新型ロードスター、進化のポイント
日本名ユーノス・ロードスター、輸出名マツダMX-5として、型式名NAロードスターが世に出たのは1989年のこと。それからNB、NC、NDと3回フルモデルチェンジしたが、すでにNB時代の2000年に累計53万1890台を生産して、「世界でも最も多く生産された2人乗り小型オープンスポーツカー」として、ギネスから表彰されている。初代の登場から数えて35年後の現在のモデルはNDだが、そのNDもNCからモデルチェンジしたのは2015年のことだから、今年すでに9年目のロングランモデルになる。
そのNDロードスターが今年2024年、新型にマイナーチェンジした。デビューから9年ぶりのマイナーチェンジ、その最大の理由は意外なところにあった。車載コンピューターがハッキングされるのを防ぐため、全モデルのコンピューターをサイバー基本法という取り決めに沿った最新仕様に変更する必要があったからだ。ただし、さすがはロードスターのマツダ、変更をそれだけで済ますことはなかった。同時に、スポーツカーの命であるドライビング感覚を研ぎ覚まさせることを主眼とする、数々の変更を施したのだった。
まずエンジン関連では、セッテイングを国内のハイオクガソリンに合わせたことによって高回転域でのパワーが向上、トップエンドの7000rpmでは3kWの出力向上を達成したというのが主要ポイント。それに加えて、中回転域でのレスポンスも向上させているという。だが、それ以上にマツダの気合いを感じさせるのが、シャシー領域の改良である。それは、電動パワーステアリングの進化、アシンメトリックLSDの採用、モータースポーツ用DSC制御、DSC-TRACKの追加の3項目に及び、それらによって、ロードスターの持ち味といえるドライビングプレジャーを、さらに一段と磨き込もうというわけだ。
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先代990Sと新型Vセレクションを乗り比べる
今回は試乗するに当たって、マイナーチェンジ前と後の2台のロードスターを借り出し、新旧の違いをストレートに味わってみたいと思った。そこで、先代から最後期のヒット作である990Sを、新型から素のモデルといえるSを借りようとしたのだが、なんと後者の試乗車がトランスミッション不調に陥って貸出不可能だという。そこで、先代は990S、新型は装備豊富なSグレードのレザーパッケージVセレクションを借りることになった。もちろんトランスミッションは両車とも6段マニュアル、つまり6MTである。
横浜にあるマツダの研究所から2台で箱根を目指すが、僕はまず今や旧型となった990Sのステアリングを握る。2座のコクピットは同クラスのスポーツクーペと比べるとタイトな印象だが、僕が普段乗っているオープン2シーター、1960年代のロータス・エランS2というクラシックな英国車なんぞと比べると充分余裕があるし、ドライビングポジションも窮屈な印象なしに自然な感じに決まる。
横浜から第三京浜、東名と走って箱根に向かうまでのドライビングでは、990Sが日常の足として快適に使えるクルマであることをあらためて実感できた。乗り心地にはスポーツカーに想像される硬さや粗さがなく、適度にソフトで快適なものだし、1.5リッター4気筒エンジンも2000rpm以下から有効なトルクを生み出すので、街乗りや高速の渋滞も無理なくこなしていく。6段MTのギアシフトは短いストロークで確実に決まり、これもスポーツカーらしい。ただし、あくまで個人的な好みを言えば、シフトレバーはもう少し前方にあってもいいかなと思ったし、クラッチペダルがもう少し右側、つまりブレーキペダル寄りにあってもいいかなとは思ったが。
ところで990Sには、ひとつだけ実用車としてのステージで不満があった。高速道路を追い越し車線に乗ってクルージングするときなど、ステアリングの直進がイマイチ定まらず、常にドライバーが軽く当て舵を切ってやる必要を感じた。ステアリングを軽く握っているだけで、クルマが自然に真っ直ぐ走っていく、という感覚ではなかったのだ。
だが、いよいよスポーツカーのお愉しみのステージ、ワインディングロードに着くと、990Sはその魅力を存分に発揮してみせた。サスペンションのスプリングはソフトで、リアのスタビライザーも備わっていないから、コーナーに向かってステアリングを切り込むと、ボディが素直にロールするが、だからといってそれによる不安はまったくなく、4輪が確実に路面を捉えてノーズが気持ちよく内側に入っていく。990kgという、現代車としては今や稀な軽い車重が効果を発揮して、身のこなしが軽快なのも大きな魅力なのは言うまでもない。
というわけで990S、すでに旧型になったとはいえ、すこぶる魅力的なモデルだったことを、あらためて実感することができた。強いていえば、エンジンの回転感やサウンドにもうちょっと色気のようなものが欲しいというのは、それらが濃厚に備わるクラシックカー好きから見た、‟ない物ネダリ“なのかもしれない。
