第8世代となるポルシェ911、社内コードタイプ992は、まずカレラS/カレラ4Sが発表。そして待つこと数カ月……。ようやく、ベースモデルである“素のカレラ”に試乗する機会を得た。ここでは、両車の違いを検証するべく、2台の911を連れ出してみた!
カレラを知らずして911は語れない
新型「ポルシェ911タルガ4S」に早くも992台の限定モデルが登場!
これまで、ポルシェ911の企画でベストを選んでほしいと言われたら大抵、素のカレラを推してきた。もちろん、どのモデルにも魅力があるが、カレラを知らずしてそれらは語れないし、迷うならカレラで間違いない。これまでの911の歴史を振り返れば、間違いなくカレラは、そういう存在であり続けてきたと思う。カレラは原点。だけど、そこには911のすべてがある。
ところが最新のポルシェ911であるタイプ992には、これまでカレラはなく、カレラSしか設定されていなかった。タイプ997以降、カレラとカレラSは同時のデビューが通例だったのに……。
それだけに、まさに待望の911カレラの上陸である。実は筆者自身はカレラ単独ではすでに試乗済みなのだが、今回行なうのは待ちに待った、そのカレラとカレラSの直接比較だ。
まずは911カレラで都心を抜け、高速道路へ。カレラSとの違いは、走り出してすぐ、それこそ数十メートルも行かないうちに体感できた。低速域でのアクセル操作に対する一体感が明らかに高いのだ。具体的には、タイヤが転がり出した直後からエンジンがより鋭いピックアップを示すのである。
両車のエンジンは、ともに水平対向6気筒3Lツインターボ。新型カレラ用の最高出力は385ps、最大トルクは450Nmで、先代の15ps増しとなる。
一方のカレラSは最高出力450ps、最大トルク530Nmで、その差は65ps、80Nmと小さくない。これはターボチャージャーの大型化に拠るが、スペックをつぶさに見ると、代わりに2000rpm以下のトルクがわずかに痩せている。8速PDKの1速ギア比を下げて対応してはいるが、それでも小径ターボチャージャーを使うカレラの方がこの領域での過給の立ち上がりが速いようで、発進時あるいは高速巡航中の緩加速時などには、かえって俊敏に感じられるのである。
一方で気になったのが乗り心地の硬さだ。凄まじく高いボディの剛性感のおかげで不快ではないが、突き上げは強めに感じられる。
今回のカレラの試乗車はオプション満載で、本来前後1インチずつ小さいタイヤサイズはカレラSと一緒だった。PASMが標準なのも両者共通であり、つまりスペック上はカレラの方が硬くなる要素は見当たらないのだが……。
そんな風にテイスティングしているうちに、いつものワインディングロードへ到着した。まずは引き続き、カレラでひとっ走りしてくることにする。
エンジンパワーはカレラでも十分。それでいて過剰ではないから、状況が許せば全開にだってできなくはない。吹け上がりはトップエンドまで澱みなく、しかも全域でトルクの目が詰まっていて、まさに911カレラらしい味わいだ。
フットワークも安定感が際立つ。操舵力重めのステアリングを切り込むとノーズの向きが素直に変わり、出口に向けてアクセルを開けていけば、リアエンジンならではの盤石のトラクションで立ち上がることができる。ブレーキのタッチも上々で、思い切り攻め込める。いい汗かける走りっぷりである。
カレラとカレラS、悩ましい選択
続いて、合流したカレラSに乗り換える。まずは確認がてら、ゆっくり流していくと、やはりごく低い回転域ではカレラの方がピックアップに優れるようだ。ただし、2000rpmに達するあたりから早くもひと回り太いトルクが立ち上がるから、もたつくなどと思う間もなく、速度は弾けるような勢いで高まっていく。
その先のパワー感、加速の勢いにもやはり明らかな差がある。実際、スポーツクロノパッケージ付きではカレラの0→100km/h加速が4.0秒なのに対して、カレラSは3.5秒と実にコンマ5秒も速いのだ。回すほど勢いが増し、トップエンドまで一気に到達するエンジンフィール含めて、刺激性は一枚上手である。
試乗車はオプションのPCCB(ポルシェ・カーボン・セラミック・ブレーキシステム)を装着していたが、確かにこれほどの動力性能なら欲しくなる。ブレーキは標準でもカレラの前後4ピストンキャリパー+330mm径ローターに対して前6ピストンキャリパー+350mm径ローター、後4ピストンキャリパー+360mm径ローターと、ひと回り大きい。
想像以上に違っていたのが、カレラ単体で乗った時にはそこまで大きな差は感じなかったハンドリングである。ターンインからしてカレラSは明らかにレスポンスが鋭く、コーナーを抉るかのようにインをついていける。そして、そこからのコーナリング中も自分を中心に向きが変わっていく感覚を一層強く感じるのだ。
