全長1100mm、全幅650mm、全高1000mmのボディサイズに、68Ahのバッテリーをリチウムイオン電池を搭載し、最高速度6km/hで約40kmの距離を走行できるように設計されている。
また、フロントに10インチの全方向タイヤを装着し、リヤには12インチの空気入りタイヤを装着のうえ左右を独立して駆動させることで、その場で車体を360度方向転換させることを可能にしている。
バリアフリー化が行き届いていない環境でもスムースな移動を可能にするこの秀逸な電動モビリティ。2025年8月からの販売を予定しており、初回50台は税別150万円で予約受付中だ。
nicomo「Gee-01」
長野県で車いす関連用品を取り扱うnicomo(ニコモ)が出展していたのは、手動の車いすに専用アタッチメントで取り付けるだけで、車いすをフロント駆動の電動モビリティに変身させる装置だ。
筆者はこういった装置があることを知らなかったが、ネット上を探してみるといくつか類似商品が浮上してくる。しかし、nicomoの「Gee-01(ジーワン)」は、それら類似商品とは明確に異なる。それは、この装置が特定小型原付であるということだ。
時間の都合で出展者に直接質問することが叶わなかったため、詳細は不明ながら、特定小型原付規格に準拠した装置ということは、歩道での走行はもちろん、車道を時速20km/h以内で走れるということだ。
これにより車道を走るクルマやバイクとの相対速度が低下し安全性が高まるだけでなく、人力では成しえない速度での移動が安定的にできるようになるだろう。
なにより、手動車いすにジョイントして電動モビリティ化することで、身体的な負担が大幅に軽減するので、それだけでも外出に対して前向きになるではと想像する。生活で不自由を感じる場面をモビリティの力で解決するのも、モビリティのひとつの在り方だ。
ジャパンモビリティショー ビズウィーク2024を取材し、カーボンニュートラル社会の実現に向け、電気や水素で未来を切り開こうとする動きが、より顕在化してきているように感じられた。これらの動きとスタートアップ企業がもつ自由でフレキシブルな発想が、今後さらに社会へ貢献することを強く望む次第だ。
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