ブレンボ製ブレーキにオーリンズ製ダンパー
text:Richard Lane(リチャード・レーン)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
最近、ポールスターという名前を良く耳にすると感じる読者も多いだろう。
ポールスターは、ボルボに属する独立した子会社。609psを発生させる500台限定のPHEVクーペ、ポールスター1の発売も迫っている。3基の電気モーターを備え、アールデコ調とバウハウス調を組み合わせたような端正なボディデザインは、未来感が漂う。先日試乗記も掲載させていただいた。
向こうは14万ポンド(1960万円)だから身近な存在ではないかもしれないが、ポールスター・エンジニアードという存在もある。これは昨年デビューしたボルボのクルマに与えられるトリムグレードとなる。
アメリカで生産されるサルーン、ボルボS60 T8ツインエンジンに加えて、今回ステーションワゴンのV60とクロスオーバーのXC60にも設定された。しかし単にトリムグレードとはひと括りにできない内容が与えられている。
専用のソフトウエアによって、385psのPHEVパワートレインが410psに増強されているだけではない。S60とV60には、ブレンボ製のスリット入りブレーキディスクと金色のブレーキキャリパーを装備。XC60の方は日本の曙ブレーキ製となる。ちなみにマクラーレンP1のブレーキも曙ブレーキだった。
エンジンルームには、ステアリングレスポンスを向上させるために、ボディ剛性を高めるアルミ製のストラットブレースを装備。アイシン製の8速ATもアップデートを受け、シフトアップが高速化されている。
スタイリングは特別仕様の存在感
ボディトリムは光沢のある黒で統一され、ダーククロームのマフラーカッターが付く。鍛造アルミホイールはシャープなデザインになり、シートベルトは金色。V60のポールスター・エンジニアードは、それらを見事に調和させ、特別な存在感を放つ。従来のボルボなら考えられなかった出で立ちかもしれない。
一番の注目ポイントは、調整式のデュアルフローバルブを持つオーリンズ製のダンパー。スウェーデン生まれのサスペンション界のスーパースターだ。アダプティブではなく、調整式であるところが見逃せない。
通常のアダプティブダンパーなら、トランスミッション・トンネルに配されたモードボタンを押すだけ。だがポールスター・エンジニアードの場合、フロントはボンネットを開けて金色の調整ダイヤルを回す必要がある。簡単な作業だ。
だがリアサスペンションの場合、ジャッキアップしてプロテクターを外さなければ無理。面倒に感じるかもしれない。
通常、調整式ダンパーといえば、メルセデスAMG GT Rプロのようなサーキット走行前提のモデルに用いられることが多い。PHEVのエステートに装備されているのは、ケーターハム・スーパーセブンにチャイルドシートが付いているようなもの。少し不思議に思える。
今回は、このオーリンズを中心に確かめていこう。すでにT8ツインエンジンの基本構成については何度も触れている。横置きの2.0L 4気筒ターボエンジンがフロントタイヤを駆動し、独立した電気モーターがリアタイヤを駆動している。
ステアリングやブレーキの精度が明確に向上
ポールスター・エンジニアードのV60は、ステアリング・レスポンスが明確に向上している。直進から切り増すにつれて、動きが鮮明に変化。カーブに沿ってクルマを進めるのに必要なステアリングの操作量も、直感的につかめ、最小限で済む。
ピレリPゼロと軽量な鍛造ホイールの影響も重なり、走りの緻密さが増している。比べればメルセデスAMG Cクラス並みのフィードバックや、アウディRS4アバント並みの驚異的な精度には届いていない。だが明確にフィーリングは良く、典型的なボルボより操縦時の魅力は引き上げられている。
6ポッドのブレーキも素晴らしい。制動力の立ち上がりが明確になり、漸進的に立ち上がるストッピングパワーも強い。ステアリングと同様に小さな入力に対する反応も良く、ドライビング体験を高めている。
ボルボは今後、新モデルの最高速度を180km/hの上限にするという旨を発表しているが、この手の改善は大歓迎だ。
