SUVの「2つの頂点」とは
ランドクルーザーはSUVの頂点クラスを代表する一車なのだが、「頂点」の捉え方には二通りある。
【画像】300系 ランクルZX 細部まで見る【GRスポーツも】 全37枚
1つは車格・プレミアム感。これは一般的な乗用車に求められるているものとあまり変わらない。
もう1つはオフロード性能。これは一般的な乗用車には無縁だが、SUVの存在意義でもあり、無視すればSUVを選ぶ意義は半減する。
しかも、走行性能面ではプレミアムとオフロード性能は背反要素に近い。
ランクルは成り立ちから悪路踏破性を重視。そのためプラットフォームは車体を捻るような長く大きな入力に耐える耐久性や、大きな段差にしなやかに接地あるいは衝撃を吸収する長いサスストロークを得るために、強靱なラダーフレームやリア・リジッドアクスル・サスを採用。
トラックにも似た構造は、快適性や走りの質感を高めるにはハンデが大きい。
プレミアムに相応な質・快適と悪路踏破性の両立は、ランクルの基本。とくに80型以降はその傾向が強い。
新型の300型は両立点の更なる向上を求めている。
オフロード向けに開発されたGA-Fプラットフォームを導入。さらにパワートレインはV6ツインターボを採用した新世代型に一新。
また、先代で消滅したディーゼル車が新開発エンジンと共に復活したのも注目点である。スペックや採用ハードウェアを見ても、SUVに求められる2つの頂点を妥協なく追っているのが理解できる。
復活のディーゼル どんな感じ?
復活となったディーゼル車が搭載するF33A-FTVは、71.4kg-mの最大トルクを1600~2600rpmで発生。
計算値では最高出力発生回転数の4000rpmに至っても、55kg-mを超えるトルクを発生する。
従来型に対して軽量化を進めてもなお2.5tを超えた車重でも、余りあるトルクだ。
しかし、試乗して感心するのは力の量ではなく、そのコントロール性にある。
発進などの踏み込みでは若干初期トルクが過剰な印象も受けるが、応答遅れが少なく滑らかに立ち上がるので唐突な印象はない。
巡航回転数は1500rpm以下が大半であり、新たに導入された10速ATの効果もあって、速度変化が大きい状況でも1500rpm前後で収まってしまう。
緩加速や巡航登坂のダウンシフトタイミングは早めだが、巡航からの1段分での回転上昇は500rpm前後であり、減速比による加速増というよりも、過給効率のいい回転域にシフトしたような制御である。
ちなみにトップギア100km/hの巡航回転数は1300rpm強。2段分のダウンシフトをしても2000rpmを超えない。悠々としていてリズミカルでもあり、駐車場から登降坂まで扱いやすい。
燃焼音や排気音の音質はガソリン車とは異質だが、同時にディーゼル感も少ない。
振動は少なく、アクセル開度や回転数に対する音質・音量の変化もよく抑えられている。質のいいパワーフィールに品のいいエンジンフィールなのである。
乗り心地とハンドリング
リアサスは、長いストローク長を確保したラテラルロッド付き4リンク・リジッドアクスル。
バネ下重量が重く、なおかつブッシュなどを衝撃吸収よく設計しなければならないため、軸規制があまくなるのが難点。車軸周りを揺するような振動やばたつきが乗り心地の質感を損ねるのだが、ランクルはそれがとても少ない。
モノコック+独立懸架のオンロード志向のSUVに比べれば多少の「どたぶる」感はあるのだが、従来型から随分と減少している。
一般乗用車とは質感の異なる良質な印象というか、車軸周りに適度な緩さと収束感を持たせているのが印象的。仄かな余韻がいい意味での重量とサイズを感じさせてくれる。
緩さと収束感の妙味はハンドリングにも活かされている。
反応は早く穏やかに、微小なコントロール性よりも据わりのよさを重視した特性。
車体サイズや車重からすれば切れ味のいいほうだが、重量に振り回されているような感じがなく、修正操舵少なくラインに乗っていく。