実はカレラSの試乗車には車高が10mm下がるPASM付きスポーツサスペンションが装着されていたから、特に初期応答性にはそれも効いていると思うが、何より大きいのはカレラSにのみ標準装備のPTV Plusだろう。この電子制御LSDがターンインを容易にし、またコーナー立ち上がりでのアクセルで曲げていくような感覚を味わわせてくれるのだ。つまり積極的に踏んでいけるわけで、コーナリングマシンとしての歓びは明らかに増している。
カレラSで走り終わった後、掌にはカレラではかかなかった汗がじんわり滲んでいた。この2台にの間には、やはり無視できない差があったのである。
ちなみに取材の帰り道にカレラSのステアリングを握ると、乗り心地はカレラの試乗車より明らかにマイルドだった。タイヤ銘柄も違ったが、案外PCCBによるバネ下の軽さも大きいのかもしれない。このように両車オプションを多数装備していたので、カレラとカレラSの純粋な差は測り切れなかったというのが正直なところだ。
結論を下すのは難しい。実際のところ、カレラのステアリングを握っている時には心からの満足感に浸っていた。カレラにはここまで記してきた通り、歴代モデルと同様の身の丈感というか、日本の道路環境においても積極的にアクセルを踏んで楽しめる、ちょうど良さのようなものがある。この感覚、良い意味で変わっていない。
しかしカレラSに乗ったら、迷いが出てきたのも事実。個人的にはカレラにPTV Plusが付けばそれもアリと思ったが、実はオプションでもその設定はないという。じゃあ、やはりカレラSか。いや、でも価格差は大きいし……。
実は、最初に乗ったカレラの好感触から、事前にはきっと即決でこちらだろうと思っていたのだが、いざ乗り較べたら予想以上に気持ちが揺れた。正直、今も結論は出せていないが、おそらくは好みはもちろん走る環境、舞台で、選択は左右されることになるだろう。
ひとつハッキリ言えることは、カレラに乗って改めてカレラSの価値、意味を明確に掴むことができたということである。両車は単なるスペック違いではなく、ハードウェアもその狙いも確かに異なる存在なのである。
やはり原点はカレラ。それに乗らずして911は語れないというのは不変と言って良い。では迷ったら? やはりまずはカレラからという選択で、間違いないはずだ。
【Specification】Porsch 911 CARRERA/ポルシェ 911 カレラ
■車両本体価格(税込)=13,597,222円
■全長/全幅/全高=4519×1852×1298mm
■ホイールベース=1591mm
■トレッド=前1591、後1557mm
■車両重量=1505kg
■エンジン種類=水平対向6DOHC24V+ ツインターボ
■内径×行径=91.0×76.4cc
■総排気量=2981cc
■圧縮比=10.2
■最高出力=385ps(283kW)/6500rpm
■最大トルク=450Nm(45.9kg-m)/1950-5000rpm
■燃料タンク容量 =64L(プレミアム)
■トランスミッショッン形式=8速DCT
■サスペンション形式=前ストラット/コイル、後マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前235/40ZR19(8. 5J)、後295/ 35ZR20(11. 5J)
【Specification】Porsch 911 CARRERA S/ポルシェ 911 カレラ S
■車両本体価格(税込)=16,968,519円
■全長×全幅×全高=4519×1852×1300mm
■ホイールベース=2450mm
■トレッド=前1589、後1557mm
■車両重量=1515kg
■エンジン種類=水平対向6DOHC24V+ ツインターボ
■内径×行径=91.0×76.4mm
■総排気量=2981cc
■圧縮比=10.2
■最高出力=450ps(331kW)/6500rpm
■最大トルク=530Nm(540kg-m)/2300-5000rpm
■燃料タンク容量=64L(プレミアム)
■トランスミッショッン形式
■サスペンション形式 前ストラット/コイル、後マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前245/35ZR20(8.5J)、後305/30ZR21(11.5J)
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