■一度消えたクルマの復活はユーザーにとって幸せか
最近は国内で一度販売を終えた車種を、改めて復活させるケースが多いです。ホンダは「シビック」と「CR-V」を、トヨタはピックアップトラックの「ハイラックス」を復活させました。なぜ、国内販売から一度終了した車種を再び復活させることになったのでしょうか。
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「シビック」はホンダの主力車種で、初代モデルは1972年に発売されています。人気車になり、1980年代から1990年代の前半にかけて、若年層も含めて好調な売れ行きになりました。
しかし2000年に発売された7代目は、2001年に「フィット」が登場したこともあって売れ行きが下がり、2010年に8代目の段階で国内販売を終えています。9代目は日本国内では売られませんでしたが、10代目が2017年に復活しました。
復活した直接の原因は、「シビック」セダンを日本の寄居工場でも生産するようになったことです。ハッチバックとタイプRはイギリスから輸入しています。
この点を「シビック」の開発者に尋ねると「寄居工場で生産するようになったから、日本国内で『シビック』の販売を再開したわけではありません。現行『シビック』が優れたクルマに仕上がり、改めてホンダブランドと一体にして、訴求しようと考えたからです」と言います。
それでも10代目は日本で売ることを想定せずに開発され、海外では2015年に発売されています。2017年の国内販売再開は、タイミングとしては寄居工場の生産開始と合致しており、成り行きに任せた印象が否めません。
「CR-V」は、前輪駆動をベースにしたシティ派SUVの先駆けとして、1995年に発売されました。初代モデルは、視界の優れた運転のしやすいボディに多彩なシートアレンジを組み合わせて、ミニバン的な価値観を備えたSUVというコンセプトが新しく、ヒット作になっています。それなのに2代目以降はボディを拡大して、売れ行きが下がり始め、2016年に4代目で国内販売を終えました。
この後、海外では2016年に5代目が発売されましたが、日本には導入されず、2018年の8月(ハイブリッドは11月)に改めて国内で発売されています。
この点について「CR-V」の開発者は「5代目が発売された時点では、(2013年に登場した)『ヴェゼル』が好調に売れており、『CR-V』は必要ないと判断しました。しかしこの後、日本でもSUVの市場が拡大しています。『オデッセイ』からSUVに乗り替える時に、『ヴェゼル』ではボディが小さすぎるという指摘もあり、『CR-V』を復活させました」とのことです。「CR-V」も一度国内市場を見限りながら、SUVカテゴリが注目されるようになり、急いで復活させたと受け取られます。
■復活を望む声に応え、トヨタも13年ぶりにハイラックスを復活
トヨタのピックアップトラックとなる「ハイラックス」も復活しました。「ハイラックス」は1968年に初代モデルを発売して、3代目から5代目の4WD仕様は、悪路向けのオフロードSUVがブームだったこともあって好調に売れました。
ところが2004年に発売される7代目は、ボディを大幅に拡大することになり、6代目で国内販売を終えています。
それが13年後の2017年になり、タイ製の8代目を輸入して国内販売を開始しました。ボディタイプは後席を備えたダブルキャブの4WD仕様で、全長は5335mm、全幅は1855mmと大柄です。最小回転半径も6.4mに達するので小回りも利きません。
「ハイラックス」の開発者に輸入開始の理由を尋ねると「『ハイラックス』は7代目で(海外向けになって)ボディを拡大したため、売れ筋の4ナンバーサイズに収まらず、生産を終えています。しかし今でも国内で約9000台の『ハイラックス』が保有され、復活を望むお客様もおられます。そこで輸入を開始しました。
ちなみに復活の要望は2007年頃からあり、社内的なトライをしてきましたが、(リーマンショックの影響などもあって)なかなか実現しませんでした。今回は3回目の検討になり、ようやく輸入が可能になりました」とコメントしています。
ホンダとトヨタの開発者と話をして、メーカー内部での葛藤が見えてきました。現行「シビック/CR-V/ハイラックス」の商品開発は、基本的に海外向けに行われ、日本は対象外です。それでも開発者の中には日本で売りたい思いがあり、復活したことになります。
それでも商品開発は海外専用として行われ、日本向けの商品ではありません。その意味でメーカーのやっていることは、中途半端にも感じられます。国内で一度廃止したクルマを復活させることについて、販売店ではどのように見ているのでしょうか。
ホンダ車を販売しているホンダカーズ(ホンダのディーラー)で尋ねると、「今まで販売してきた車種を廃止すると、そのクルマを使うお客様は、ガッカリすることが多いです。自分のクルマを見捨てられた気がして、不愉快になるのは当然でしょう。別のメーカーのクルマに乗り替えるなど、お客様との関係が途絶えることもあります。そうなると後になって復活させても、以前のように売れ行きが順調に伸びるとは限りません」といいます。
クルマは、運転するとユーザーとの間に一体感が生まれる商品でもあり、愛情を移入しやすい工業製品です。そうなると今まで購入できた車種が海外専用になり、日本で買えなくなった場合、ユーザーには過度な不快感を与えるなど情緒的な悪影響も生じます。自社製品を購入した大切なユーザーを悲しませないためにも、生産と販売を終えずに済むよう、最大限度の努力をすべきです。
それでもなお販売を終えるなら、簡単には再販しない覚悟が必要なのかもしれません。
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