ロータスの最新ミドシップ2シーター「エミーラ」が、ついに日本へ上陸した。試乗したサトータケシが味わった痛快な走行性能に迫る!
最後の1台
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「これが最後のミドシップエンジンのロータスか……」
漫画『サーキットの狼』をバイブルと仰ぎ、主人公が駆るロータス「ヨーロッパ」でクルマに目覚めたスーパーカー世代としては、このクルマを前にすると、感傷的な気持ちになってしまう。
ロータス・エミーラは、簡単に言えば同社のミドシップスポーツカーである「エヴォーラ」の後継モデル。ミドシップのレイアウトとともに、アルミニウム製の構造体を接着剤で組み立てる、バスタブシャシーと呼ばれる基本骨格も継承している。
ちなみに現在、ロータスは大きな変革期にある。1996年に「エリーゼ」を発表して以来、比較的コンパクトなミドシップエンジンのスポーツカーだけをラインナップしてきたけれど、近い将来に電動モデルに移行するとアナウンスしたのだ。スポーツカー以外のスタイルにも進出することが決まっており、BEV(バッテリー式電気自動車)のSUVである「エレトレ」の予約受付が始まった。
エミーラは、エンジンを搭載する最後のロータスであるのと同時に、このブランドの今後のあり方を示唆するモデルでもあるのだ。
ロータス史上、最も快適な乗り心地全長4413mmと、いわゆるスーパースポーツに比べるとサイズはコンパクトだ。けれど、リヤフェンダーの張り出しは肉感的で、存在感では負けない。
そしてドアを開けてドライバーズシートに腰掛けると、「これが最後の……」という感傷的な気持ちは吹き飛んだ。インテリアがラグジュアリーかつデジタル化されていて、「これからはこっちの方向に進みます」という明快なメッセージを発していたからだ。昔を懐かしがっていても仕方がないのだ。
試乗車は、3.5リッターのV型6気筒のスーパーチャージドエンジンと6MTを組み合わせ、装備を充実させた「ファーストエディション」という仕様。ほかに、メルセデスAMG製2.0リッター直列4気筒ターボエンジンもラインアップするけれど、直4モデルはATしか選ぶことができない。
V6ファーストエディションにはプレミアムスポーツシートが備わり、素材にはナッパーレザーと人工皮革「アルカンターラ」が選べる。試乗車は前者で、滑らかな手触りとふんわりと包み込むような掛け心地、そして12ウェイの電動調整機能と3段階で温度調節ができるシートヒーターが備わるあたり、ストイックでスパルタンだったかつてのロータスとは大違いだ。
エヴォーラは狭いながらも後席のある2+2で、短時間であれば4名での移動も可能であったけれど、エミーラは2シーター。シート後方、エヴォーラでは後席があった場所は、そこそこ広いラゲッジスペースとなっている。
エンジンを始動して、オートマに慣れた左足には踏みごたえのあるクラッチを踏み込んで、1速にシフト。
低回転域からしっかりとトルクを発生するエンジン特性と、クラッチのミートポイントがわかりやすいから、なんの苦労もなくスムーズに発進する。
走り出して真っ先に感じるのは、望外の乗り心地のよさ。4本の脚がしなやかに伸び縮みして、路面からのショックを緩和してくれる。ロータス史上、最も快適な乗り心地だといっても間違いないだろう。
エミーラには「ツアー」と「スポーツ」という2種類のサスペンションの設定が用意されるが、ファーストエディションは乗り心地重視の前者が採用されているという。
ブリティッシュスポーツらしい味わいご存知の方も多いように、ロータスが積むV6エンジンはトヨタ製。ただしロータスの手で見事にスポーツカー用にチューンされていて、回転フィール、音、そしてパワーとトルクの盛り上げ方に至るまで、実にエキサイティングだ。
特に、「TOUR」「SPORT」「TRACK」の3つのドライブモードから「TRACK」を選ぶと、アクセル操作に対するレスポンスは電光石火の素早さになり、排気音はさらに低音が効いた迫力あるものに変わる。
実際は2000rpmもまわっていれば充分以上のトルクを発生するけれど、3500rpmあたりから盛り上がるパワー感と乾いた排気音を堪能したくて、頻繁にシフトダウンしてしまう。最初はちょっと重いかなと思ったクラッチも、なれれば心地よい重さだ。
低回転域から力強いトルクを発生することと、甲高い音ではなく重低音でドライバーを鼓舞するあたりが、ラテン系と異なるブリティッシュスポーツらしい味わいだ。
エンジン回転を上げてスポーティに走るような場面でも、乗り心地のよさが損なわれることはない。パキン、パキンと曲がるかつてのロータス・エリーゼのような小気味よさではなく、弧を描くように優雅にコーナーをクリアしていく。
6MTのシフトフィールは節度があって悪くはないものの、少し前後方向のストロークが長いことが不満だった。手首だけの動きでカチカチ決まるのではなく、肘まで動かす必要がある。
けれどもワインディングロードでのエレガントなコーナリングフォームを経験すると、これくらいのシフトストロークのほうがクルマの性格に合っているように感じた。スポーツカーひと筋71年、百戦錬磨のロータスのことだから、おそらくそこまで考えてセッティングしているのだろう。
ドライブモードを「TOUR」に戻し、高速をクルーズする。前述したようにエンジンをまわす必要はないから室内は静か。BBCのエンジニアが立ち上げたという英国のオーディオメーカー、「KEF」のサウンドシステムのナチュラルな音を存分に楽しめる。
余裕のあるV6エンジンを積むことと、足まわりのセッティングが「ツアー」であることもあって、グランドツアラー的な使い方をするのもいい。荷物もそこそこ載るし。
ただし、ステアリングホイールの手応えからタイヤの状態が精緻に把握できることや、ドライバーの操作がダイレクトに挙動に反映されることなど、スポーツカーの“芯”の部分は変わっていなかった。電動化されても、ラグジュアリーになっても、おそらくロータスはロータスなのだろう。
それが確認できて、試乗前に感じた感傷的な気分は霧散、「どんなBEVのSUVを作るのだろう」という、未来を楽しみに待つ気持ちに切り替わった。
文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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