今季から新体制となったヨシムラSERT Motulは、初戦の2021FIM世界耐久選手権(EWC)第1戦ル・マン24時間耐久ロードレースで優勝を飾った。チームが使用しているスズキGSX-R1000Rの開発ライダーを務め、開幕戦では第4ライダーとして予選を走った渡辺一樹に24時間耐久レースの印象や感想を聞いた。
ヨシムラは鈴鹿8耐に参戦するために、開発ライダーの渡辺を全日本ロードレース選手権にスポット参戦させてマシン開発をしていた。そして、昨年末にヨシムラとSuzuki Endurance Racing Team(SERT)がタッグを組み、2021年からヨシムラSERT Motulとして参戦することが明かされ、ヨシムラが24時間レースでも走り切ることができるバイクを開発していたことがわかった。
TSRホンダ優勝。BMW、ヨシムラ、YARTヤマハ、SRCカワサキが首位走行中にトラブルも挽回/2021EWC第2戦エストリル12時間
そんなヨシムラSERT Motulは、今シーズンは、まず全日本ロード第1戦もてぎと第2戦鈴鹿2&4レースに渡辺を起用してスポット参戦。鈴鹿2&4は怪我で欠場することとなったが、第1戦もてぎでは2レースともに表彰台を獲得している。
その後、6月12~13日にフランスのル・マン-ブガッティ・サーキットでEWC開幕戦ル・マン24時間が開催された。ゼッケン1をつけるヨシムラSERT Motulは、昨年チャンピオンを獲得したSERTが使用していたマシンではなく、渡辺が開発を行っているヨシムラのマシンを使用して戦った。
ル・マンでは、チームに帯同して予選の2セッションを走った渡辺は1分36秒933の好タイムを記録した。「フリー走行は走っていません。走行が極端に少ない状態から(予選が)スタートして、トータルで20数周くらいしか走っていませんが、チームメイトに対して1秒以内のタイムに入れ、バイクの状態の確認もできたので悪い状態ではなかったと思います」と渡辺。
「転倒するわけにはいかないし、タイムを出さないわけにはいかないという難しい状況でしたが、仕事はできたかなと思います。基本的にマシンのパッケージは国内でテストしたものとまったく同じですが、EWC用のタイヤに対してのアジャストは3月のテストでしていました」
テストの際に使用したタイヤの違いもあり、マシンは多少のセットアップを行っているというが、レースウイークには、グレッグ・ブラック、ザビエル・シメオン、シルバン・ギュントーリからどのようなインプレッションが返ってきたのだろうか。
「今後の開発も含めて、3人のライダーの意見を聞くのは非常に大事なことなので、要望は聞いています。しかし、開幕戦がほぼ完璧なレースだったので、ライダー側からコンプレインはありませんでした」
「みんなが勝った状態でのパッケージは崩したくないという考えがあると思うので、自分としてはやりやすく、同じ方向に進んでいけば結果は自ずとついてくることは確認できたので良かったです。MotoGPを走り開発もしているシルバン、耐久レースでの経験が多くあるふたり(ブラック、シメオン)からから(乗りやすいと)言ってもらえたのが一番の褒め言葉でした」
■レースには参戦できなかった渡辺一樹が語るパドックで過ごした24時間耐久
渡辺は第4ライダーとして参加し、予選は走行したが、レースではブラック、シメオン、ギュントーリの3人で24時間を走り切った。
レース中はパドックで過ごした渡辺は「現地にはライダーとして行っているし、他のライダーの手伝いもしようと思っていましたが、それぞれのライダーにヘルパーがいたので、自分の出る幕はありませんでした。レースが始まってからはコースサイドに行ってみたり、普段できないことをしていました」と行動を語る。
「夜中はコースサイドで行っても見れないので、僕は2~3時間くらい寝ました。僕はそこまで負荷はかかっていませんでしたが、メカニックやライダーがよくこんなことをするなと考えちゃうくらいでしたね」
「(レースではトラブルは)本当に何もなかったですよね。24時間のレースをやっていればトラブルのひとつやふたつは出るものだと思っていましたが、最後まで何もないまま終わって、いい意味でのあっけなさがありました」
また、特殊な24時間レースを現地で観て多くの学びがあったという渡辺は「スプリントレースとは違い、タフなレースって一言で片づけられない過酷さがありました」と耐久レースについて以下のように話す。
「24時間走り続けるということと、瞬間的にスピードを見せて、それをどれだけ維持できるかの考え方の違いです。そのメンタリティの差が一番大きいと思います」
「僕はスプリントレース寄りの考えを持っているし、24時間戦い抜くのは難しいだろうなと感じました。ライダーの技術面でいうと、そんなに大きな差はないなと感じていましたので、考えた方を変えていかないとなという学びが大きい所です」
自身が開発したマシンを使用してチームが優勝した感想については「ライダーとしては複雑な心境が正直なところです」と述べた。
「結果としてはすごく良いですが、レースを目の前で見ながら何もできない状態で……。開発ライダーとしての気持ちと、実際にレーシングライダーとして走れなかった悔しさで、レース中はストレスフルな状態でしたね」
「自分が走るべきレースが目の前で行われているのに走れないというのはなかなか気持ちいいものではありませんでした。しかし、開発ライダー、チームとしては、完璧なレースをして完璧な結果を残しているので、純粋に喜ばないといけないなと思います」
2021年は全4戦が開催される予定のEWC。7月17日に行われたポルトガルで第2戦エストリル12時間では転倒もあり17位となったが、ランキングはトップから11ポイント差の4位。9月18~19日にフランスで第3戦ボルドール24時間、そして11月7日に鈴鹿サーキットで鈴鹿8耐が行われ、渡辺が開発したマシンで、ヨシムラSERT Motulは2度目の優勝、そしてチャンピオンを目指す。
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