唯一無二の存在感
ここでマイナーチェンジ後の新型、SレザーパッケージVセレクションに乗り移る。タンカラーのレザーシートや、ダッシュボード下やドア内張りに同色を配したインテリアは、ブラックで統一された990Sや現行Sと比べるとラグジュアリーな印象で、かなり雰囲気が異なる。装備的にはベーシックモデルのSが289万8500円、レザーパッケージVセレクションは355万3000円と、プライスに65万円強の違いがあるから、それは当然かもしれない。ちなみに先代990Sの発表時の価格は、289万3000円という安価だった。
SレザーパッケージVセレクション、まずは高速道路での印象を書くと、すぐに実感したのは990Sと違ってステアリングを修正する必要なしに、真っ直ぐに走っていくことだった。ここにはラックピニオン電動パワーステアリングシステムの改良などが効いていると思われるが、ワインディングを得意とするスポーツカーであっても高速直進性は極めて大切なファクターだから、これはロードスターの大歓迎な進化だと言える。
ピークパワーが3kW上昇したというエンジンに関しては、通常の回転域では先代との違いを明確には感じ取れなかったが、1.5リッターという小さめの排気量をキープしているためもあって、スロットル操作に対して軽快に反応するのが気持ちいい。
というところで、こちらもワインディングロードに。リアにスタビライザーが加わり、新開発のアシンメトリックLSDが標準装備されるところも先代990Sとは異なるが、NDロードスターの持ち味である素直なハンドリングはそのまま継承されていて、コーナーではドライバーの望むままに気持ちよく向きを変えていく。軽快感に関しては990Sとの若干の違いが感じられ、やはり990Sは取り分け身軽だったのだと実感させられるが、ある意味で軽快感とバーターの関係にあるソリッド感は、990Sより上という印象だった。
では新開発のアシンメトリックLSDはどうだったか。今回の試乗の舞台は箱根の山道だったが、2速で抜ける上りのタイトコーナーで思い切ってスロットルを開いても内側後輪が空転したり、外輪がスライドして姿勢を乱すような兆候を見せることなく、前に向かって加速し続けた。アシンメトリックLSDの本当の価値は、サーキットのように長時間LSDが介入するようなコーナリングで発揮されるのだろうと思う。だから、少なくとも公道上でドライビングを愉しむ範囲では、LSDが必要かどうか微妙なところかもしれない。
というわけで、新型NDロードスターは確実に進化しているのを感じさせてくれると同時に、ボディサイズ、エンジン排気量、乗り易さ、それにプライスなど、どのポイントを採っても、2020年代のオープン2座スポーツカーとして他に代えがたい価値と魅力とを持った、唯一無二のクルマであること再認識したといっていい。
最後にもうひとつ‟ないモノねだり“をさせてもらえば、多くの点で進化した新型をベースに、新たな990Sを復活させて欲しいと思った。他のモデルより一段と軽快な身のこなしや、ソリッドなペダルフィールを実感させてくれるブレンボのブレ―キなど、990Sの乗り味は失うには惜しい魅力に溢れていたと思うからだ。もしもそれが実現するなら、プライスは先代の同モデルほどお買い得である必要はないかもしれないと、僕は思う。
SPECIFICATIONS
新型マツダ ロードスター Sレザーパッケージ Vセレクション
ボディサイズ:全長3915×全幅1735×全高1235mm
ホイールベース:2310mm
車両重量:1030kg
駆動方式:FR
エンジン:直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量:1496cc
最高出力:136PS(100kW)/7000rpm
最大トルク:152Nm(15.5kgfm)/4500rpm
トランスミッション:6段MT
サスペンション:(前)ダブルウィッシュボーン(後)マルチリンク
価格:355万3000円
先代マツダ ロードスター 990S
ボディサイズ:全長3915×全幅1735×全高1235mm
ホイールベース:2310mm
車両重量:990kg
駆動方式:FR
エンジン:直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量:1496cc
最高出力:132PS(97kW)/7000rpm
最大トルク:152Nm(15.5kgfm)/4500rpm
トランスミッション:6段MT
サスペンション:(前)ダブルウィッシュボーン(後)マルチリンク
価格:289万3000円(販売終了)
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