東洋工業(現・マツダ)がNSU社とライセンス契約を交わし1961年から研究開発を始めたロータリーエンジン。1951年にフェリックス・ヴァンケル博士が発明したもので、「夢のエンジン」とまで言われたが、実際には未完成なものだった。当時の松田恒次社長に社運をかけたロータリーエンジンの開発を託されたのが、気鋭のエンジニア山本健一氏だった。この連載ではその開発過程から1991年のマツダ787Bによるル・マン24時間制覇までを、マツダOBの小早川隆治さんの話に基づいて辿ってみる。
電気あんま問題をサイドポートという新技術で克服し、コスモスポーツを市販
残る3つ目の「電気あんま」の問題は、ツインローター化と吸気をペリフェラルポートからサイドポートに変更することで改善された。 ペリフェラルポートの場合は、ストレートに空気を吸入するために吸気抵抗が少なく高速回転では有利だ。しかし、これだとロータリーエンジンの構造上、吸気ポートと排気ポートが同時に開くオーバーラップが大きくなる。この状態では低回転では燃焼したガスが吸入された混合気と混ざりエンジン回転が不安定になりやすい。これがいわゆる「電気あんま」と呼んだ振動の要因だった。
【くるま問答】トヨタ2000GTのサイドにある四角い部分には、いったい何が入っているのか?
この解決には吸気方法の改善が必要で、混合気の流れや、排出ガスの流れを計測するなどの基礎実験が繰り返され、いろいろなアイデアが検討された。そして、吸気をサイドハウジングから行うサイドポート吸入方式が採用された。これによりオーバーラップを減少させて低回転域での燃焼の安定を実現した。
「僕も当時シングルローターの試験に携わったことがあるけど、本当に振動には苦労したんですよ。それに比べて最近デミオEVのレンジエクステンダー試作車に乗ってみると、電気あんまと言われたシングルローターのものと全然ちがう。運転席に座っていてもエンジンが回っているのか分からないくらいだ。レンジエクステンダーの場合、エンジンは一定回転で回せばよく、非常にコンパクトなシングルローターのレンジエクステンダーは電動化が進む中で重要な技術のひとつになってゆくものと確信します」と小早川さんは語る。
「これまでお話した3つがとくに苦労した問題ですが、。サプライヤーさんのご協力も得ながら、これらの問題に対する見通しが立って量産に入っていくことができました」
このような経緯をたどってロータリーエンジンの開発が進み、遂に1967年5月に10A型ロータリーエンジンを搭載したコスモスポーツが市場に投入され、世の中に大きなインパクトを与えた。
「コスモスポーツを最初のクルマとして選択したのも松田社長だと思います。当時ロータリーエンジン搭載車を計画していたGMも日産もシトロエンもみんな小型乗用車にロータリーを積む計画でした。GMはシボレーベガに近いようなコンパクトなクルマでやろうとしました」
コスモスポーツという近未来を思わせる魅力的なスタイリングのスポーツカーにコンパクトでパワフルなロータリーエンジンを載せるというのは話題性という面を考えると非常に賢明な選択だったと言えるだろう。対して他メーカーは開発を諦めたり、作っても完成度の低いものだった。
「山本さんも当時のGMの社長と親交があって、最後はコール社長夫妻をマツダの迎賓館に招待したりしてるんですが、GMはロータリーをやめたというアナウンスをするし、コール社長自身がGMをやめた直後に、自分で操縦した飛行機事故で亡くなってしまう。ベンツも、シトロエンもあきらめた。NSUは、商品化は果たしたが、非常に限られた台数でした。アウトウニオン(現・アウディ)が入ってきて、いろいろなプレッシャーをかけられたのかもしれません」
そんな中でマツダのロータリーエンジンはその後も次々と進化をとげてゆく。<続く>(取材・文:飯嶋洋治)
参考文献:「マツダ・ロータリーエンジンの歴史(GP企画センター編/グランプリ出版)」
[ アルバム : 山本健一さんとロータリーエンジン[第4回] はオリジナルサイトでご覧ください ]
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