もくじ
どんなクルマ?
ー 本家よりひと回り小さなラプター
ー ボンネットに収まるのは2.0ℓ4気筒ディーゼル
どんな感じ?
ー 最高出力213ps、最大トルク50.6kg-m
ー キャビンと荷台を付けたアリエル・ノマド
ー シャシー性能を突き詰めた、現実的なスピード感
「買い」か?
ー 同価格帯では抜きん出た面白さ
スペック
ー フォード・レンジャー・ラプターのスペック
どんなクルマ?
本家よりひと回り小さなラプター
今回ご紹介するのは、フォード・ラプターだが、スーパーカーのフォードGTのエンジンを搭載している、あのラプターとは少々異なる。また、本家よりも欧州フレンドリーなラプターでもある。
これはF-150よりもコンパクトなボディを持つ、フォード「レンジャー」ラプターで、こちらのエンジンはロンドン東部のダゲナムで生み出されている。名目上は、フォード社のレーシング部門、フォード・パフォーマンスに属するモデルということになっている。
実際、英国の道路サイズにも、F-150よりしっくりきていると思う。ただし通常のラプターとの相対的な比較での話で、ダブルキャブのピックアップ・トラックは、レンジャーであっても普通のクルマと並べると大柄なことには違いない。
メキシコ半島で行われるラリー、バハ1000のマシンを思わせるようなボディの全長は5398mmで、標準ボディより44mm延長されている。全幅は168mm増しの2028mmで、全高は52mmリフトアップされた1873mm。すべてはオフロード性能を高めるためだ。
ボンネットに収まるのは2.0ℓ4気筒ディーゼル
見た目だけでなく、ラダーフレーム・シャシーはフロントのサスペンションマウント周りが強化され、リアサスペンション周りは設計自体が改められている。古風なリーフスプリングの代わりに、コイルスプリングとパラレルリンク構造を採用し、リアアスクルの動きをコントロールする。
スプリング自体も新しいものになり、フォックス・モータースポーツ製のダンパーを装備。荷台が空であっても、オフロードを高速でかっ飛ばしても、暴れること無くベストな状態を保ってくれる。あえて呼ぶなら、グラベル専門のスポーツカーといったところか。
リフトアップされたおかげで最低地上高も51mm増しの283mmとなり、アプローチアングルとデパーチャーアングルも30%向上。17インチのアルミホイールにBFグッドリッチ製のK02タイヤがボディを支える。
こんな内容だからレンジャーのラインナップの中でもトップグレードに位置し、選べるのはダブルキャブ・ボディのみのなる。価格は税込みで4万8785ポンド(707万円)。最も高い標準のレンジャーよりも1万ポンド(145万円)ほど高い。
ボンネットには、熱狂的な興奮を与えてくれるV6ガソリンではなく、2.0ℓ4気筒のツインターボ・ディーゼルが納まっている。少々残念にも感じるが、これは仕方ない。V6ガソリンがお望みなら、アメリカに移住するのが良いかもしれない。
眼の前に広がる、モロッコの原野が呼んでいるようだ。
どんな感じ?
最高出力213ps、最大トルク50.6kg-m
レンジャー・ラプターは、このツインターボエンジンが搭載される初めてのクルマでもあり、最高出力は213ps、最大トルクは50.6kg-mを発生。ステアリングホイール裏にチタン製のシフトパドルも付いた、10速ATが組み合わされる。ローレンジとハイレンジを備え、ハイレンジでは後輪駆動と4輪駆動が選択でき、ローレンジでは4輪駆動のみとなる。
2510kgと車重は軽くないが、0-100km/h加速は10.5秒、最高速度は170km/hと、ハイパフォーマンス・オフローダーとしては充分な性能を誇る。だが、あくまでもピックアップ・トラックでの基準で、普通のスポーツカーとは並べないでほしい。
普通車ベースのスポーツモデルの場合、シャシーやサスペンションの設計を変更したり、マフラーの取り回しなどを変更すると、ラゲッジスペースや牽引能力などで制限を受ける場合がある。レンジャー・ラプターも同様で、最大積載量が1tから620kgへ、牽引能力も3.5tから2.5tへと減っている。
荷物を運搬できる量が多少減っても、レンジャー・ラプターの場合なら、オーナーで困るひとは少ないかもしれない。ただ、英国では商用車ではなくなっているため、通常のレンジャーのように付加価値税での優遇はなくなっているけれど。
目のあたりにすると、思わずその走りに興味が掻きたてられる。今回、レンジャー・ラプターで難なく駆け抜けたルートはどれも一筋縄ではいかない場所ばかりだった。このクルマの能力の高さを裏付けたカタチだ。
キャビンと荷台を付けたアリエル・ノマド
英国AUTOCAR編集部では、別企画でピックアップ・トラックの試乗レポートビデオを制作しているが、ラダーフレームなどシャシーとボディが別々の構造の方がオフロード走行では優れていた。ラプターの場合、そこにさらにスピードという楽しさが追加されている。
