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負けられない戦い…次なる「GR86」に繋げるために! 勝負と開発の両立に苦悩するクルマ作りの裏側とは

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負けられない戦い…次なる「GR86」に繋げるために! 勝負と開発の両立に苦悩するクルマ作りの裏側とは

■第4戦では無念のリタイア…第5戦でGR86は何が変わった?

 2022年9月3日、4日に「スーパー耐久シリーズ第5戦もてぎ」が開催されました。

【画像】涙ナシでは語れない…! GR86 CNFコンセプトの熱き戦い! 裏側はどうなっていた?(25枚)

 前回の第4戦オートポリスから約1か月、第5戦は5時間耐久です。

 今回は、ST-Qクラスに参戦する28号車ORC ROOKIE GR86 CNF Concept(以下GR86 CNFコンセプト)の裏側を取り上げます。

 カーボンニュートラル燃料の挑戦と次期モデルの先行開発をスバルとガチンコで戦いながらおこなうというプロジェクトですが、4戦を終えてトヨタ1勝、スバル3勝という状況です。

 2022年のスーパー耐久シリーズは全7戦。今回負けてしまうとスバルの勝ち越しとなります。

 前回、初のリタイヤとなってしまったGR86 CNFコンセプトですが、今回のもてぎではどのように進化しているのでしょうか。

 マシンを見る限り大きな変更はなさそうですが、開発責任者の藤原裕也氏に聞いてみました。

「前回のリタイヤ原因となった燃料ポンプ・ヒューズ切れの対策に加えて、何かあった際でもピットまで戻れるように電源を二系統に変更しています。

 さらに前回から採用しているセンサー類をサスペンション周りにも付けることで『現象の可視化』を増やしています。

 重量は多少増えますが、今後の開発のためには欠かせないアイテムです」

 これらはどちらかといえばトラブルへの対策になりますが「速さ」と「乗りやすさ」のための進化はどうでしょうか。

「実はこれまで声を大にして語ってきませんでしたが、エンジンはカーボンニュートラル燃料対応だけでなく出力向上にも挑戦しています。

 今回は前回に対して約13psアップで285psを発揮。

 また、ブレーキはコントロール幅を広げる取り組み、サスペンションはノーマルより自由度を上げたジオメトリーを活かしたセットアップをおこなっています」

 ちなみに今回はドライバーラインナップにも変更があり、Dドライバーの鵜飼龍太選手は86号車トムススピリットGR86をドライブします。

 河野駿佑選手の欠場によるピンチヒッターですが、ライバルのマシンを体感できるのはまたとないチャンスです。

 土曜日の午後からおこなわれた公式予選は、曇り空ながらドライコンディションで実施されました。

 予選タイムはA/Bドライバーの合算となりますが、結果は以下の通りです。

 ●ORC ROOKIE GR86 CNF Concept
 4分19秒922
 A:蒲生尚弥選手 2分8秒817
 B:豊田大輔選手 2分11秒105

 ●Team SDA Engineering BRZ CNF Concept
 4分20秒770
 A:井口卓人 2分10秒458
 B:山内英輝 2分10秒312

 その差は前回の0.968秒よりも僅差となる0.848秒。

 これまでの予選タイムはGR86が全勝していますが、GRカンパニーの佐藤プレジデントは「スバルさんは悔しがっているようですが、我々は決勝で何度も悔しい思いをしていますからね。勝ち越されないように頑張ります」と語ってくれました。

