消滅の噂を跳ねのけて日産はGT-RのMY24を登場させた。デビュー以来15年超にわたり、毎年のように進化させ独自のGT-Rワールドを構築。その壮大な進化の系譜にスポットを当てつつ解説する。
※本稿は2023年6月のものです
文/片岡英明、写真/NISSAN、ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2023年7月26日号
デビューから15年超!! 価格も約2倍に!! 進化止まらないR35GT-Rの歴史が衝撃
■開発中止などの噂が流れるも日産を象徴するモデルに(R35GT-R 2007年)
デビュー後の仙台ハイランドでの試乗会でのワンカット。開発責任者の水野氏とテストドライバーの鈴木利男氏が中心となりGT-Rが誕生
新世代のハイパフォーマンススポーツクーペとして2007年秋に鮮烈なデビューを飾った。エクステリアは世界中のどのスポーツクーペにも似ていない独特の個性を発散し、インテリアも走りに徹した機能的なデザインだ。
パワーユニットは、新設計のV型6気筒DOHCツインターボのVR38DETT型で排ガス浄化レベル★3つを獲得しながら、480ps/6400rpm、60.0kgm/3200~5200rpmを絞り出す(現在の基準車は570ps/65.0kgm)。
6速ツインクラッチ式トランスミッションはゲトラグ製で、世界初の独立型トランスアクスルだ。その気になれば300km/hの世界を見せてくれた。
駆動方式は4WDの進化型アテーサE-TSで、デビュー時は4WDモードだけだった。スカイラインGT-Rと同じ栃木工場で生産され、2007年の発売時のベースモデルの新車価格は777万円である。驚くほどリーズナブルだった。
■クルマを進化させる一方、既存ユーザーにバージョンアップキットを用意(GT-R MY12 2011年)
エンジンのパワーアップに合わせボディ剛性を強化。サスペンションも左右非対称セッティングを施すなど走行性能向上を追求
2011年11月にGT-Rは2012年モデルへと進化。最大の注目ポイントはパワーユニットの改良だ。インテークマニホールドとヘッドの合わせ工程を追加するとともに、インタークーラーの吸入ダクトを樹脂化して断面を拡大。通気抵抗を減らしている。
また、エキゾースト系にメスを入れ、キャタライザーをコンパクト化してフロア下の抵抗を減らした。エキゾーストバルブも新設計の金属ナトリウム封入バルブだ。バルブタイミングや空燃比、点火時期の制御も見直した。
最大トルクは、2010年11月に登場した2011年仕様のVR38DETT型エンジンのハイブースト時と同じ64.5kgmだ。それでいて最高出力を550psに、20psも引き上げている。しかも新基準のJC08モード燃費で8.7km/Lを達成するなど、燃費性能も従来型より向上させた。
●進化ポイント
・550ps/64.5kgmに向上
・2WDモードの追加
・Rモード選択時の発進性能の向上
・スプリング、ショックアブソーバー、スタビライザーのレバー比を変更
・ブレーキに薄型大径ローター(Φ390)採用
■水野&鈴木コンビの集大成モデル(GT-R MY13 2012年)
タイヤやサスのたわみを考慮しロールセンターを引き下げ、スプリング、ショック、フロントスタビの設定変更でコーナリング性能が進化
2012年11月、GT-Rは年次改良。この2013年モデルが水野和敏氏にとって最後のGT-Rだ。
VR38DETT型エンジンはたゆまぬ改良を続けていたが、この時もファインチューニングを施し、一段と信頼性を高めた。高出力用のインジェクターを採用し、ターボの過給バイパスには専用開発のオリフィスを加えている。また、オイルパンには特殊構造のバッフルプレートを追加した。
熟練した職人がエンジンを組み立てているが、新たに職人の氏名を書き込んだアルミプレートが貼られるようになっている。ボディとサスペンションにも変更が加えられた。
0-100km/h加速は2.84秒から2.74秒に向上し、ニュルブルクリンクの北コースでのタイムも7分18秒6と、20秒を切る。インテリアを手直ししたのもニュースだ。
●進化ポイント
・エンジンの中回転域のレスポンスと高回転域での加速の伸びを向上(専用オリフィス追加など)
・アライメントの調整精度&整備性を向上・インテリアの質感向上
・バックビューモニターを標準装備で利便性向上
■陣頭指揮を執る人間が変わりクルマも変貌(GT-R MY14 2013年)
基準車に加えてGT-Rシリーズの頂点としてNISMOが追加設定された。基準車については、高性能はそのままに乗り心地などを含めた快適性が大幅アップ
GT-Rは2013年12月にマイナーチェンジを行い、2014年モデルとなった。水野和敏氏に代わってGT-Rの開発責任者になったのがカーガイとしても知られる田村宏志氏だ。エクステリアは、流行を採り入れたモダンなルックスに変貌。ヘッドライトやリアコンビのデザインを変え、ヘッドライトは最新のLEDだ。
また、シャシーのチューニングに変更を加え、ボディの補強も行なっている。同時にダブルウイッシュボーンとマルチリンクのサスペンションの設定を変え、従来モデル以上に走行性能を高めた。快適性に難があり、同乗者から指摘されていた乗り心地についても改善を施している。
が、最大の注目点は、日産のモータースポーツを司っているNISMOの名を冠したGT-Rが誕生したことだ。レーシングテクノロジーを積極的に注ぎ込み、公道だけでなくサーキットでも痛快!!