そしてオーリンズ製ダンパー。22段階調整で、0が最も硬い状態。適正に設定するためにも、9.0インチのタッチモニターに実装されたオーナーズマニュアルを読んで操作した方が良いだろう。
工場出荷時はフロントが6でリアが9に合わされている。コンフォート寄りの12と15と、パフォーマンス寄りの2と4も選ぶことができる。オーナーズマニュアルは前後ともに同じ減衰力設定を推奨しているのだが、デフォルト値は異なる。
ポールスター・エンジニアードを購入したのなら、フロントを最も柔らかい22に、リアを最も硬い0に設定するような真似はしない方が良い。英国の道を走らせるのなら、一桁の数字は避け、できるだけ22に近い方が良さそうだ。
ボルボのイメージを超えた足まわり
工場出荷状態では硬すぎるものの、オーリンズ製というだけあって破綻はしない。極めて優れた精度で衝撃を吸収してくれ、ランボルギーニ・アヴェンタドールSVJの足回りにエステートボディを載せたような印象すらある。
ボディに伝わる振動は強く、ボルボにしては極端過ぎるようにも思えるが、メルセデスAMGのCクラスで最も硬い設定よりはしなやかさを感じる。
ジャッキアップしてリアダンパーの調整はできなかったが、フロントを触った限り、一般道では18から22の間が一番機能的だと感じた。ポールスター・エンジニアードのボディをまといながら、V60らしく日常利用もできるだろう。
柔らかい状態なら乗り心地は優秀。クルマの反応は穏やかになるものの、姿勢制御やステアリングの精度はそのまま変わらない。
英国での価格は6万ポンド(840万円)だが、パフォーマンス・エステートとして充分に納得できる。EV状態で40kmの距離を走行でき、控え目なスタイリングはどんなシーンでも上手に溶け込む。
高速道路の乗り心地も悪くない。パワーと横方向のグリップ力、自信を沸き立たせてくれる操縦性の高さは、どんな道でもボルボのイメージを超えた運転を楽しめる。垂直方向のサスペンションのしなやかさは、通常のボルボに敵わないけれど。
ボルボはポールスター・エンジニアードによって、S60やV60へ羨望の眼差しを与えたいと考えているようだ。メルセデスAMGやBMW Mモデルと並ぶ、高性能モデルを目指している。自動車メーカーの高性能ブランドは、販売面で効果的な役目を果たす。
高性能ブランドとしてのシャシーとダンパー
確かにポールスター・エンジニアードは、魅力的だし速く、価格も高い。しかしこの領域で本当に戦うには物足りない。モーターが加勢するとはいえ、エンジンは4気筒だ。ライバルには6気筒エンジンが搭載されているし、車重は軽い方が有利でもある。
それにかわる強みとして、究極のシャシーとダンパーが与えられたのだと思う。英国の郊外のカーブが続く道を100km/h+程度で走るなら、実用性と走行性能で、V60のポールスター・エンジニアードほど洗練されたクルマはないと思えるほど。
トラクションを高め、姿勢制御を向上させ、ステアリング精度もスロットルレスポンスも大きく改善した。ただし本質的な機敏さは、通常のボルボと共通する柔らかさが残る。サスペンションはバッテリーの重さも受け持ち、ライバルと比較すると、シンプルなエキサイティングさという点で及ばない。
環境意識が低いと思われるかもしれないが、筆者としてはハイブリッドではないボルボV60 T5に、オーリンズ・ダンパーを装備させたいと考えてしまう。二酸化炭素排出量は多くても、よりドライバーの満足感の高い、特別なモデルに仕上がるのではないだろうか。
ボルボV60 T8ツインエンジン・ポールスター・エンジニアードのスペック
価格:5万7205ポンド(800万円)
全長:4761mm
全幅:1850mm
全高:1433mm
最高速度:249km/h
0-100km/h加速:4.6秒
燃費:40.0-58.7km/L(WLTP)
CO2排出量:48g/km
乾燥重量:2079kg
パワートレイン:直列4気筒1969ccターボチャージャー+スーパーチャージャー/モーター
使用燃料:ガソリン
最高出力:318ps/6000rpm(エンジン)+87ps(モーター)/410ps(システム総合)
最大トルク:43.7kg-m/4500rpm(エンジン)
ギアボックス:8速オートマティック
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