バックラーMkV(オーナー:クリス・ジョンズ)
執筆:Simon Taylor(サイモン・テイラー)
<span>【画像】オーナーの手作り スペシャル・モデル 変わり種 少量生産のスポーツモデルたち 全86枚</span>
撮影:James Mann(ジェームズ・マン)
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)
デレク・バックラー氏は、英国のスペシャル・モデル時代に生きた代表的な1人。1949年にスペースフレームを開発し、販売している。
彼は多くの希望に合致するよう、幅広い仕様のシャシーを提供した。また500ccエンジンのシングルシーターのほか、ジャガー・エンジンのレーサーやドラッグレーサー用フレームなども製造している。
1961年、ジャック・ブラバム氏とロン・トーラナック氏が初のシングルシーター・マシンを設計した際も、フレームの製造はバックラー社へ依頼している。
バックラー社の稼ぎ頭となったシャシーは、独立懸架式のフロント・サスペンションながら、フォードの1172cc 4気筒エンジンが前提。クロスレシオのMTや吸気と排気のマニフォールド、ホイールなども、アマチュア向けに販売していた。
MkVは、バックラー社が量産した最初のスペシャル・モデル。当時のトライアルレースなどで活躍している。モデル名は5番目だが、それ以前のモデルは確認されていない。
クリス・ジョンズ氏がオーナーのMkVは、1956年に父が購入してから65年が経つ。オフロードを走るトライアルレースに出るつもりだった父だが、完成することはなかったという。その思いを、クリスが継いだのだった。
アルミ製ボディパネルはシンプルな構成。コクピットは狭く、ハンドブレーキ・レバーはボディの外にある。荷物を置ける場所は、リアの小さなラックのみ。それでも、この小さなスペシャル・モデルで会場まで自走してきた。
オースチン・ルビー(オーナー:ジェフ・ロー)
当時のスペシャル・モデルを生み出していたメーカーの中には、技術力や設計力に疑わしいところもなくはなかった。ジェフ・ロー氏が大切にするオースチン・ルビーも多くの想像力と創造力が求められ、完成までに30年が必要だったという。
苦労して仕上げられた姿は微笑ましい。「見える部品はすべて、別々のものが由来です」。と話すジェフだが、まるでこのクルマのために設計されたかのように、まとまりを感じさせる。見た目は驚くほど美しい。
ジェフはものを大切にする性格なのだろう。オースチン・セブン用の部品とランニングギアを、コツコツと集め始めたのは1986年にさかのぼる。ルビーのボディと一緒に。
完成させるには、三輪自動車のリライアント・ロビン用750cc 4気筒アルミエンジンと、シンクロメッシュ付きのMTも探し出す必要があった。
車高は落とされ、ボディはハッチバックに改造してある。フェンダーは曲線が美しい。ボディ後端には、ミニバン風のリアハッチが付く。風通しの良いルーフはフィアット500用。ダッシュボードは、オースチン・セブン・アルスターのものだそうだ。
感心させられるのは、ジェフの技術力。ディティールまで、しっかり手を抜かず作りこんである。ドアシールやルーフの雨樋、内装トリムのほか、ワイパーなども機能し量産車のよう。こんなスペシャル・モデルを、筆者は初めて見た。
フェアソープ・エレクトロン(オーナー:デイブ・バムステッド)
ドン・ベネット氏は、キットカー市場へ早期に参入した第二次大戦時代のパイロット。残念ながら彼の製品は、ベーシックで完成度が低かった。だが当時の価格は425ポンドからと安く、多くのオーナーが完成にこぎつけている。
初期のフェアソープ・エレクトロンには、バイク用エンジンを載せた人もいたという。後に販売されたゼータでは、全長2700mmもないシャシーに、フォード・ゼファー用の直列6気筒エンジンが前提となっていた。
エレクトロンは2シーターだが車内は広い。安全への意識が低かった時代なら、トランスミッション・トンネルにクッションを置き、子どもを座らせることも可能だったという。
多く売れたフェアソープが、安価なエレクトロン・マイナー。デイブ・バムステッド氏は8年前に乗り捨てられた状態で購入し、ベネットが夢見たような、高品質な状態に仕上げている。
ボディは艷やかなメタリックブルー。白いインテリアと、ブルーのシートベルトでコーディネートしてある。ボンネットを開くと、エンジンブロックやロッカーカバーも鮮やかなブルーに塗られていた。
フェアソープ社はエレクトロンを、より水準の高いキットカーだと主張していたが、他にはない強い個性はスペシャル・モデル的。オーナーによる工夫が求められる点でも、通じている。
デロウMkI(オーナー:スティーブ・ストラット)
バーミンガムの南、アルブチャーチでケン・デリングポール氏とロン・ロウ氏によって創業された、デロウ社。初期のモデルはA型フレームのシャシーに、1172ccのフォード社製サイドバルブ・エンジンと駆動系を搭載し、通常の量産車として販売された。
当時人気の高かったトライアルレース用のスポーツカーとして設計され、公道での走行にも向いており、200台以上が作られている。フロントアクスルが独立懸架式ではなかったのは、悪路走行に向いていると考えられたためだ。
ボディにドアが付いたのは、MkIIになってから。オプションとして。
現オーナーのスティーブ・ストラット氏は、6歳の時にトライアル・レースへ参加。デロウの助手席に座った体験は、忘れられないものとなった。
しかしスティーブ自身がMkI用のシャシーと部品を揃えられたのは、2003年になってから。エンジンはフォード100E用のアングリア・ユニット。アルミヘッドが組まれ、フォード用のリアアスクルはコイルスプリングが支えている。
このMkIで特徴といえるのが、「フィドル」と呼ばれるブレーキ。ハンドブレーキの1つで、前輪を制動するには前に、後輪を制動するには後ろにレバーを倒す必要がある。滑りやすい坂を登る場面では、便利なブレーキではある。
トルネード・テンペスト(オーナー:デイブ・マリンズ)
トルネード・カーズ社は、大胆なデザインのFRPボディにラダーフレーム・シャシーを組み合わせたスペシャル・モデルを販売していた。
複数のモデルが作られており、タイフーンは1172ccエンジンを載せたモデル。このテンペストはフォード105E用のエンジンが前提で、フロント・サスペンションにはウイッシュボーンとコイルが組まれていた。リア側もリジッドアスクルながらコイルだ。
サンダーボルトも同様な構成だが、エンジンはトライアンフTR3用。完成させれば、レースで優れた成績を残すことができた。
市場の変化に合わせ、トルネード・カーズは1962年にフルキット・モデルとしてグランドツアラーのタリスマンを発売。上級モデルへシフトしている。1964年に倒産するまで、180台程が工場から出荷された。
トルネード・カーズに詳しいオーナーのデイブ・マリンズ氏によれば、テンペストのキットは15台分しか売れていないという。そのうち残存は4台のみ。1台は、スペインの博物館にあるそうだ。
多くのスペシャル・モデルと同様に、このテンペストも多難な人生を歩んできた。最初のオーナーは身長が高く、独特なファストバックボディへ改造。その後、エスコート用エンジンを載せてホットロッドとして走っていたという。
デイブが購入したのは1980年。リビルドに10年ほどを費やしている。エンジンはフォードの105Eへ戻したが、ファストバック風のボディは新車時の改造として残している。
彼によれば、現在の交通環境でも乗りやすいとのこと。これまでの30年の間に、約6万5000kmを走っている。
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