2018年F1第14戦イタリアGP決勝は、メルセデスのルイス・ハミルトンが優勝。接触によって最後尾まで転落したフェラーリのセバスチャン・ベッテルは辛くも4位に入賞した。F1ジャーナリストの今宮純氏がイタリアGPを振り返り、その深層に迫る──。
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「勝った瞬間は“無”だった」。初優勝の牧野が感じた確かな手応え。一方の福住は試練が続く/FIA F2イタリア
逆襲のシナリオを決めたハミルトン、フェラーリはまた2018年もメルセデスに敗れた。8年前フェルナンド・アロンソが決めたポール・トゥ・ウイン、14年前ルーベンス・バリチェロとミハエル・シューマッハーがやって魅せた“1-2”。再現を期待していたティフォシたちから表彰セレモニーで『ブーイング』が。裏切ったフェラーリに向けた彼らの、切ないリアクションでもあった。
はっきりとハミルトンは宣言していた。「明日スタートでなんとか2台のフェラーリの間に出ることをチームのみんなと考える」。14年からモンツァではPPを奪い1周たりともトップを譲らず、4連勝してきた絶対王者メルセデス。遂に今年のモンツァではフェラーリに最前列を獲られた。
フェラーリで初めてモンツァのポールポジションを獲得したキミ・ライコネンはさほど興奮せず、「明日は最初からすこし慎重にいくだろう」と本心をぼかした。ベッテルは違った。内心に秘めた悔しさを予選アタック後、「あとで話があるから」と無線で言った。
日曜日の決勝では大歓声の中、フォーメーション・ラップでライコネンはやや右寄りに加速、2番手ベッテルを意識する動きに見えた。これを3番手ハミルトンは視認、ふたりともその気(勝ち気)満々だ。
3人ともにスタート・ダッシュは普通だったから縦一線状、ライコネン←ベッテル←ハミルトンのまま1コーナーへ。わずかにブレーキングでライコネンがロック、ハミルトンは気付いたはずだ。
2台フェラーリはつながったままクルバ・グランデへ、ハミルトンは1コーナー立ち上がり加速に細心の注意を払い、フォロー。するとロッジア・シケイン手前でベッテルがイン側ラインに振り、ライコネンをけん制。チャンスだ。アウト側ラインが空いた。
先頭ライコネンは慎重にロッジアに進入、背後ベッテルは追突を避ける“安全ブレーキング”。ハミルトンがノーズを入れこむのに十分な速度差があった。
窮屈なラインになったベッテルと軽く接触も、ハミルトンは自車ダメージが少なくて済む角度で切り抜ける。ベッテル平均台の上でコツンと押された体操選手のようにバランスを崩しスピン。2台の間に出るどころか、ハミルトンの前には1台いるだけの状態、最大のライバルはいなくなった。
■“1対2”の争いで優勢に持ち込んだハミルトン
ぴったり1秒前後で追走するメルセデス、驚いたのはフェラーリから後方乱気流を浴びる間隔内なのに、ぶれる挙動がほとんど見られない。これはフェラーリSF71Hのダウンフォース特性(後方への影響?)が少ないのか、メルセデスW09のエアロダイナミクス特性が乱流のなかでも安定性を保てるのか。高速モンツァで1秒間隔を維持でき、フロントタイヤのケアも可能、この序盤展開に『追う者の強み』が見てとれた。
メルセデスは20周目にピットワーク準備の動きを見せた。最近何度かそうする。ルール上は禁止されている“見せかけの”プレーだが、どこのチームも抗議せず審議対象にもなってはいない。解釈によっては相手チームをかく乱することになり、またピットレーンの安全性にもかかわるのだが(レースディレクターは「ゲームの一貫だから」と認めている)。
20周目、フェラーリはライコネンを呼びソフトタイヤに交換、あと33周をこれでいくのだ。ハミルトンが直後の21周目に自己ベスト、引っ張って28周目にソフトへ。あと25周をこれでいくのだ。レイン・リスク60%の予報はまた外れ、気温と路面温度が金曜フリー走行2回目より高まってきた。想定していたタイヤデータに変化が現れる可能性がある……。
ライコネンは中盤ピットにまだ入らないバルテリ・ボッタスの背後につけたままプッシュする展開に。タイヤケアはできない。みるみるハミルトンに迫られる。“1対2”の争い、ライコネンはひとりでチーム戦に持ち込んだ敵前に身をさらすことに。
45周目、ここまで25ラップしてきたソフトが限界点に達し、ライコネンは1コーナーで首位を明け渡す。フェアにスペースを空け2位に下がった後、トレッド面が危険領域になりつつある状態でゴールをめざした。ベテランらしい最後の仕事、3位ボッタスを5.301秒差に抑えるのが精一杯だった。
――最初のロッジアでベッテルを抜き“一本勝ち”、それからライコネンにはタイヤケアで“優勢勝ち”。ハミルトンが演じたモンツァ逆襲のシナリオ、まさに周到な『チャンピオンシップ・マネージメント』によって30点をリードした。
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