「NSX-GTの最後ですので、優勝で締めくくるべく17号車(Astemo NSX-GT)が奮起してくれた。表彰台圏内でずっと頑張ってくれましたが、最後は上位陣で唯一ウエットタイヤに履き替えるという判断をしました。完全に優勝狙いの判断だと思いますが、タイミング的には悪くなかった。(3号車Niterra MOTUL Zのコースオフによる)FCYが入ったところで段々また路面も乾き始め。結果的には履き替える前の3位のままで終わってしまいました。チャンピオン争いをしていた16号車(ARTA MUGEN NSX-GT)など、ペースが上がらなかった点については、持ち帰って解析していこうと考えています」(HRC佐伯昌浩LPL)
「雨の降るタイミングがいつで、どこで、どれだけか……なども見て、得意のウエットタイヤを入れるか。そこでインターミディの方で行くかどうかなど、決心しなきゃいけなかった。ですが、あの残り周回数だと1ラップあたり何秒詰められるかも考えないと入れられないですし、ライバル(36号車au TOM'S GR Supra)は絶対に(スリックタイヤで)ステイするだろうというのは読んでいました。それを考えると致し方ない。あのS字で川が流れていてスピンしてしまいましたが、仮に(トラック上に)留まれたら、おそらくまだ可能性はあった。ギリギリのところだった気がするので、ドライバーのせいでもないし、いい経験だったろうなと」(ニッサン松村基宏総監督)
NSX-GTラストレースで表彰台獲得。Astemo松下が見せたギリギリのバトル、塚越のウエット交換後の猛プッシュ
「36号車は、そのままレースをしたら途中でリタイヤしているような不具合を、予選後の点検のときにメカニックさんが見つけてくれて、夜中まで修復していました。それでレースに挑んだ状態だったので、そんな中でもコダワリを持って、クルマのセットを変えたくないと奮起したチームに尽きますし、その"発見"がなかったら今日のレースはできていなかった」(TCD/TRD佐々木孝博氏)
2023年スーパーGT最終戦となった『MOTEGI GT 300km RACE GRAND FINAL』は、GT500に参戦するホンダ、ニッサン、トヨタの3メーカーにとっても、まさに三者三様のエンディングを迎えた。
現行規定の10年間を戦い抜いたNSX-GTのラストイヤー最終戦は、タイトル候補の16号車が陣営内のブリヂストン装着車のなかでも「1台だけ他とは異なるコンパウンド」をチョイスし、それが週末の天候条件にも翻弄される格好に。
予選Q1敗退から決勝ではタイヤ無交換作戦にもトライし、最後はウエット換装の勝負にも出た。季節外れの夏日が続く3連休として温度条件が異なれば、16号車だけが独走という可能性もあっただけに無念の週末となった。
前提条件として、本来ならポール・トゥ・ウインが欲しかったランキング3位の16号車とは異なり、選手権首位の36号車に7点差のビハインドで逆転戴冠に挑んだ3号車Niterra MOTUL Zは、土曜公式練習の首位発進から予選Q1、Q2、そして決勝残り5周まで全公式セッションでトップを堅持。あと一歩で第8戦『完全制覇』のパーフェクトが見えるレースウイークを過ごした(非公式セッションのFCYテスト枠2番手を挟む)。
⚫︎最後までチャンスを残して、ランキング2位で惜しくも敗れたニッサンZ
「もうちょっと手前の周回数で雨がザッと来てくれていればね……。間違いなく(23号車MOTUL AUTECH Zのポジションアップを読み)ワン・ツーでした」と語ったニッサンの松村総監督。
「3号車のスピンにより23号車は2位。それから4番手に1号車(MARELLI IMPUL Z)が入ったというのを見ると、24号車(リアライズコーポレーション ADVAN Z)こそ今回は持ち込みタイヤに苦心しましたが、クルマの速さの面ではノーウエイト勝負での競争力はあったんじゃないかと思いますね」
これで最終的なランキングは3号車が2位、23号車が3位、そして1号車は5位となったが、2年連続でタイトル候補として挑んだ千代勝正と高星明誠のふたりにとっては、昨季は接触によるペナルティ裁定で、今季は不安定な天候に脚元をすくわれるかたちで、待望の瞬間はお預けとなってしまった。
