クルマのデザインはいつの時代も議論の的になりますが、近年のBMWに関しては以前にも増して注目を集めている、といっても過言ではありません。X7や4シリーズの巨大なキドニーグリルは日本では否定的な意見が大勢だったように感じますが、ドイツではいったいどのような反応だったのでしょうか。ドイツ在住のライターが現地の反応をレポートします。
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■キドニーグリルの起源は約90年前まで遡る
高級車メーカー・BMWのデザインアイデンティティであり、現行車種すべてにもれなく装備されているのが「キドニーグリル」です。フロントの目立つ場所に置かれたキドニーグリルは、クルマに詳しくない人にとっても馴染みのあるデザインではないでしょうか。
大きさや形はさまざまですが、おおむね長方形を横に並べてフロントに配置するこの「キドニーグリル」の歴史は古く、1933年のBMW・303までさかのぼります。以来90年近くに渡って親しまれてきましたが、一方でそのインパクトのあるデザインがたびたび議論の対象となってきました。
ちなみに、「キドニーグリル」のキドニーは英語でkidney、つまり腎臓を意味します。ドイツ語の腎臓はNiereなので、ドイツではキドニーグリルのことを「BMW-Niere」や「Nierengrill」と呼んでいます。
■巨大なキドニーグリルにはドイツでも批判的な意見が飛び交う
ドイツにおいても、モデルを経るごとに巨大化していくキドニーグリルについて、批判的な意見は非常に多いです。4シリーズクーペの登場時、ツイッターやフェイスブックなどのSMSでは「モンスターの肝臓」「特大のウサギ歯」「ぱっくりと開いた傷口」「ウォータースライダーの入り口」などと、辛辣な意見が多数見られました。
ドイツの「アオトビルト」誌によると、1万5千票を集めたインターネット投票のうち、4シリーズのデザインに対して肯定的な意見を持っているのはわずかに23パーセントで、残りの約8割はどちらともいえないか、否定的な意見を持っている、としています。
BMWのデザインに対する辛辣な意見は、ドイツでは4シリーズ以前にも見られました。最近だとX7の登場時や、さかのぼると2001年発表の7シリーズ(E65)のときも大きな論争が巻き起こりました。E65のデザインは、当時のデザインチーフのクリス・バングル氏によるものでしたが、BMWに寄せられた声の中には「バングルをやめさせろ」という声もあるほどだったといいます。
■BMWのデザインチームの反応は?
しかし、現在のBMWのデザインチームは、こうした批判に対して自信を持って反論し、EV時代もキドニーグリルが存続していく可能性を示唆しています。
BMW本社のデザイン責任者、ドマゴイ・ジュケッチ氏は、万人にとって美しく、非常に印象的で、なおかつ革新的なデザインを生み出すことは不可能だとした上で、巨大で象徴的なキドニーグリルを装備したクルマをすべてのラインナップに採用するつもりはない、と話します。
BMWの顧客の約70パーセントは保守的で、目立たないデザインを好みます。しかし残りの30パーセントの顧客は、たくさんのクルマの中にいても浮き上がってくるような、派手で目立つようなデザインを求めています。しかし、そうした顧客が全員Z4や8シリーズを運転できるわけではないので、新しい4シリーズが登場した——というのが、BMWデザインチームの主張です。
つまり、巨大なキドニーグリルに対して肯定的な人間が少ないことは認識していて、4シリーズに採用することはあっても、保守的な顧客が多い3シリーズや5シリーズに採用することは現時点では考えていない、ということになります。
■EV時代にもキドニーグリルは残るのか?
前衛的なデザインが批判されたX7や4シリーズは、一方で販売は非常に好調なようで、プロダクトマネージャーのピーター・ヘンリッヒ氏は「顧客に受け入れられたと認識している」とコメントしています。
EVにおいてはラジエター冷却用のフロントグリルは必要なくなりますが、BMWのデザインアイデンティティとして、キドニーグリルはEV時代でも見られることになりそうです。
日本でも好き嫌いが分かれる、BMWのキドニーグリル。4シリーズやX7などの巨大なキドニーグリルを採用したモデルの売れ行きがよければ、3シリーズや5シリーズのキドニーグリルが大きくなるのも時間の問題……と考えるのは、筆者の心配のしすぎでしょうか。今後もBMWのデザインの動向からは目が離せません。
[ライター/守屋健]
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それにしても、カッコ悪い。