実用性を高めて誕生したのがセダンだった
かつて乗用車の大半が、セダンスタイルのボディを採用していた。もともと乗用車の外観はミニバンスタイルだったが(クライスラーPTクルーザーを見ると昔の乗用車がミニバンだったことがわかる)、ボディの後部に荷台を取り付けるようになった。この荷台が1930年ごろから流線形のトレンドに乗り、ボディの一部に取り込まれてスマートなセダンスタイルが確立された。
「スカイライン」や「ハリアー」も消滅! 昔、憧れの的だった「専用エンブレム」が減ったワケ
ボディ形状のバリエーションが増えてセダン人気減少
それが最近は飽きられ、セダンの販売比率は10%以下まで落ち込んだ。逆に軽自動車は37%で、コンパクトカーを含むハッチバックが25%、ミニバンとSUVがそれぞれ13%という比率だ。
セダンが売れ行きを下げたことで、1955年に初代モデルを発売したクラウンをSUVに変更する報道があった。カローラはSUVのカローラクロスを加えている。かつてはスカイラインがクロスオーバーを用意したこともあった。そこまでボディを変えて、クラウン/カローラ/スカイラインといった車名を残す必要があるのか? と思うが、そこにはメーカーの思惑が絡む。
まず開発者は「伝統ある車名は、よほどのことがないと廃止しにくい」という。認知度の高さだけではない。中高年齢層に達したメーカーの重役には、かつてこれらの伝統ある車種に携わった人も多いからだ。開発者は「伝統ある車種には、皆さん、それぞれ強い想いがある。10人の重役に意見を求めると、10通りのアイデアが出る。それをまとめるだけで大変」という。
また認知度の高い伝統ある車名は、失ったら二度と手に入らない。セドリック、ブルーバード、カリーナなどは「保守的なイメージがある」という理由で廃止されたが、もう少し有効活用する方法もあった。つまり伝統ある車名は貴重だから、好調に売れるSUVに採用して、存続を図ることも考えている。
過去には伝統ある車種にも多彩なバリエーションがあった
ただし今はセダンのイメージが強い伝統ある車名も、かつてはいろいろなボディを用意した。例えばクラウンにはピックアップトラックやバン&ワゴンがあり、スカイラインは、バン&ワゴンに加えて5ドアハッチバックを設定した時期もある。カローラではスポーツクーペのレビンが有名だ。
このように伝統ある車種は、好調に売られた時代には、複数のボディを揃える一種のブランドだった。当時は今と違ってSUVの人気が低く、ラインアップは少なかったが、時代のニーズに応じて人気の高い複数のボディタイプを用意したことに変わりはない。
従って今ならクラウンやカローラがSUVを用意しても不思議はないが、セダンを廃止してSUVだけを残すと意味も違ってくる。これらの車種が複数のボディを用意したときも、中心にはつねにセダンがあったからだ。セダンを廃止すると、車種のブランドイメージまで変わり、車名を継続する価値にも影響を与えてしまう。
欧州の伝統車は今でもセダンが基本にある
このような事情も踏まえると、メーカーはもう少し伝統あるセダンの価値を大切にすべきだ。セダンは低重心で、後席とトランクスペースの間には隔壁や骨格があるからボディ剛性を高めやすい。このふたつの要素は走行安定性と乗り心地を向上させ、独立したトランクスペースがあると後輪のタイヤが発するノイズも抑えられる。
このようにセダンは、SUV、ミニバン、コンパクトカーなどに比べると「安全と快適」を高めやすい。そのために欧州車では今でもセダンが豊富で、BMW3シリーズなどでは売れ筋のボディタイプとされる。「運転の楽しさ」を訴求してもユーザーに響かないが、「安全と快適」に対する関心は高い。
だから伝統ある車種は、もう少しセダンの開発と拡販で頑張ったらどうか。SUVに本格移行するのは、それからでも遅くない。
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