レクサス「LC500」に追加されたコンバーチブル・モデルをサトータケシがテストした。
ドラマティックなエンジン・サウンド
“美しさ”と“実用性”の進化──新型BMW4シリーズ・グランクーペ登場
レクサス・LC500コンバーチブルの幌を下ろして第三京浜を流していると、後席に座った取材スタッフが、「なんか、カリフォルニアに来たみたいですね」と、のたまった。なにをアホなことを言っているのか……と、思わなかったのは、ハンドルを握る筆者もおなじようなことを考えていたからだ。このクルマには、人を錯覚させるパワーがある。
後席のスタッフよりむしろ、ハンドルを握ってアクセルペダルを操作している筆者のほうが錯覚していたかもしれない。
まずこのクルマは、望外にステアリングフィールがいい。タイヤがいま、どんな状態で路面と接しているのかが、手のひらに明快に伝わってくる。前輪に駆動力が伝わらないRWD(後輪駆動)はやっぱりいい、としみじみ思いながら、濁りのない、すっきりとした手応えを味わう。
アクセルペダルを踏み込めば、ドライバーの意図を汲み取った10速ATが的確にギアを落とし、エンジン回転数がポンと跳ね上がる。そして、排気量5.0リッターのNA(自然吸気)V型8気筒エンジンのエグゾーストノートが、ダイレクトに耳に届く。3500rpmからリミットの7200rpmにかけて、次第に音が甲高くなり、ボリュームも増す。ただエンジン回転が上がってパワーが高まるだけでなく、その過程にドラマがある。
とくに音が反響するトンネルに入ると、つい無駄にアクセルペダルを踏んだり戻したりしてしまう。
レクサスLC500のクーペにはハイブリッド仕様が用意されるけれど、コンバーチブルには設定がない。重量増を避けたのか、あるいはモーターやバッテリーを置くスペースの問題かもしれないけれど、ひとたび屋根を開けてこの音を味わってしまうと、コンバーチブルはV8一本勝負で妥当だと納得する。
V8のエグゾーストノートは、最近よく見られる作為的な爆音ではなく、ごく自然に耳を喜ばせる。この音のよさの裏には、吸気音を室内に取り込んで響かせたり、不快なノイズをコントロールしたりする細やかな技術がある。
まるで有能な執事
快音にシビれながら、2010年にレクサス「LFA」がデビューしたときに、ヤマハの音響スタジオに案内されたことを思い出した。
車体に無数のマイクや計測器を取り付けて実験を重ねることで、LFAのV10エンジンの“天使の咆哮”が生まれたわけで、おそらくあの時のノウハウが生きているのだろう。レクサスがお金と時間をかけてスーパースポーツを開発したことには、意味があった。
最高出力477psだから、もちろんまわせば速いけれど、このエンジンは速いとか遅いとかよりも、心地よいという言葉が似合う。音がよくて、ピックアップがいい。
10段ATもいい仕事をしている。普段は黒子に徹しているけれど、ここぞ! という場面では電光石火かつシームレスにギアを落としてくれる。なにもないときには気配を消して、いざというときに的確な仕事をするあたり、まるで有能な執事のようだ。
ハンドリングも同様で、特段クイックに曲がるわけではないけれど、外輪をきれいに沈み込ませながら、優雅に、気持ちよく曲がる。ぶっ飛ばさなくても楽しく走っている実感が得られるのがいい。
いい時間を過ごせる
乗心地に文句はない。市街地では、ドライブモードで「コンフォート」を選ぶと、路面からのショックを上手に丸め込んでくれる。ただし「コンフォート」にすると、高速道路ではじぶんの好みからすると少しフラットさが足りない。そこで「スポーツ」をセレクトすると、ダンピングが効いて上下動が抑えられる。
市街地ではゆったりと、高速ではピシッと走れるドライブモードの設定は、的を射ている。
ちなみに「スポーツ+」を選ぶと、ダンピングの効きは「スポーツ」と同じままで、ステアリングの手応えがグッと骨っぽくなる。
品のいいブラウンのレザー内装に囲まれて手触りのいいレザーのハンドルを握っていると、たしかに第三京浜を走りながら見える景色が、アメリカ西海岸のように感じられる。梅雨の合間、ときどき鋭い日差しが照りつける蒸し暑い日だったけれど、室内の温度は快適に保たれる。このクルマの空調システムはルーフの開閉状態によって制御を変えているのだ。ただし、快適すぎてずっと屋根を開けていたら、予想以上に日焼けをしていたから要注意だ。
空調やエグゾーストノート、そしてドライブモードの設定など、ディティールをきっちりと詰めてドライバーをもてなしてくれるところが、いかにもレクサスらしいと感じた。
レクサスは単にクルマを作るだけではなく、豊かな時間やびっくりするような体験を提供するブランドを目指すと公言している。このクルマに乗ると、それが大言壮語ではないと思わされる。たしかに、いい時間を過ごすことができた。
こんなことを感じさせるLC500コンバーチブルは、もっともレクサスらしいレクサスではないだろうか。もうひとつ、個人的な好みを言わせていただけば、1番好きなレクサス、ベストのレクサスだと思う。
試乗を終えて、ずっと屋根を開けっぱなしだったことに気づいた。本当は、屋根を閉めた状態と開けた状態での乗心地の違いを確認しなければいけなかった……。やはりこのクルマには、ドライバーを錯覚させる力がある。
文・サトータケシ 写真・小塚大樹
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みんなのコメント
クルマすごくいいけど、地味だから
SOARAってサブネームつけてもいいんじゃないw