SUVにとって悪路走破性を高めるため4WDは理に叶っている。しかしCUV(クロスオーバー・ユーティリティ・ビークル)とも括られる都会派SUVにとって、4WD化は必ず絶対とも言えないようだ。4WDに加え、FWD(前輪駆動)、RWD(後輪駆動)を採用するSUVの魅力と世界観を探る。
内燃機関の魅力を活かすか、それとは別の魅力を探るか
常に余裕をもって行動できる“強欲なき紳士”にこそ相応しい!「ロールス ロイス スペクター」【野口 優のスーパースポーツ一刀両断!】
SUVのフルラインナップ体制を前に、自動車が均質化していくと嘆くのは早計だ。電動化に代表されるようパワートレインは変貌していくが、各自動車メーカーは内燃機関時代に構築した個性を残しつつ、SUVという形態で新しい価値を創造する。そんな新しい潮流をリアルタイムで観察できるいまの時代は幸運だ。
オンロードSUVという新ジャンルを確立した先駆者はX5だった。姿カタチはSUVなのに普通の乗用車のようなドライビング感覚が新鮮だった。その最新作にして最強モデルであるM60i xDriveは、4.4L・V8ツインターボに48Vのモーターを組み合わせる。モーターはこの巨体をスムーズに動かす手伝いをするだけで、あくまで主役はエンジンだ。この時代、これだけの大排気量かつマルチシリンダーを愉しめるだけでも価値がある。低く唸るようなサウンドと滑らかな感触を伴って速度を上げていく。高回転での快音と、背中を押すような加速感も刺激的だが、ただ粛々と街を流すだけで気持ちがいい。BEVとは別次元の機械的な魅力がある。
50:50に近い前後重量配分という素性の良さに加え、M xDriveとMスポーツ・ディファレンシャルが4輪に配分する駆動力を緻密に制御するからか、ハイパワーかつ高重量をものともせず路面を常に捉えていく。BMWの“駆けぬける歓び”を何がなんでも貫くために武装した4WDシステムだといいたくなるくらいに。
メルセデス・ベンツのベストセラーSUVのトップモデルであるGLC 63 S Eパフォーマンスにもまた、同社の新しい価値が盛り込まれる。AMGのマイスターが手組みするエンジンという生産体制には固執しつつも、それは大排気量V8から、たった2L直列4気筒ターボに変わった。ただしそれはF1由来という世界最高峰のM139ユニットであり、リアアクスルに定格出力80kW/ブースト時150kWのモーターを組み合わせたPHEVへ。システム出力680ps、トルク1020Nmだと聞く限りは、もはやスーパーカーの領域である。
本筋は高性能エンジンとモーターとで成り立たせる新しい乗り味だ。街乗りではEVのようにシームレスに、駆動方式の差異など何も感じさせず最新のメカニズムはあくまで黒子に徹する。しかし「スポーツ、スポーツ+、レース」とドライブロジックを変えるに従って、排気音の演出を含めて鮮明に刺激を届けてくれる。
エンジンの魅力を際立たせるための4WD(xDrive)と、エンジン駆動とは別の世界観を見出そうとする4WD(4マチック+)。両者の違いは鮮明だ。プレミアムSUVにとって4WDは、悪路走破性を高めるというよりも新しい価値を創造するために必要不可欠なメカニズムである。
【OTHER CHOICE】
どんな道も楽しめるスペシャリティカー
前項で述べた4WDシステムを持って“新しい価値”に挑むのはマツダも同じ。新しくFR(RWD)プラットフォームを開発してCX-60を世界市場に問う。現在はガソリン、ディーゼル、ガソリンのPHEVに、ディーゼルのMHEVなど4種類ものパワートレインを用意していて、今後はCX-80など他車種へも展開するという。ここにRWDモデルが用意されるというのに注目した。
ピックアップなどの商用車は、アメリカではユーティリティ・ビークルと呼ばれている。それをベースとして遊び用に仕立てたから、SUVという名前がついた。走ることがスポーツなのではなく、使うことがスポーツである。ピックアップはタフな使われ方をすることが多いことやトレーラーなどを牽引する能力を重視するお国柄から、RWDが基本であり次第に4WDが主流になっていった。
それでも本質にあったニーズは、もっとカジュアルな乗用車だった。出自はタフギアでなくていいし、駆動方式が2WDか4WDかというのもあまり重要ではない。そんな風潮がいまこの時代にリバイバルしたとすると、そこにCX-60の価値があるのかもしれない。