 ちなみに予選後に豊田大輔選手に話を聞くと「レースウィークの途中で本来なければいけないものを外したら、走りの幅が広がった」と、何とも不思議なコメントをくれました。

 エンジニアに話を聞くと、リアのスタビライザーを外したそうです。これは「対処療法なのか」「それとも必要がないジオメトリーが取れているのか」など、気になる所です。

■GR86 CNFコンセプトを支えるエンジニアが語る! もっといいクルマづくりの裏側とは

 日曜日、ピットウォークを経てスタート進行です。GR86 CNFコンセプトは第2グループのフロントロウで、その斜め後ろにはBRZ CNFコンセプトが控えています。

 11時にフォーメーションラップが開始され、5時間の決勝がスタートしました。

 序盤からGR86 CNFコンセプトとBRZ CNFコンセプトは接近戦です。

 直線ではGR86が引き離しにかかりますが、コーナーではBRZが近づくといったバトルを展開となり、その模様は何度も公式映像で放送されるなど、今回は2台共にトラブルはゼロで、コース上でのガチンコバトルとなりました。

 ピット内も比較的余裕があるため、今回はGR86 CNFコンセプトの開発に関わった各領域のエンジニアに、この取り組みに関する話を聞いてみることにしました。

―― エンジンの変更、カーボンニュートラル燃料の対応と開発は苦労されたと思いますが。

 林(エンジン担当):カーボンニュートラル燃料の適合と並行して、出力アップにもトライしています。今回は噴射圧の引き上げで前回よりも15psくらいアップしています。ちなみに初戦からだと25ps弱の進化です。

―― どのような苦労が? もちろん全てが大変だと思いますが(笑)。

 林:一番はオイル希釈の問題ですね。普通のエンジンであれば空気をたくさん入れて燃料をたくさん噴けば出力は出るのですが、カーボンニュートラル燃料はそう簡単にはいきません。

 毎戦トラブルなので(汗)、直しては確認……の繰り返しですね。ベンチで問題なくても実走では課題が出てきますね。

―― ちなみに性能アップのための引き出しはまだお持ちですか。

 林:試してみたい事はたくさんありますよ。

―― トランスミッションはどうでしょうか? 富士24時間でのトラブルが気になります。

 石丸(トランスミッション担当):もちろん認識しています。

 エンジン出力に合わせて強化はしていますが、一般道での入力とサーキットでの入力の厳しさは違います。

 ここが我々は理解できていませんでした。そこで前回から計測器を搭載してトルク測定をおこなっており、その結果を元に強化メニューの検討を進めています。

―― 既製品の改良ではなく、新規開発をしたいという想いはありますか?

 石丸:もちろんやりたいですが、この先のMT需要を考えると難しいのも事実です。

 ただ、今のMTも小手先の補強ではなく、根本的に強くしていかないとダメだと思っています。

 同時にエンジン側と連携を取り、トランスミッションに負荷がかからない制御にも挑戦しています。

―― シャシですが、エンジン変更によりクルマのバランスが崩れ、「ドライバーから安心して走れない」という声を聞いています。

 森(サスペンション担当):先行開発ということで、ベースのGR86とは異なるサスペンションジオメトリーを採用していますが、まだその旨味が活かせておらず、その原因を探している……というのが現状です。

―― 今回はリアのスタビライザーを外して走行していると聞きました。これは新たな取り組みなのでしょうか?

 森:いや、本来ならスタビライザーを装着してサスペンションとのバランスを取りたいのですが、我々が想定したモノにはなっていないため暫定的な処置になります。この辺りは机上と実走行のズレが原因ですね……。

―― となると、元に戻すのでしょうか?

 森:「レースカーというのはどういう物なのか?」をもっと理解しながら、ジオメトリーの旨味を引き出せる「解」を引き出したいと思っています。

 初戦から比べるといい方向に来ていますが、ボディの剛性バランスを含めてまだまだ理想には届いていないのも事実です。

 ただ、菅生をスキップして検証をおこなって臨んだオートポリスは我々にとってターニングポイントで、ここから再スタート……といった感じですね。

 まだまだ学ぶことは多いですが、このクルマを鍛えていく過程や知見をどのようにして量産に活かすかが大事なことだと思っています。

―― ステアリング系もエンジン変更に合わせてレイアウト、機構含めて刷新されています。

 宇野(ステアリング担当):次期FRに向けた挑戦のひとつですが、正直いうと「何とか搭載させた」という段階で、評価までたどり着いていない……というのが本音です。

――とはいえ、目標はあるわけですよね?

