建築家・磯崎新の回顧展が水戸芸術館で開催中だ(~2026年1月25日)。前衛的な思想や作品だけでなく、目利きとしての審美眼や多彩なジャンルの文化人との交流など、礒崎の包括的な魅力を分析する。
約60年にわたる磯崎新のキャリアを辿る
2022年末に逝去した建築界の巨匠・磯崎新の没後、国内初となる回顧展『磯崎新:群島としての建築』が、彼の代表作でもある水戸芸術館で11月1日より開催。建築模型や図面のほか、スケッチや映像、写真、さらにインスタレーション等を展示し、約60年にわたるキャリアの全体像に迫る野心的な内容となっている。展覧会名にある“群島”は、均質な全体性や中央集権的な社会モデルを批判し、世界を多様な都市や場(=島)の集合体としてとらえる概念で、磯崎は自らの建築思想を展開する手がかりにもしたという。
ゲストキュレーターのひとりとして本展の構成に携わった建築史家の五十嵐太郎は、生前の磯崎と書籍シリーズ『磯崎新の建築談義』(2001~2002刊行)の制作で協働し、伝説的な建築紀行本シリーズ『磯崎新+篠山紀信 建築行脚』(1980年刊行開始、全12巻)をベースとしながら、歴史的名建築に対する見方や磯崎自身の思想を取材し、対話形式でまとめている。
当時を振り返り、五十嵐は磯崎を「一度話しだしたらとまらない、話題の引き出しが多い人だった」と語る。「ルネッサンスやギリシャ時代まで遡って、建築とは何かを考え続けた稀有な人。旅先で訪れた歴史建築を自らの手でスケッチにとっているんですが、遺された多数のスケッチブックにはそういった旅の記録だけでなく、進行中の建築や展覧会の構想も記されていて、本展においても重要な資料となっています」
前衛の精神と進化し続けた建築スタイル2019年に建築界のノーベル賞と称されるプリツカー賞を受賞した磯崎だが、受賞理由にもある通り前衛の精神を持ち続け、その建築スタイルは常に進化し続けた。五十嵐によれば、彼の「問題意識やテーマ、作品の方向性は10年ほどのスパンで変化し、それぞれの時代で新しい領域を切り開いていった」という。
「例えば、60年代は丹下健三研究室の一員として都市計画や大阪万博などに携わりながら、モダニズムの批判的な乗り越えを試みた。故郷での仕事となった《大分県立大分図書館》では、『成長する建築』の概念を提示しました。《群馬県立近代美術館》に代表される70年代は幾何学的な形態の自律性を追求しましたが、80年代には古今東西の建築から大胆な引用を行い、《つくばセンタービル》のようにポストモダン的な作風がもっとも顕著に表れた時期でした」
また、その引用元が必ずしも建築に限らないところが、いかにも磯崎建築の特徴と言えるだろう。
「“モンローカーブ”というマリリン・モンローのボディーラインからとった曲線を、70年代から建築デザインに取り入れたりしているんです。有名人の肖像を作品にしたアンディ・ウォーホルのポップアートを参照したのだと思いますが、建築では顔をそのままかたどることはできないから、身体を抽象化することである種の引用をしたわけです」
そして、重要作品が海外や地方に多い、言い換えれば東京には極めて少ないことも磯崎のキャリアの一面を示しているという。
「80年代に手がけた《ロサンゼルス現代美術館》は、日本人建築家が海外の重要な美術館の設計を手がけた最初の例となりました。また、国内では複合施設の先駆けとなった《水戸芸術館》や、アーティストとコラボレーションした《奈義町現代美術館》など、地方に重要な作品が多い。磯崎は福岡県のオリンピック招致活動に尽力しましたが、首都で開催するモデルはもう古いと断じ、アジアとの連携を意識した提案を行ったんです。結果的には不採用となりましたが、地方および国際的なネットワークに活動の場を広げたという点で、“国家の建築家”として首都・東京に多くの代表作を残した師匠である丹下健三とは対照的でした」
磯崎が世の中に遺した真の遺産とは?そして、五十嵐によれば、建築家としての仕事と同等もしくはそれ以上に重要な磯崎の功績として忘れてはならないのが、目利きとして後世に及ぼした影響だという。
「《せんだいメディアテーク》は伊東豊雄の代表作になりましたが、コンペの審査員長は磯崎でしたし、初代コミッショナーを務めた熊本県の建築事業《くまもとアートポリス》では、当時まだ無名だった妹島和世(SANAA)や山本理顕などの若手に公共建築に携わる機会を与えました。後の彼らの活躍をみれば、磯崎の目利き力がいかに鋭かったかがわかるでしょう」
さらに加えて、「彼ほど他ジャンルの文化人と積極的に交流した建築家はほかにいなかった」という五十嵐。「作家の大江健三郎や作曲家の武満徹などと共に総合文化雑誌『へるめす』の編集同人を務め、また著述家として活動し、さらにはシンポジウムの企画やキュレーションなども行った。文化全般に対する深い知識や洞察力で影響を及ぼし続け、“文化としての建築”の礎を築き上げたのです」
今回の展覧会は、ゲストキュレーターとして国内作品を担当した五十嵐のほか、建築理論家のケン・タダシ・オオシマが海外を、メディア・アート研究者の松井茂がアートとの関係や映像資料を担当した。多角的な展示が展開される本展は、建築史上稀有な存在であった磯崎の思想や文化のネットワーク(=群島)を追体験できる貴重な機会となるに違いない。
五十嵐太郎/TARO IGARASHI建築史家・建築批評家。1967年、パリ生まれ。1992年に東京大学工学系大学院建築学専攻修士課程修了。東北大学大学院工学研究科教授。幅広い著述・評論活動を展開するほか、第11回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展(2008)日本館コミッショナー、あいちトリエンナーレ2013芸術監督等を務めてきた。著書に『新宗教と巨大建築 増補新版』等がある。
磯崎新:群島としての建築会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー
会期: ~ 2026年1月25日( 日)
開場時間:10:00~18:00 (入場は17:30 まで)
休館日 :月曜(1月12日は開館)、年末年始(2025年12月27 日~2026 年1月3日)、11月25日、1月13日
入場料: 一般 ¥900、高校生以下/70 歳以上、障害者手帳などをお持ちの方と付き添いの方1名は無料
https://www.arttowermito.or.jp
文・富田秋子 編集・橋田真木(GQ)
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