FRスーパースポーツの雄として、クルマ好きを魅了する存在であり続けているアストンマーティン。その中核となるDB11のハイパフォーマンスバージョン、F1マシンとも同名となった、AMRで京都へ。唯我独尊の世界観、シンプルなクーペ美は、日本の古都でも際立った存在感を見せてくれる。
F1マシンにも使われるその名称“アストン・マーティン・レーシング”
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この冬、アストンマーティンが賑わせた世界は、スーパースポーツ界ではなくモータースポーツの頂点、フォーミュラ1の世界だった。
アストンマーティン社の株式の2割を、F1チームであるレーシングポイントの共同オーナーでカナダの大富豪ローレンス・ストロールが取得したことに伴い、レーシングポイントというチーム名が今季よりアストンマーティンへと改められることになったのだ。アストンマーティンはこのところタイトルスポンサーとしてレッドブル・ホンダと組んでいたが、今度は主体チームとしてF1に参戦することになる。簡単に言ってしまえば、中身はともかくもフェラーリやマクラーレンと同格という存在になったわけだ。アストンマーティンにとっては61年ぶりのチーム参戦ということになる。
先だって発表された21年用のF1マシンはその名も「AMR21」で、その意味はずばり“アストン・マーティン・レーシング”である。そしてこのAMRの名は既にスポーツカーでのレース活動はもちろんのこと、市販の高性能バージョンにも使われてきた。今回のパートナーもそのうちの1台、DB11 AMRである。
現時点でアストンマーティンのロードカーラインナップは、トップモデルのDBSスーパーレッジェーラにDB11、ヴァンテージ、そしてSUVのDBXが続くという4モデル体制だ。近い将来、ミドシップのハイパーカー&スーパーカーがリリースされるが、それはまたその時のお楽しみ。中核となるモデルがDB11であり、なかでもAMRはV12ツインターボエンジンを積む究極の1台であると言っていい。
21世紀になってから、フロントエンジンスーパースポーツの地位を引き上げたのがアストンマーティンだった。12気筒エンジンを積んだ大型のラグジュアリィクーペ、ヴァンキッシュで大復活を遂げて以来、FRスーパースポーツの雄としてクルマ好きを魅了する存在であり続けている。理由はいくつか挙げることができるが、なかでも最も大きな要因は、大胆かつグラマラスで美しいスタイリングと、そして挑発的でラウドなサウンドエフェクトであったように思う。
ロードカーとしての本分を守った足回り
DB11 AMRの5.2リッター639psツインターボエンジンもまた、劇的なサウンドで目を覚ます。早朝の住宅街ではちょっと気が引けるほどの音量と音圧だ。ほんのしばらくのちには勝手にボリュウムダウンしてくれるものの、そこまで待っていられないほどのラウドさではある。もっとも、そのサウンドこそがドライバーを奮い立たせてやまないこともまた事実。目覚めの快音はまた、ドライバーの寝ぼけた脳みそを叩き起こす。
幅が広く、ルーフも低いため、凄まじく平べったいクーペに感じる。室内そのものにさほど窮屈さを感じないものの、フロントウィンドウが薄く広がるため、ワイドなクルマを与えられたという印象が先に立つ。ひょっとすると取り回しに苦労するかもしれないという思いはしかし杞憂だった。
AMRとなって、足回りのセッティングがやや引き締められた。乗り心地をさほど犠牲にしていないあたり、“レーシング”と名乗ってもロードカーとしての本分を守ろうという意思の現れだ。ステアリング操作に対してフロントアクスルの反応がよく、それゆえ乗る前に思っていたほど大きなクーペを操っているという感覚はない。これだけ長く幅広いノーズの大型クーペだというのに!
高速道路では質の高いグランドツーリングカーに徹する。低回転域ではエンジンサウンドのボリュウムも控え気味で、その囀るようなサウンドがかえって心地よい。路面からのショックも綺麗にいなし、ボディもまた余計な振動を増幅させることがない。大柄だが筋肉質、引き締まっているのだ。それゆえ、AMRと戦闘的な名乗りであっても上質なGTカーであり続ける。京都までの450km、あまりの心地よさに眠気を誘われたならばドライブモードを切り替えて右足ひと踏みで再び冴え渡る。すると到着時間はほとんど変わらないけど、いつもより早く着いた気がする……。これも良いGTカーの大事な素質だ。
白いボディに黒く大きなホイール、なかからライムグリーンの巨大なキャリパーが見えている。キャビンが低いそのスタイリングは古都の街中でも際立った存在感をみせた。似合うとか似合わないとかではなく、それは唯我独尊の世界観だ。シンプルなクーペ美はアストンマーティンの専売特許のようなもので、他の高級ブランドといえば美しくありつついかにアストンマーティンっぽく見えないクーペにするかで苦心する。それもまた、このカテゴリーを最初に賑わせたブランドの特権というものだ。
とはいえ、アストンマーティンは歴史的にも美しいクーペを作ってきたかと問われれば、微妙だったと筆者は思う。59年にル・マンを制したDBR1は確かに美しいロードスターであった。けれどもそれ以降のDBシリーズは決して美しいとは思わない。品はあったかもしれないが、骨もあった。クルマ好きを魅了するようになったのは近年クラシックモデルの価値評価が全体的に上がって同時にブランドの再興も見られたからで、それ以前はといえば走りでもスタイルでもさほど評価されることはなかった。
美しいアストンマーティンというイメージはつい最近に根付いたものだ。おそらくDB9やV8ヴァンテージから始まった。初代V12ヴァンキッシュにはまだ以前の無骨さが残っていた。DB11はある意味、その集大成である。今後、アストンマーティンはヴァルキリーを頂点としたエアロダイナミックなミドシップスタイルと、DBXのようなSUVスタイルによってイメージチェンジを図っていくように思う。奇しくもこれからSUVをリリースすると噂のフェラーリと近いラインナップ構成(V8FR、V8ミド、V12FR、ハイパーカーそしてSUV)になる。F1界の大先輩と唯一伍するロードカービジネスを展開することになるだろう。
その時、これら美しいクーペたちがどのように再表現されるのか。楽しみに待ちたいと思う。
文・西川 淳 写真・タナカヒデヒロ 編集・iconic
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みんなのコメント
雑踏の中でも、貴婦人のようなオーラに包まれていて目が留まってしまう。