熟成の域に達したと思われていたVR38DETT型ツインターボは、きめ細かい改良で600psの大台に達した。パワーアップに伴ってボディ補強やサスペンションを強化。軽量で高強度のカーボンを使用したスポイラーを装備したことも話題になった。
●進化ポイント
・4輪の接地荷重の変動を大幅に減少
・特性を見直し、新たにブレーキチューニング
・高精度・高剛性ボディ・振動、騒音低減
・LEDヘッドランプ&新デザインのLEDポジションランプの採用
・NISMOモデルは600psに
■基準車は高性能+快適性、NISMOは極限性能を追求(GT-R MY20 2019年)
ターボ&DCTを見直して大きく進化
2019年はGT-Rが誕生してから50年の節目の年だったので生誕50周年を記念したGT-R 50thアニバーサリーが登場している。メカニズムではNISMO用ターボの高効率化技術、アブレダブルシールを採用し、応答レスポンスを高めている。ブレーキにもメスを入れた。
●進化ポイント
・エンジンフード、フロントフェンダーにカーボン素材を使用し軽量化
・GT3マシンを彷彿とさせるフロントフェンダーのダクトを新採用
・世界最大級のカーボンセラミックブレーキの採用
・旋回Gの大幅な向上
■トラクション性能を追求したTスペック登場(GT-R MY22 2021年)
Tスペックは100台の限定数に対し約27倍のオーダーが殺到。最終的には30台程度増産された
2021年2月にNISMOが一部改良を施し、10月に2022年モデルを発売。エンジンはピストンリングやコンロッド、クランクシャフトなどの重量バランスを高い精度で管理。また、ベテラン職人の手組みであることを証明する専用カラーの「匠」ネームプレートも貼り付けられる。
このNISMOには専用のレカロ製カーボンバックバケットシートが装備され、外観ではNACAダクト装備のカーボン製エンジンフードやレイズ製鍛造アルミホイールが目を引く。
基準車ベースのTスペックはトラクション性能を追求したモデルで限定販売された。
●進化ポイント
・基準車をベースにTスペックを新設定
・専用カーボンセラミックブレーキの採用
・専用カーボン製リアスポイラーの採用
・専用カーボン製ルーフ&トランクリッド採用
・新ボディカラーの追加
■生産終了の噂が絶えなかったが騒音規制に適合させて生き残った(GT-R MY24 2023年)
新開発のマフラーによる車外の音は明らかに静か。室内音もスピーカーで好演出
2023年3月にマイチェンを行い、4月下旬から空力特性を向上させた2024年モデルを発売している。高次元の車両トータルパフォーマンスを追求し、フロントとリアのバンパー、そしてリアスポイラーのデザインを変えて空気抵抗を増やすことなくダウンフォース効果を高めた。
また、タイヤの接地性を高め、ハンドリング性能に磨きをかけて洗練された乗り味を実現しているのも特徴だ。新車外騒音規制に対応させるために新構造のマフラーを採用したことも特筆できる。動力性能は変わらないが、不快なノイズを減らし、耳に心地よいサウンドを実現した。
●進化ポイント
・新車外騒音規制に適合させる新開発マフラー採用し、走行時の振動、騒音を大幅に低減
・フロントの新デザイン
・リアスポイラーのデザイン&取付位置変更
・リアウイングを高い位置にセット(NISMO)
【番外コラム】GT-Rの価格のハナシ
2007年にデビューした時のGT-Rの標準グレードは777万円!! 今考えれば超バーゲンプライス。2010年に登場したピュアエディションは869万4000円だったのに対し、MY24は1375万円。約13年で1.5倍超となっているのにビックリ。
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