ハースF1チームにとって、10月11日に発表されたTOYOTA GAZOO Racing(TGR)との技術提携は、正しい方向への一歩だ。しかし、フェラーリやダラーラといった他のパートナーを含む全体の活動において、作業を調整するのは難しい仕事になるだろう。
この提携からハースは確実にメリットを得ることができる。TGRのモーターレーシングに関する最新テクノロジーや優秀な人材を活用することができるとともに、世界トップレベルの自動車メーカーと手を結ぶことによる商業的な利益も大きい。また、ハースはイギリスにおける本拠バンベリーにシミュレーター施設を建設する計画があり、それに関してTGRの協力を得ることも明かされた。
トヨタ/GR、ハースF1と車両開発、ドライバーやエンジニアの人材交流の協力関係で合意
一方で、ハースは、フェラーリおよびダラーラとの関係を維持しつつ、TGRとの新たなパートナーシップを結んだことで、複雑な調整が必要になるだろう。TGRはエンジニアおよびメカニックがハースのF1マシンの空力開発に参画すると述べている。
小松礼雄代表が率いるハースチームが今後もマシン設計と開発の完全な主導権を保持することは間違いない。だが、ハースは、マラネロのフェラーリの敷地に隣接する場所に拠点を持ち、そこでは主に元フェラーリのデザイナーたちで構成されるプロジェクトグループが作業を行っている。また、シャシーの製造は、ハースがF1に参戦して以来ずっとイタリアのダラーラが受け持ってきた。イタリアのマラネロとバラーノ・デ・メレガーリ、イギリスのバンベリーで行ってきたハースの作業の過程に、今後、ドイツのケルンに本拠を持つTGRがどのように関与するかだ。
一般的には、F1チームの作業はできる限り同じ場所、あるいは近い場所で行うことが望ましい。最近、ルノー・グループのCEOルカ・デメオは、シャシーとパワーユニットの設計と製造を行いながらアルピーヌF1チームを成功させる唯一の方法は、全体の組織をエンストンのファクトリーにまとめることだったと語った。しかしビリー-シャティヨンのファクトリーからエンジン部門を移すことが不可能だったため、結局2026年のパワーユニット(PU)プログラムを中止し、アルピーヌをワークスチームからカスタマーチームにしてF1に参戦させるという決断に至った。
フェラーリは常にシャシーとエンジンに関する組織をひとつの本拠地にまとめている。メルセデスはブラックリーとブリックスワースに分かれているが、その距離は車で45分以内だ。F1参戦のためにザウバーを買収したアウディは、F1エンジン設計・開発のためのファクトリーを、スイス国境そばのヒンウィルに位置するザウバーのファクトリーに比較的近いドイツ・ノイブルグに構えている。どのチームも、すべての部門が近接していることが効率上、非常に重要であると考え、それを実現するために努力を払ってきた。
しかしハースは、今後、4つの拠点で活動を行うことになり、さらに、チームの一部は依然としてアメリカ・ノースカロライナ州カナポリスに残っている。これらの異なる部門間の調整を成功させ、作業が重複しないことをうまく避けることが重要になる。
こうした課題を乗り越えながら、F1で最も小さなチームがこの新しい構造の下でどのように進化するのかを、今後我々は見ていくことになる。いずれにしても、ハースとトヨタにとって非常にエキサイティングな時代が始まることは間違いない。
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