「その意味では去年もね……彼らは修行をして。今年も修行をしたから、3年目の正直はあってもいいかな。これでシリーズチャンピオン連覇は獲れなかったですが、自信があるかどうかは別として評価されるクルマではあるんじゃないかな。天候を味方にしたときもあれば、天候にやられることもあった。これがレースですよね。また頑張ります」
⚫︎チャンピオンを奪還したGRスープラ陣営の2023年のアプローチ
そして前述のとおり、予選で「大満足」の2列目3番手を獲得しながら、直後に重大なトラブルが発覚した36号車は、そこからGT500の全車共通指定部品であるヒューランド製のアルミギヤボックスを開け、部品の修復作業を開始。ファイナルギアにはデフも組み込まれるなどパフォーマンスにも大きく関わる部位だけに、ここでの発見が日曜の優勝と年間3勝のシリーズチャンピオン獲得に大きく寄与することとなった。
「36号車は良いポジションで予選を終えられて、決勝に対する不安もあったのですけど、そこはしっかりと。ひと言で言ったらチームもドライバーもしっかりと仕事をしてくれた」と、決勝直後にどこか安堵の表情で振り返ったのは、トヨタ/GR陣営のエンジン開発責任者兼全体統括を担う佐々木氏だ。
「GR Supra勢全体で見ても、決勝に向けセットとタイヤとしっかり考えて、ストラテジーも含めてですけど、全車しっかりとパフォーマンス出してくれた。タイム的にちょい濡れの状況でも、BS(ブリヂストン)さん、ヨコハマさんも機能してくれていましたし、その点でも各タイヤメーカーさんに感謝ですね」
予選でトラブルが出ず3番手を確保でき、決勝前に不具合が発見できたという"奇跡の流れ"で迎えた36号車の決勝は、スタート担当の坪井翔が23周目に17号車Astemo NSX-GTをコース上で仕留めると、26周目に先陣を切ってピットへ向かった3号車に反応し、翌周にはドライバー交代へ。
37.7秒のピット作業静止時間だった前者に対し、チームは34.4秒の迅速なルーティンワークで宮田莉朋を送り出した。ここでも作業速度のみならず、燃費性能の面で相手の出方に柔軟に追随できる、ハードウェア側の戦略的自由度が貢献したと言える。
「どこまで積み重ねられるか。『何合目まで登れたんだっけ?』というのは準備しようね、と。我々のクルマは見てのとおり、だいぶブレーキングでフロントがポーパシング(空力による車体の縦揺れ)のような動きが見られる。それで全然景色が変わってくる。ですのでクルマもエンジンもそうですけど、道具としては厳しい状態で戦ってくれたのかな」と続けた佐々木氏。
その細かな積み重ねは今季導入のCNF(カーボンニュートラル・フューエル「GTA R100」)の使いこなしにも及び、少しの燃料も無駄にすることなく燃やし切ることを念頭に、混合気生成を助けるべく霧化を促進する温度マネジメントも徹底。その分だけオイル希釈に回る量が減り、最終戦もてぎに向けてもわずかコンマ数%ながら、性能向上の取り分を盛り込んできていた。
「それがここに『何秒効くんだ』と言ったら、1000分の数秒台なんですけどね。燃料を使い切るために温度マネジメントをしっかりやってきた。吸気温は下げて、下げると今度は(霧化が)悪くなるのですが、それをエンジン側の温度で上げて、しっかりとレースを戦う。我々のエンジンは温度を上げても壊れない。そういうハードの特性も活かしながらです。テールパイプの色などを見ても我々の方が全然キレイに見えます」と佐々木氏。
「でも、レースが終わってすぐに無線を入れたのは『今年はチームとドライバーに助けられたので、来年はクルマで勝てるようにしよう』、『勝てるクルマを作ろうね』と。一応、僕らはチャンピオンを獲っても、そこは今年やり切れていないところ。(新規ホモロゲーション登録のサイクルになる)来年のクルマでは、勝てるエンジンと、勝てるクルマで挑みたいです」
2年前のGR Supra初戴冠は「手応えなき」不完全燃焼のなかでの王座だった。しかし今回は「(開幕の)スタートがいまいち悪かったぶん(性能)向上シロはそんなにないのですけど、みんなの努力シロは大きかったと思います」と、改めての手応えも得た。
「前回は本当にホッとしたというか。今回は開発スタッフみんなが努力して、頑張ってくれていた。手応えがなかなかない中でも、少しでも用意したものが機能してくれたのかな。やるべきことはやれたのかな、とは思ってます」(佐々木氏)。
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