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世界で唯一の水平対向ディーゼル スバルのEE20が日本導入の期待も空しく消滅した理由

掲載 更新 11
世界で唯一の水平対向ディーゼル スバルのEE20が日本導入の期待も空しく消滅した理由

 スバルではWRX STIなどに搭載されてきた伝説ともいえるEJ20ターボエンジンがその生涯を閉じたことが話題になったばかりだが、その裏でEE20もお蔵入りとなったことは知られていない。

 知らないのは当たり前でEE20は海外向けのボクサーディーゼルエンジンなのだ。

超名門レガシィが風前の灯!? スバルの宝が日本クルマ界に遺した軌跡

 マツダのクリーンディーゼルエンジンの成功もあり、日本への導入が期待されたエンジンでもあったが、日本国内にデビューすることなく生産を終了したことになる。

 本企画では松田秀士氏が世界で唯一の水平対向ディーゼルのEE20のポテンシャルを振り返ると同時に、はなぜ消滅したのかについて考察する。

文:松田秀士/写真:SUBARU、TOYOTA、MAZDA、MITSUBISHI、NISSAN

【画像ギャラリー】スバルのクリーンディーゼルは日本導入前に消滅!! 2020年5月現在新車で購入できるクリーンディーゼル搭載の日本車

コンパクトさにビックリ

 まず日本未導入のEE20エンジンをなぜここで取り上げるのかというと、ボクサーディーゼルは世にも珍しい水平対向ディーゼルエンジンだからだ。

 そのボクサーディーゼルエンジンがデビューした12年前の2008年にボクはスペインのマラガで試乗している。ではまずはEE20とはどんなエンジンだったのかレポートしよう。

スバルのボクサーディーゼルは2007年のジュネーブショーで世界初公開され、2008年からレガシィシリーズに搭載され欧州で販売を開始

 試乗会場となったマラガはアフリカ大陸に臨むジブラルタル海峡の傍だった。当時その地は建設ラッシュ! あちこちにリゾートホテルやら建設中の建造物が目に入る。

 サブプライムローンに苦しむ当時の米国など対岸の火事といったところだった。しかし、今、コロナに苦しむ姿を誰が予想しただろうか。

 プレゼンテーション会場に足を運ぶとバラバランになったボクサーディーゼルエンジンが展示され、その傍らにはやはりバラバラのパーツとともにドイツメーカーの直列4気筒ディーゼルエンジンが展示されている。

 面白いことにその直4ディーゼルとボクサーディーゼルのシリンダーブロックが比較展示されていた。その時の印象は、ボクサーディーゼルのなんとコンパクトなことか! だった。

ボンネットを開けるとBOXER DIESELのロゴが目に入る。EJ20をベースにディーゼル化しコンパクトに仕上げている(デビュー時はユーロ4適合)

水平対向エンジンはディーゼルに打ってつけ

 スバルの開発陣にとって追い風だったのは、水平対向エンジンがことのほかディーゼルに向いていたということだろう。つまり、ディーゼルエンジンになるための素性がもともといいのだ。

 どういうことかというと、水平対向エンジンは対向する左右のピストンが対称な運動をするため、互いの爆発振動を打ち消す特性があり、直列4気筒やV型6気筒ディーゼルに必須の振動を打ち消すためのバランサーが必要ない。

水平対向エンジンは互いの爆発を打ち消し合うので、振動を抑えるためのバランサーシャフトが不要となるメリットがある

 これだけでも、かなりフリクション(抵抗)を軽減することができる。

 また、クランクシャフトを左右のシリンダーブロックが挟み込むようにデザインされているので、クランクケースの剛性がもともと強い。

 また直列4気筒と比べるとクランクシャフトが短くなるのでクランクシャフトの剛性も高く、16.3:1という高い圧縮比から発生する強烈な爆発トルクをきっちり受けとめることができるのだ。

 ディーゼルエンジンの場合このクランク剛性は重要で、強烈な爆発トルクによってクランクにねじれが発生し、それが振動などの症状の原因になっていたりする。

エンジンのスクエア化で全長を短縮

 剛性の問題にひと区切りがついたことで、スバルはアルミ合金製のシリンダーブロックを採用し軽量化、さらにロングストローク化することでエンジンブロックの全長を4気筒ガソリンエンジン(EJ20)よりも61.3mm短縮してコンパクト化に成功している。

 ん!? ロングストローク化? と疑問に思う読者もいるので説明すると、EJ20のボアストロークは92.0×75.0mmで、これをEE20は86.0×86.0mmへとスクエア化したのだ。

ボクサーディーゼルのEE20はレガシィB4、ツーリングワゴン、アウトバックに搭載され販売を開始。その後フォレスター、インプレッサにも搭載された

 ボアは短くなりストロークは長くなったわけ。ボアが短くなったからシリンダーブロックの全長も短くできる。

 全長を短くすればクランクシャフトもさらに短くなるわけで、さらにクランクの剛性も上がるという一石二鳥を達成し、短くなると軽量になるのでそのぶん太くして、ほぼ同じ重量でクランク剛性を確保している。