なお、専用サスチューンを採用したGRスポーツは軸規制も含めて全体的に締まった設定だが、反応や軽快感を誇張することもなく、標準サスの特性をベースに操舵追従性・コントロール性を向上させている。高速長距離用途が多いユーザーにはけっこうウェルバランスである。
ハード以外のオフロード装備
この試乗では実力を試せなかったが、オフロード対応も万全である。
前項までで述べたオフローダーらしいシャシー設計もそうだが、ランクルのオフロード性能で見逃せないのが運転支援機能だ。
先代から採用していたが、新型になって機能をさらに充実させている。
4WDシステムはトルセンLSDをセンターデフに用いた副変速機付きフルタイム式。電動リアデフロックも、GRスポーツに標準、他グレードにOPで用意する。
各輪のスリップ状況を検知し、ブレーキによる空転抑制とトラコンを統合制御するマルチテレインセレクトには、路面状況に応じてオートからロック(岩場)まで6モードを設定。
モーグルや滑りやすい登坂でアクセル操作を自動化したクロールコントロールも全車標準装着。また、録画画像との組み合わせで車体周辺および車体下の路面状況を映し出すマルチテレインモニター(オフロード走行用/アンダーフロアビュー)をベーシックグレードのGX以外にOP設定。
ハードクロカンは運転操作にも気を使うが、周辺の路面確認・自車の状況を踏まえた踏破ルートの設定など、走行速度は遅くともけっこう忙しい。
それだけドライビングミスも誘発しやすい。部分的でも操作を容易にしてくれるだけでも踏破性アップ。
トライアル志向のクロカン派には邪道かもしれないが、アウトドア趣味を楽しむためのオフローダーには有り難い機能である。
「買い」の判断、サイズ/用途を要チェック
オフローダーとプレミアムSUVの頂点にして、職人の道具みたいな部分もある。
車重が軽くなったこともあるが、装着タイヤサイズを従来型の285/50R20(ZX)から265/55R20にダウンサイジングしたのも、スペックより実利と実践力重視といった感があり、ツウ好みのポイント。
オン&オフロード性能を高レベルでまとめているのは間違いないのだが、大きな車体はかなりのウィークポイント(全長4985×全幅1980×全高1925mm)。
ちょっと山深い場所に入れば5ナンバーサイズでも厳しい幅員の林道は多い。踏破性よりも、車体サイズと用途の相性はしっかりとチェックする必要がある。
価格はトヨタセーフティセンスやディスプレイオーディオを備えてGX(ガソリン2列シート)の510万円から。GX以上のガソリン車は3列シート仕様となる。
ディーゼル車はZX以上の設定で、いずれも2列シートとなり760万円から。
RAV4ならハイブリッドの最上級グレードでも約410万円。ランクルのオン&オフ性能は一般ユーザーには過剰でもあり、狙える予算が建っても効率的ではない。
しかし、ランクルの性能を活かせる、とくにオフロード走行の機会が多いなら買い得。
同予算でこれほどのオフロード適性とプレミアムSUVのゆとりを両立したモデルは他にない。まあ、ランクルではちょっと地味、と感じるならレクサスLXのFMC車発売を待つのも手だが……。
新型ランドクルーザーZX スペック
トヨタ・ランドクルーザーZX(ディーゼル車)
価格:760万円
全長:4985mm
全幅:1980mm
全高:1925mm
最高速度:-
0-100km/h加速:-
燃費:9.7km/L(WLTCモード)
CO2排出量:267g/km
車両重量:2550kg
パワートレイン:V型6気筒3345ccディーゼル・ターボ
使用燃料:軽油
最高出力:309ps/4000rpm
最大トルク:71.4kg-m/1600-2600rpm
ギアボックス:10速オートマティック
乗車定員:5名
最低地上高:225mm
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