レンジャー・ラプターのチーフエンジニアは、高速で走行するほどダンパーの性能が引き出せると話していたが、実際に走らせてみると本当だった。アリエル・ノマドに5シーターのキャビンと荷台を付けたようなクルマとでもいえようか。オフロード・ラリーに出場しているレースマシンからインスピレーションを受けているということだから、あながち当たっているかもしれない。
ステアリングホイールの操作感は軽い。シフトパドルが付いているが、使用してもしなくても、エンジンとトランスミッションのレスポンスは特に変わりはない。直線加速自体はそれほど激しいものではなく、クルマが秘めた能力を、そこからうかがい知ることは難しい。
普通に走行している限り、キャビンには逆位相の音波で静かにするアクティブノイズ・キャンセル機能も備わっており、ボンネットからのエンジン音もかすかに耳に届く程度。手荒な改造車ではないのだ。2.5tのクルマでありながら、ボディコントロール性も良く、脚さばきも印象に残るほど優れている。
シリアスな性能を持ったオフローダーだけが走破できる大地を、他のどんなクルマよりも速く走ることができる気がしてくる。ロンドン郊外の閑静な住宅街が広がるギルフォードは、流石にこのクルマにとっては堅苦しい。フェラーリをイタリアの狭いフィオーラノの街で走らせるのと同じだ。オフロード・スポーツカーとして、然るべき場所を走れば、この上なく楽しい。
シャシー性能を突き詰めた、現実的なスピード感
レンジャー・ラプターの基本的な実用性も充分に優れている。それほど体にフィットするわけではないが、シートは新しくなり、車内に使われている素材も上質なものに変更されている。一瞬躊躇してしまう、5万ポンド(725万円)目前の価格に釣り合わせるために。
フォード製のインフォテイメント・システムは例によって使い勝手が良いものではないが、スマートフォンとのミラーリング機能は付いている。リアシートの快適性も合理的なレベル。静止状態のレンジャー・ラプターでお伝えできることは、この程度。
レンジャー・ラプターのシャシー性能に見合うような、高性能なエンジンが搭載されていないという点には、読者も腑に落ちないかもしれない。例えば、新しいトヨタ・スープラに1.4ℓのディーゼルエンジンを搭載して、我慢しているようにも感じてしまう。わたしの記憶では、0-100km/h加速が10秒以上もかかるのに、ハイパフォーマンス・モデルと名乗るクルマは、最近では他にない。
しかし、下駄を履いたシャシーの下を覗けば、フォードがどれほどの手を加えているのか理解できるだろう。標準のレンジャーでは不可能なスピードでグラベルを疾走させれば、フォードの目指したクルマの姿を理解することができると思う。
もちろん、フォードは3.5ℓの400psを超えるV6ターボエンジンを、レンジャーに搭載し、大きなオフロードタイヤを取り付けて、レンジャー・ラプターだと発表することもできたと思う。その場合も、現実と同様に大きな注目を集めたに違いない。
大きなエンジンを積む以上に、シャシー性能を磨くことにはコストを要する。同程度の価格で、ハイパワーなエンジンを選択した場合、シャシーの完全性は薄らいでしまうはず。その時、私は今回と同等の高い評価を与えないと思う。現実的なスピード感こそ、現代に求められている速さではないだろうか。
「買い」か?
同価格帯では抜きん出た面白さ
わたし個人の好みとしては、中途半端な変わりものより、すべての面で普通とは異なるものの方が、寛容にその魅力を受け止めることができる。違うエンジンなら、もっと好きになれたかもしれない。あるいは、レンジャー・ラプターをより普通のピックアップ・トラックのように仕立てることもできたかもしれないが、面白みはあっても、費用は更に高く付くはず。
だが、フォードが新しいニッチマーケット向けのクルマを生み出したことは確かだ。同価格のプレミアム・クロスオーバーよりもはるかに面白いクルマだと思う。
購入をお薦めするかどうか。そこは難しいところだ。モーガン3ホイラーやアリエル・ノマド、ロールス・ロイス・ファントムを人に薦めるのと同じような気がしてしまう。もし読者が欲しいと思ったのなら、ぜひ前向きに検討するべきだろう。現在購入できるクルマの中で、最も走りの興味を掻き立てられるクルマの1台であることは断言できる。その事実だけでも、充分に手に入れる価値はある。
フォード・レンジャー・ラプターのスペック
■価格 4万8785ポンド(707万円)
■全長×全幅×全高 5398✕2028✕1873mm
■最高速度 170km/h
0-100km/h加速 10.5秒
■燃費 11.2km/ℓ
■CO2排出量 233g/km
■乾燥重量 2510kg
■パワートレイン 直列4気筒1996ccツインターボ
■使用燃料 軽油
■最高出力 213ps/3750rpm
■最大トルク 50.6kg-m/1750-2000rpm
■ギアボックス 10速オートマティック
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