 これらによるエンジン単体での重量増は10kg程度。

 もちろん、ディーゼル化のための遮音対策や補助暖房システムの追加などでそれ以上の重量増はあるが、エンジンの全長が短くなったことで重心がセンター寄りになり、それが運動性能を後押ししてハンドリングに貢献している。

 ほかに、ターボチャージャーを前方に配置して直下型にしている。

 排気効率のいい場所でタービンを動かすのでターボのレスポンスが向上し、キャタライザーをターボのすぐ後ろに配置できるので、エンジン始動後など熱伝導が速くなり環境性をアップしている。

ボア×ストロークをスクエア化することでエンジン長を短縮することに成功。それによりクランクシャフトも短くでき剛性もアップ

EJ20に対してトルクフル 

 16.3:1という圧縮比はディーゼルエンジンとしてはごく平均的な数字といえるだろう(通常15~17前後)。そこから搾り出されるパワー&トルクは150ps/3600rpm&350Nm/1800rpmだ。

 これを全長が61.3mm長いガソリンエンジンのEJ20と比較してみると、NAの場合同じ150psを発生しながら2400rpmさらに上の回転数である6000rpmで発生する。

 しかし、これが最大トルクとなるとディーゼル350Nmに対してガソリンNAは196Nm。その時の発生回転数がガソリン3200rpmに対してディーゼル1800rpmという圧倒的に低回転域でしかも倍近い最大トルクを発生させている。

ほかのクリーンディーゼルエンジン同様にEE20はトルクの太さが魅力。その大トルクを低回転で発生するため運転もしやすい

 もちろん、ターボとNAという差があるのだが、これをさらにGT系のターボ+EJ20と比べてみると、最高出力は280psと遠く及ばないものの最大トルクは343Nm/2400rpmとまだターボディーゼルのほうがトルクが低回転域から厚いことが読み取れる。

 これには、ディーゼルエンジンの高回転域が使えないという性質が影響しているからなのだが、ボクサーディーゼルの最高回転は4800rpm。ここでエンジンリミッターが作動する。

 この回転数自体は、ガソリンエンジンに慣れ親しんだドライバーにとって多少のフラストレーションとともに物足りなさを感じる。

 しかし、このボクサーディーゼルの場合、その最高回転域でもディーゼルエンジンにありがちなエンドに近づくに連れて回転上昇が渋くなるサージングのような症状がほとんど感じられない。

 だから、ハッと思った瞬間エンジンリミッターに触れ慌ててアップシフトというケースが試乗中何度もあった。

ディーゼルエンジンは高回転に向かないという特性があるが、EE20は高回転域でサージングのような症状もなく回転フィールがよかった

さまざまな工夫が凝らされていた

 エンジンの単体重量は+10kg程度と書いたが、実際の重量はガソリン仕様と比較してそれよりも多少増えている。

 それは、ディーゼルエンジンの音や振動に対する振動騒音対策。トーボードやフロントフェンダー周りの対策と、エンジンマウントを当時のフォレスターのターボ系と同じ液体封入タイプにしているから。

 それともうひとつは、デュアルタイプのヒーターが上げられる。ディーゼルエンジンは熱量が低く寒冷地での初期ヒーティングに劣る。

 そこで、スバルでは家庭用エアコンにも使われている空気を圧縮するホットガスシステム+電熱を利用したPTCヒーターのダブルで対応していたのだ。

BOXER DIESELのエンブレムは世界で唯一存在した水平対向ディーゼルの証。日本導入も期待されたが、導入されないまま消滅してしまった

電動化に舵を切ったスバル

 当時のCO2排出量はキロメートル当たり148g。改良により現在ではもっと下がっていただろう。確かに環境に優しい。それでもなぜ生産を終了するのか?

 ひとつには水平対向エンジンゆえ、長いピエゾインジェクターが使えなかったという話を聴いたことがある。真偽のほどは不明だが……。

5代目レガシィシリーズにはユーロ5に適合させたEE20が搭載され2009年のフランクフルトショーで公開され、その後販売された

 当時はデンソー製のソレノイドインジェクターを使用していた。従ってソレノイドでもピエゾ並みの制御ができるよう研究開発中だったはず。

 最終的には年々進化する排出ガス規制クリア(ユーロ7など)するためのコストとのバランスに苦しんだというところではないだろうか。

 それからもうひとつが電動化。スバルは2018年にスバル独自のハイブリッドシステムであるe-BOXERをフォレスターに搭載し登場させた。

 EE20生産終了の理由はe-BOXERの好評を受けて、スバルがより電動化に舵を切ったとも受け取れる。

2018年にスバル独自のハイブリッドシステムのe-BOXERを登場させ、現在はフォレスター、XVに搭載。電動化推進のため次期インプレッサをはじめ拡大採用する

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みんなのコメント

11件
  • 一車種ディーゼルを導入するだけで、国内ディーラーすべてで整備、修理できるよう教育や部品費など初期投資、固定費が増加する。
    国内はそれに見合う需要は無いのが実態。
    それに最近分かってきたクリーンディーゼルはそれほどクリーンではないという事実。
  • 全ては吉永が悪い!!
    性能が低いハイブリッドよりこっちに投資すべきだった。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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