ロータリーエンジンのシリーズHV
数年前に発売された、マツダ初の量産バッテリーEVとなるMX-30 EVには、1つの課題があった。同社独自の視点により、航続距離が199kmへ短く設定されていたのだ。
【画像】遂にロータリーエンジン復活 マツダMX-30 R-EV 競合クラスのクロスオーバーと比較 全123枚
今回試乗したMX-30 R-EVには、ボンネットの内側へ発電用のロータリーエンジンが載っている。エンジンが直接タイヤを駆動することはなく、シリーズ式ハイブリッドというカタチになる。既存のMX-30 EVも、並行して販売は続けられる。
このMX-30 R-EVの場合、駆動用バッテリーの容量は17.8kWh。MX-30 EVと比べて約半分の容量で、蓄電した電気だけでの航続距離は85kmがうたわれる。
様々なドライブモードが用意されるが、初めはバッテリーEVとして走行し、残量が45%を切るとエンジンが発電しだすハイブリッド・モードがデフォルト。この数字は、20%から100%まで任意に選べる。エンジンを回さず、可能な限り走り続けることもできる。
ご存知のとおり、マツダはロータリーエンジンで長い実績がある。この発電用ユニットでも、三角形のおにぎりのような形状をしたローターが、楕円形のブロック内で回転。中央のアウトプットシャフトを通じて、パワーが供給される。
燃焼室がローターの回りに3つでき、排気量は830cc。通常のエンジンのようにピストンの往復運動がないため、コンパクトに収まり、滑らかなフィーリングを得られるのが強みとなる。
モーターの出力は170ps 0-100km/h加速9.1秒
これまで、複数のローターで構成されるロータリーエンジンを、マツダは様々なクルマへ搭載してきた。RX-7やRX-8では2ローター、ル・マン・プロトタイプの787Bでは4ローターだった。胸へ響く咆哮が、忘れられないという方もいらっしゃるだろう。
MX-30 R-EVのロータリーエンジンはシングル(1)ローターで、2300rpmから4500rpmで回転する。同社パワートレイン部門の技術者は、サウンドは期待しないで欲しいと話す。
それでも、4ストロークのピストンエンジンより小さく軽量で、滑らかだという強みは変わらない。アウトプットシャフトがユニットの中央に備わるため、同じく中央からシャフトが伸びる電気モーターとも、組み合わせやすい。
かくして特殊な内燃エンジンは、発電用のモーターと一緒に、小さなボンネット内へ横向きで搭載されている。ガソリンタンクは50Lあり、駆動用バッテリーと一緒にフロア下へ位置している。
急速充電能力は、最大36kWと速くはない。とはいえ、駆動用バッテリーが小さいため、短時間で充電を終えられる。
830ccロータリーエンジンの最高出力は、75ps。車格としては物足りない数字だが、あくまでも発電用のレンジエクステンダーだから問題なし。駆動用モーターは、170psと充分にある。0-100km/h加速は9.1秒で処理できる。
ちなみに、MX-30 EVの最高出力は145ps。0-100km/h加速時間は9.7秒となる。
市街地でも郊外でも気持ちよく走れる
ただし、MX-30 R-EVの駆動用バッテリーは、170psをまかなえるだけの出力を備えていない。そこで、必要に応じてロータリーエンジンが回転。発電機から駆動用モーターへ、追加の電気が送られる。
これはハイブリッド・モード時だけに限らない。アクセルペダルを深く倒すと、EVモードを選んでいてもエンジンが加勢する。
システムは少々複雑ながら、ドライバーが気を配る必要はない。基本的に、ドライブモードを選ぶだけで大丈夫。短距離の通勤にはコンパクトなバッテリーEVとして乗れ、週末の長距離ドライブにはハイブリッドのクロスオーバーとして活躍してくれるだろう。
ステアリングホイールにはパドルが備わり、回生ブレーキの強さを調整できる。運動エネルギーの回収が始まると、電気的な唸りがハミングのように聞こえてくる。
全力ダッシュを求めると、ロータリーエンジンの燃焼音が少し遠くから聞こえてくる。ボディの下の方で電動工具を動かしているような、そんな響きに思えた。
複雑なシステムが故に、MX-30 R-EVはMX-30 EVより車重が131kg重い。しかし、市街地でも郊外でも気持ち良く走ってくれる。適度に引き締められたサスペンションを備え、運転が楽しい。
行動範囲をぐんと広げたMX-30
今回の試乗では、すべてのドライブモードを試しながら、様々な条件を走らせた。正確に電費/燃費を把握するのは難しいといえるが、プラグイン・ハイブリッドと同じく、バッテリーEVや高効率な内燃エンジンモデルほど、平均的な数字は良くないようだ。
EVモードで得られた電費は、4.8km/kWhを超えなかった。ある程度の充電量を維持した状態でのハイブリッドモードの燃費は、12.0km/L前後に留まった。カタログ値でのCO2の排出量は、21g/kmになる。
筆者1番のお気に入りはインテリア。内装にはコルクやソフトなレザーが採用され、個性的で好印象な雰囲気を漂わせる。ダッシュボード上にタッチモニターが据えられ、手元には便利なロータリー・コントローラーも用意されている。
駆動用バッテリーの容量が小さいため、英国価格は3万1250ポンド(約565万円)からと、比較的お手頃。MX-30 EVより、若干高めの設定ではあるけれど。
エネルギー効率を最優先にするなら、オススメできるモデルではないかもしれない。
しかし、利便性や個性を重視するなら、ぜひ検討候補へ加えてみて欲しい。
マツダは、バッテリーEVのMX-30 EVがニッチなモデルだと認めている。観音開きのリアドアは小さく、リアシートは広くなく、駆動用バッテリーの容量が小さいためだ。しかし、ライフスタイルへ合致する人にとっては、素晴らしいチョイスになり得る。
ハイブリッドのMX-30 R-EVは、その間口を拡大する存在といっていい。魅力はそのままに、行動範囲をぐんと広げることができる。
マツダMX-30 R-EV マコト(欧州仕様)のスペック
英国価格:3万1945ポンド(約578万円)
全長:4395mm
全幅:1795mm
全高:1555mm
最高速度:140km/h
0-100km/h加速:9.1秒
燃費:100.2km/L
CO2排出量:21g/km
車両重量:1780kg
パワートレイン:永久磁石モーター+シングルローター830cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:170ps
最大トルク:26.5kg-m
ギアボックス:1速リダクション(前輪駆動)
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みんなのコメント
発電用なんだから…。