この記事をまとめると
■国民車のような輸入車の場合はリプロダクションも含めればほとんどが手に入る
素人でも旧車趣味は始められるか? 30年来の旧車マニアが語る「ホントのトコロ」
■メルセデス・ベンツやポルシェなどはヘリテージ部門に力を入れている
■かつてはパーツ入手が困難だった国産旧車も最近はメーカーが維持に積極的
国民車ならいまでもほぼ全てのパーツが入手可能
現代の路上を普通に流れてるクルマ達とはあきらかに異なる雰囲気を漂わせていて、味わいもまったく違っていて、そうしたところが魅力的に感じられる古いクルマ達。読者の皆さんのなかには、いずれお目当てのクルマを所有してみたい、と憧れめいた気持ちを持っている方もおられるだろう。
けれど、そうした気持ちをスポイルしてしまうのが、維持って大変なんじゃないか? という不安だろう。とくにパーツの有無なんて、もっとも気になる事柄のひとつなんじゃないだろうか。
個人的なことだけど、僕は2001年式のアルファロメオ166という、世界的に不人気だったクルマを所有している。
搭載しているアルファの伝統的なV6エンジンが好きで、2012年に格安で売られていたものを衝動買いしたのだけど、今のところ「走る・曲がる・停まる」に関するパーツは問題なく手に入るものの、たとえばリヤ側のウインドウを支えるプラスティック製の小さなパーツが2015年だったか2016年だったかの段階では欠品になっていて、そうしたあまり需要のないパーツから手に入りにくくなっている。
まぁ金属で同じ役割を果たす代用パーツを作れそうだから時間に余裕ができたらその道のプロに発注に行こうと思いつつ、根がズボラなので細い角材をドア内に仕込んで支え棒にしたままだ。
リヤの右側のウインドウはそういうわけで開閉ができないのだけど、誰か人様を乗せたりすることもないので、とくに不便も感じていない。気にしない気にしない。アルファロメオ、フィアット、アバルト、ランチアといった旧FCA系イタリアン・ブランドについては、ヘリテイジ部門が一部パーツの再販売をはじめていたりもするが、まだ限られているし、166のような不人気車は期待できないかも知れない。が、気にしない気にしない。
一方でごく最近、僕の手元に1970年式のフィアット500が来て、すでに何度か路上でストップするトラブルにも見舞われている。が、驚くべきことに、クルマは予想を遙かに上まわって早く修理が完了するのだ。
もしや……? と思って、それも含めた古いフィアット500を何十台も日本に持ってきているチンクエチェント博物館や実際に修理・整備をしてくださってるフィアット500のスペシャリストに訊ねてみたら、パーツに関してはリプロダクションのものも含めれば、ほぼすべてのモノが揃うのだという。ごく初期のタイプについては手に入らないモノもあるにはあるが、1976年に生産が終わってるというのに、フィアット500は現在もほぼパーツに困ることはないようなのだ。
確かにもともとの生産台数が半端じゃない、国民車のようだった存在。現存しているクルマの数も多いからパーツの需要も他の古いクルマ達と較べて断然多いわけで、そういう事情が根底にあるのだろう。
10年前に比べれば旧車の維持をしやすくなっている
“元”国民車組(?)は比較的同じような状況だ。シトロエン2CVは、シトロエンからパーツ群をたっぷりと譲り受けた会社が新車を組んで販売してたりするくらいだから、ほぼすべてのパーツが揃う。
フォルクスワーゲン・ビートルは、本国の純正のクラシックパーツをディーラーなどを通じて手に入れることができるし、北米を中心としたカスタマイズのパーツやリプロダクション・パーツの豊富さといったら驚くほどだ。
クラシック・ミニも同様。純正品もまだ出てくるしリペア用パーツも豊富、リプロダクションやカスタマイズ用もたっぷりと手に入る。すべてとはいわないが、もっともパーツに困らないヒストリックカーのひとつといっていいだろう。
そもそも英国は、おそらく世界でもっとも”古いものを大切にする”という文化が深く根付いてる国。古いクルマを楽しむ趣味というのも、当たり前のように根付いてる。なので、クラシック・ミニのみならず、MGやトライアンフといったなくなってしまったメーカー(と名前は同じだけど全く別の会社になってしまったメーカー)も含め、昔からパーツ状況は常に良好なようだ。国別でいうなら英国車がもっとも古いクルマを維持しやすいといわれるのは、そんなところが理由なのだろう。
ドイツ勢も、なかなか良好だと思う。メルセデス・ベンツは以前から純正パーツの供給に関して定評があったが、今では国内の正規ディーラーで1980年代辺りまでのモデルなら純正パーツを使って仕上げた日常使いができるレベルのクルマを入手できるほど。図面さえあればそれを元に部品を作って供給することはできる、と聞いた記憶もある。ヘリテイジに力を入れてることは間違いない。とはいえ高価であるのも確かなので、ちょっと古いメルセデスのオーナーの中には、北米で流通しているリプロダクションのパーツを使って手を入れてる人も少なくない。
似たようなことはポルシェにもいえる。近年は古いモデルの純正パーツにも力を入れていて、50,000を越えるパーツが本国には常備されており、それらパーツのカタログをオフィシャル・ウェブサイトから閲覧することができる。が、やはり北米を中心にかなりの数のリプロダクション・パーツが出回っていて、そちらで代用することを選ぶユーザーもいる。
日本はどうなのか……? 数年前まではほぼ絶望に近い状態だったが、近年では少し動きが出てきている。マツダではFCやFDといったRX-7やNAロードスターなどの復刻パーツの販売をスタートしているし、トヨタもGRヘリテイジ・パーツとして、2000GT、70と80のスープラ用復刻パーツの供給をはじめている。日産も、R32からR34のGT-Rなどの復刻パーツの生産や外装部品などの再供給などをNISMOヘリテージとして開始、今後も拡大していくという。
また自動車メーカー以外でも、1960~80年代のトヨタ車を中心としたパーツの供給を手掛ける会社が活動していたり、いわゆる旧車関連のスペシャリストがメーカーで欠品となったパーツを自社で製造しはじめたりしている。事態はずいぶん変わってるのだ。
もちろん純正部品がすんなりと手に入るに越したことはない。とくに一部のリプロダクション・パーツは精度が高くなく、クルマを組み込む前にオーバーホールするほうがいいなんていわれてるモノすらあったりするからだ。が、そうしたパーツでも手に入るだけありがたい、というのが古いクルマのオーナーの正直な気持ちだ。
究極的なことを言ってしまうなら、予算に糸目さえつけなければどんなパーツだってワンオフで作る道はあるわけだが、さすがにそれは僕達のような一般庶民にはハードルが高い。
例えば10年前あたりと比較するとだいぶ状況がいい方向に向いてるのは確かだ。それがもっともっと進んでくれたらいいな、と強く願っている今日この頃である。
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