 宇野:課題がたくさんありますが、試してみたいことはたくさんあります。EPSの制御も同様で、この場でスポーツ走行に適したアシスト特性を学び、量産車に活かしていきたいと思っています。

――ちなみに、この活動はご自身の普段の業務に活きていると思いますか?

 林:もちろんです。最初は「えっ、土日も仕事?」と思いましたが、もちろん、トラブルも起きるので浮き沈みもありますが、仕事自体は楽しんでやれています。

■もっといいクルマに終わりはないが…最終戦までにやりたいことは?

―― もっといいクルマに終わりはありませんが、最終戦までにクリアしておきたい課題などはあるのでしょうか?

 林:エンジンはカーボンニュートラル燃料の普及活動に加えて、皆さんを「あっ!!」と驚かせるような出力を出せることですね。最終戦に間に合うように頑張ります。

 石丸:富士24時間はトランスミッショントラブルで完走できなかったので、25時間走らせても必ず完走できるようなトランスミッションを目指しています。

 森:今年中にできるかわかりませんが、ジオメトリーの良さを引き出せるクルマづくりですね。

 もちろんサスペンションだけでなくボディを含めた話になりますが、ドライバーに「この走りいいじゃん」といってもらえるようなクルマに仕上げていきたいです。

 宇野:量産車で直結感を高める制御をレースカーに取り入れていますが、ドライバーからは「タイヤのグリップ感が解りにくい」というコメントが多いです。

 恐らく使用領域が違うからだと思いますが、サーキット領域でも「凄いいい操舵感だよね」、「気持ちいいな」といってもらえるようなステアリングを実現したいと思っています。

―― ちなみに開発責任者の藤原さんからの無茶ぶりなどはありますか?

 一同:それはもう(以下自粛)

 レースは、ピットインのタイミングで順位が入れ替わるものの、最終的にはGR86が先行してBRZに18.5秒差を付けてゴール。

 ちなみに、GR86がトラブルフリーでレースを走り切ったのは開幕戦以来となります。どんなに辛くても、どんなに苦しくても決して弱音を吐かなかった藤原氏ですが、ピンと張っていた緊張の糸が切れたのかゴール後に大粒の涙が……。

 佐藤プレジデントもその苦労を知っているため、思わずもらい泣き。後ろを振り返ることなく、常に挑戦をし続けながら戦ってきたからこその涙です。そんな藤原氏に今回のレースを総括してもらいました。

「ようやくドライバー、チーム、メカの思いに応えられたかなと思っています。

 ただ、まだまだ設計意図とドライバーのフィーリングが合っていない部分もあり、マシン的には満足いくものではないのも理解しています。

 このプロジェクトのゴールは勝ち負けではありませんが、ドライバーは走る以上は『勝ちたい!!』、『速く走りたい!!』と思って走ってくれているので、その想いに応えていく必要はあるかな……と。

『レースで速く安心して走れる=次の開発に繋がる』と思っていますので、やはり結果にも拘わっていきたいです。

 これから岡山、鈴鹿と続きます。まだまだ課題も多く急ピッチでクルマを育てていく必要はありますが、今日はこの勝利を素直に喜びたいと思います。ありがとうございました」(前出・藤原氏)

 その表情はこれまでに見た事のない満面の笑顔だったのはいうまでもありません。

 今回はGR86/BRZ共に大きなトラブルの無い真剣勝負でした。だからこそ、勝った喜びも大きいと思います。

 次は10月15日、16日に開催される第6戦 岡山国際サーキットです。すでに1か月を切っていますが、チーム、マシン、そしてエンジニアの更なる成長を期待したいと思っています。全ては「もっといいクルマづくり」のために……。

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