新しいポルシェ「パナメーラ4S Eハイブリッド」に、島下泰久がドイツで乗った! 3代目の印象をリポートする。
ポルシェっぽさが増した内外装
パナメーラが若返った。これが率直な印象である。
2023年11月に登場した3代目モデルのうち、ドイツ・シュトゥットガルト近郊で試乗したのは2月に追加されたパナメーラ4S Eハイブリッドだ。
基本骨格を先代から継承しながらも、4ドアサルーンのエクステリアを最新のポルシェデザインにアップデート。より大型のヘッドライトユニットを得たことでフェンダーの峰が大きくなって、外観だけでなく室内からの景色もよりポルシェっぽさが増している。
同様にインテリアも、バイザーレスのデジタルメーターパネルや、タイカンと同じくダッシュボードに置かれたセレクターレバーの採用などにより、大幅なアップデートを実現している。個人的には、スタートスイッチがノブを捻るタイプではなく、よくあるプッシュ式となってしまったことが寂しくてならないが……。
遅れて登場した4S Eハイブリッドの、V型6気筒2.9リッターツインターボエンジンと、「E-ハイブリッド」と呼ぶPHEV(プラグイン・ハイブリッド)システムを組み合わせたパワートレインは、システム最高出力544ps、最大トルク750Nmを発生する。実はこの数字自体は先代の同560ps、750Nmに対してわずかに下がっているのだが、興味深いのはその内訳、つまり内燃エンジンと電気モーターの比率である。
先代ではエンジンが440ps、電気モーターが136psだったのに対して、新型はそれぞれ353psと190psとなっている。つまり電気モーターの受け持つ部分が確実に大きくなっているのだ。
実際、駆動用バッテリーの容量は先代の17.9kWhから25.9kWhにまで増やされていて、EV航続距離は54kmから96kmにまで伸ばされている。この数字から見てとれるのは、単に容量アップに比例して航続距離が伸びているのではなく、同時に相当な効率化も実現しているということである。
911カレラSと同等の加速タイム若返ったと感じた理由は、まさしくその走りだ。
まず動力性能面では、電気モーターの出力アップの恩恵で、ハイブリッドモードでのモーター走行の距離と時間が非常に長くなっている。またアクセル操作に対する反応も鋭く、追い越しの際など今だと思った時に躊躇なくいけるのが小気味良い。
電気モーターの出力アップにより、EV走行時の余裕も増している。速度が上がってもすぐにエンジンが始動してしまうことはなく、静かで滑らかな走行を長い時間楽しめる。実際、額面で96kmの航続距離があるだけに、自宅で充電できる環境ならば、普段はほとんどEVモードで済ませられるに違いない。
それでいてエンジンの存在感も決して薄まってはおらず、アクセルを深く踏み込むと爽快に吹け上がってみせる。0~100km/hの加速タイムは3.7秒で、「911カレラS」と同等である。上を見ればシステム最高出力782ps、4.0リッターツインターボエンジンを積むターボS Eハイブリッドという選択肢もあるが、これで不満ということはそうはないはずだ。
ポルシェ アクティブライドサスペンションの実力実は新型パナメーラ4S Eハイブリッドの注目すべき点は、ここだけではない。シャシーにも見どころが満載だ。
目玉は新型パナメーラの中でもPHEVモデルだけ選択可能な「C」。電子制御ダンパーのPASMに電動油圧ポンプを組み合わせたこれは、4輪の車高を自在に変化させて車両姿勢を制御する。
例えば、コーナリング中には単にロールを抑制するだけでなく、内輪を沈み込ませ外輪を持ち上げて、車高を水平に保つことすら行なう。加速時、減速時も同様で、徹頭徹尾フラットな車両姿勢を実現するのである。
実際、その走りはこれまで体験したことのないものだった。通常時の乗り心地は上々なのに、コーナーに向けてステアリングを切り込んでいくと、本来なら沈み込んでいくフロント外輪が縮まず、フラットな姿勢のままクルマが旋回していく。
ロールを抑え込むだけならサスペンションを硬めればいい。しかしながらパナメーラは、フラットな車両姿勢を保ちながらも、うねりや段差ではサスペンションをしなやかにストロークさせて何事もなかったかのように通過していくのだ。
見事なのは、これを気持ち悪い動きとは感じさせないことで、違和感と言えば違和感だが、とても気持ちの良い違和感なのだ。ハードウェアも凄いのだろうが、この巧みなチューニングには感心させられるほかない。
正直、従来のパナメーラのE-ハイブリッドは、車重の重さなどもありスポーツ性という面では今ひとつ食指の伸びない選択だったようだ。しかしながら新型では、ポルシェ アクティブライドサスペンションの採用により、むしろ走り好きな人はこれが“買い”というモデルになったと言っていい。
アクセル操作に弾けるように反応して、ひらりと舞うような軽快さでコーナリングする。この軽やかな、若々しい走りに思わず初代パナメーラのことを思い出した。しかも、それとは別次元の上質感までそこには備わっている。
新型パナメーラ、見事にリフレッシュを成功させたと言って良さそうだ。
文・島下泰久 編集・稲垣邦康(GQ)
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