ハイパフォーマンスSUV勢ともなれば2WDにすることすら困難だとすれば、CX-60だからこそ可能となった奇跡的なグレードがこの2.5S Sパッケージだ。税抜で300万円という車両本体価格に驚く。前項の欧州車勢と並べてみても、伸びやかなプロポーションを含めて見劣りしない。わずか五分の一の価格でこれだけの存在感を発揮するのだから、モノづくり大国ニッポンは健在だ。
街中ではアタリの硬さに加え、ピッチングやバウシングを誘発するなど邪魔する要素も混入する。新開発のマルチリンクサスペンションを含めて熟成不足なのか。しかし、これは車高を上げただけのワゴンではない。オンロードとオフロードを分け隔てなく走る類でもない。居住性を含めたユーテリティがライフスタイルにマッチし、魂動デザインが琴線に触れる人たちに対するひとつの回答だ。
実際、ステアリングに駆動力の干渉がないから、一挙手一投足がナチュラルな動きとなって気持ちがいい。鼻先が軽くコーナリングを気持ちよく駆け巡ってくれる。絶対的には非力だが、だからこそエンジンを使い切る魅力まであったりして。SUV界のロードスターである。上級グレードにある電動デバイスを取り去って後輪を駆動するだけの簡略版ではない。
そこを突き詰めて考えると、常用域での細かいネガを笑い飛ばしながら、徹底的に走りを楽しむスペシャリティカーとして成立している。それは、マツダらしいSUVの“新しい価値”だと思う。
【OTHER CHOICE】
FWDだからこそ得られる軽やかさと親しみやすさ
最低地上高の高いSUVスタイルで、いかに乗用車に近い快適性や走行性を保つか。それならわざわざハードコアなタフギアを想定せずに、最初から乗用車をベースにすればいい。前項で取り上げたX5やGLCもその一例ながら、FWDコンパクトカーを使えばもっと話は早い。世界中の自動車メーカーがそう発想を変えたことで、SUVは一躍主役に躍り出た。セダンやワゴンに比べると最低地上高を高く仕立て、オンロードでの走りや乗り心地は確保する。FWDを基本とすれば経済合理性の意味でも理に適っている。
昨今、その代表格がTロックかもしれない。SUVと聞くと切っても切れない関係だった土の匂いとは、きれいさっぱりお別れ。VWのブランドイメージそのままの、都会的なファッションをまとう。MQBプラットフォームを使うからゴルフとの近似性が高い。Rなど一部のモデルで4WD(4モーション)が用意されるものの、このTSIブラックスタイルのように基本はFWDとなる。
なにしろ、2023年に日本の輸入SUVカテゴリーでもっとも売れたモデルである。2020年から3年連続1位だった弟分であるTクロスが2位につけたことを踏まえると、コンパクトSUVといえばVWが抜きん出て強い。もはやSUVという括りで見るのではなく、次世代のゴルフのような中心選手だと捉えることができる。
ステアリングを握ると、よりゴルフの世界観を感じる。精悍な印象漂うTSIブラックスタイルは、頻繁な加減速に対してリニアに反応し、伸びやかに高回転まで吹け上がっていく。7速DSGにわずかなクセはあるものの、それを巧く扱いこなす楽しさもある。パワーユニットの感触と同じ方向を向くかのように、軽やかなフットワーク性能なのもいい。路面の感触が手に取るように伝わることを含め、高速域やウエットでも接地感は抜群だ。少々荒れた路面であっても、路面から伝わる衝撃をしっかりと殺してフラットライドを保つ。発売当初にあった突き上げは年次改良で次第に影を潜めたようだ。たっぷりとしたサスペンションストロークを持ち、4WDにせず悪路走破性も追い求めないからこそ、これだけ快適に仕上げることができたのかもしれない。
FWDのSUVだからといって軟弱な存在ではない。むしろGTIやRの一般化によってある程度武装せざるを得なくなった本家ゴルフよりもカジュアルな雰囲気で、どこか気の置けない存在なのが好ましい。Tロックでデビューした際に訴えられた言葉は「5人乗りのクルマのデザインを再定義する」ということ。それは表層だけの話だけでなく、パッケージのすべてを指すのだと思う。
【OTHER CHOICE】
【SPECIFICATION】BMW X5 M60i xDrive
