日産キックスeパワー まずはタイから
text:Kenji Momota(桃田健史)
【画像】残念ながら日本では買えません キックス以外にも 海外販売の日産SUV 7選【ディテール】 全183枚
東南アジアのタイでの発表なのだから、日本のユーザーに直接関係ない。
本当にそうだろうか?
日本導入まぢかとなった、日産のコンパクトSUV「キックス」。日産のタイ法人のウェブサイトでは、今年(2020年)5月15日19時から実施の「キックス」発表会ライブ中継に向けたカウントダウンが始まっている。
キャッチコピーは「新しいスリルがやってくる」だ。
この「スリル」とは、タイ初採用となるeパワーを指す。
本来、タイでの新型キックス発表は3月25日からのバンコクモーターショー2020だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で4月20日に延期され、さらに5月末まで再度延期される事態となっている。
タイ日産としては、タイでの導入インパクトが大きい新型キックスが商品として「旬」であるうちに、ウェブサイト上での独自イベント実施という決断に至ったようだ。
タイではモーターショーはたんなるクルマの閲覧会ではなく、ショー会場にディーラーマンが常駐しており、その場で購入できるシステムがある。
そこでの売り上げが、その後の販売に大きな影響を及ぼすからだ。
こうしたタイでのキックス導入に対する、日産の積極的な動きは日本のユーザーにも確実に影響が及ぶ。
特に注目されるのは、新車価格だ。
eパワーのコスト、車両価格にも反映
量産効果によって、eパワーのコストが下がれば、車両価格にも反映される。
ブラジル、中国、アメリカ、インドなどで販売されてきた現行キックスは、1.5Lまたは1.6Lのガソリンエンジン車だ。
これがタイを皮切りにeパワー化することで、タイ以外の国からもeパワー需要を呼び起こすことにつながる。
とはいえ、キックスのタイ導入と日本導入の時期が近いため、タイでの初期需要が一気に伸びても、日本でのキックス新車価格が安くなるとは言えない。
ただ、そうした実売効果を待たずして、eパワーのコストについては、すでに販売されている「ノートeパワー」と「セレナeパワー」に比べて安くなるための方策がとられている可能性が高い。
キーポイントは、タイが世界市場向けの重要な生産拠点であることだ。
タイの日産工場は、首都バンコクから南東に向かって車で約1時間の距離にある。さらにそこから1時間ほど行くと、マツダや三菱の生産工場がある。その他、トヨタ、ホンダもバンコク周辺に生産拠点がある。
筆者(桃田健史)はこうした各工場を取材する中で、タイから世界に向けた船舶による物流網がいかに発達しているかを実感してきた。
キックスeパワーの世界向け輸出を考えると、すでにeパワーのコストは下がったと見るべきだ。
eパワー日本専用から脱却 メリットは
日産はeパワーを日本専用として位置付けていた。
2016年11月、ノートに初採用されたeパワー。横浜の日産本社で実施された報道陣向け試乗会で、日産関係者はeパワーユニットの技術展示品を前に「日本専用として開発した」と明言した。
電池、モーター、制御システムなどの詳細について聞くと「リーフで培った技術を盛り込んで…」と詳細については語らなかった。
実際、リチウムイオン二次電池については、リーフが採用しているAESC(オートモーティブエナジーサプライ、現:エンビジョンAESC)製ではないことを、ASEC本社(神奈川県座間市)で関係者から直接聞いた。
広報車両が置かれた日産本社の地下駐車場から屋外に出る際、途中の登坂でいきなりエンジンが作動。エンジンは発電機という名目だったので、このタイミングでエンジンが動いたことに少々驚いた。
そして、横浜市街を巡りながら、日産がワンペダルと呼ぶ回生力が極めて強いセッティングに対して驚いた。
こうした運転特性をタイでは「スリル」と呼び、これから世界展開を図る可能性がある。
タイを含めた各地で導入され、多様な国民からeパワーに対する意見や感想が得られることで今後、eパワーのさらなる性能向上が見込まれる。
これは日本のユーザーにとってコスト低減とともに大きなメリットだ。
キックスeパワー、日本軽視なのか?
一方で、キックスeパワーを題材に、日産が日本市場を軽視しているのではないか、という見方もあるかもしれない。
新型ジュークは英国で発表され、日本では販売されず、日本でのジューク後継がタイ生産でタイで先行発売の事実上マイナーチェンジのキックス。
これを、日本軽視と捉えるかどうかだ。
ユーザー目線では、かなりのマニアでない限り、そのクルマの世界市場における位置付けを気にして購入を決めることはないと思う。
各種の調査では、クルマの購入動機は、値引きを含めた価格、デザイン、燃費、使い勝手などが主流である。
また、eパワーについては、現行ノート発売4年後のマイナーチェンジでの採用でも、プリウスやアクアを抜いて登録車販売トップに躍り出た。
これは、ユーザーがeパワーの独自性を商品価値として認めたからだ。
日産は、電動化技術の普及でトヨタハイブリッドに大きな遅れをとり、EVの早期導入を決断。その流れを汲むeパワーがまずは日本で支持され、これからタイをベースに世界各国での普及を狙う。
日産にとって貴重な資産であるeパワーを搭載したキックス。日本でどんな価格で、どのような走りを感じることができるのか、ユーザーの期待が高まる。
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