■全長×全幅×全高=4935×2005×1770mm
■ホイールベース=2975mm
■車両重量=2390kg
■エンジン種類/排気量=V8DOHC32V+ツインターボ/4394cc
■最高出力=530ps(390kW)/6000rpm
■最大トルク=750Nm(76.5kg-m)/1800-4600rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション=前:Wウイッシュボーン、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:275/40R21、後:315/35R21
■車両本体価格(税込)=15,340,000円
問い合わせ先=BMWジャパン 0120-269-437
【SPECIFICATION】MERCEDES-AMG GLC 63 S E PERFORMANCE
■車両本体価格(税込)=17,800,000円
■全長×全幅×全高=4750×1920×1635mm
■ホイールベース=2890mm
■車両重量=2350kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1991cc
■最高出力=476ps(350kW)/6750rpm
■最大トルク=545Nm(55.6kg-m)/5250-5500rpm
■モーター最高出力=150ps(80kW)/4500-8500rpm
■モーター最大トルク=320Nm(32.6kg-m) /500-4500rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション=前:4リンク:後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前:265/40R21、後:295/35R21
問い合わせ先=問い合わせ先=メルセデス・ベンツ日本 TEL0120-190-610
【SPECIFICATION】MAZDA CX-60 25S S PACKAGE RWD(DRIVE SYSTEM RWD)
■全長×全幅×全高=4740×1890×1685mm
■ホイールベース=2870mm
■車両重量=1680kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V/2488cc
■最高出力=188ps(138kW)/6000rpm
■最大トルク=250Nm(25.5kg-m)/3000rpm
■トランスミッション=8速AT
■サスペンション=前:Wウイッシュボーン、後:マルチリンク
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前後:235/60R18
■車両本体価格(税込)=3,223,000円
問い合わせ先=マツダ TEL0120-386-919
【SPECIFICATIO】VOLKSWAGEN T-ROC TSI BLACK STYLE FWD
■車両本体価格(税込)=4,761,000円
■全長×全幅×全高=4250×1825×1590mm
■ホイールベース=2590mm
■車両重量=1320kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1497cc
■最高出力=150ps(110kW)/5000-6000rpm
■最大トルク=250Nm(25.5kg-m)/1500-3500rpm
■トランスミッション=9速AT
■サスペンション=前:ストラット、後:トレーニングアーム
■ブレーキ=前後:Vディスク
■タイヤサイズ=前後:215/50R18
問い合わせ先=問い合わせ先=フォルクスワーゲン・グループ・ジャパン TEL0120-993-199
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みんなのコメント
15百万や5百万に比べて3百万円で同等性能だ!とか言いたいみたいだけど
やっぱり値段なりの品質と性能だし、ブランディング・リセールに対してはお察し。
まぁ欧州製高級車に乗りたいけど手が出ない層が感じる満足度は高いのかもしれないけどね。