新車価格が億を軽々超えるハイパフォーマンスカーを販売するブランドとして広く知られているパガーニ。しかし、その歩みは決して順調だったわけでない。ではいかにしてこの新興勢力は、競合の多いスーパーカーブランドで成功を収めることができたのか。その足跡を辿ってみたい。
文:越湖信一/写真:ベストカー編集部
今や1台4億のクルマさえ完売するパガーニの初市販車「ゾンダ」は、全然売れなかったって本当?
■わずか30年で成功を収めたパガーニ
BEV化はせず、内燃機関車として2022年に販売されたウトピア。メルセデス・ベンツ製の6L V12エンジンを搭載し、その出力は864馬力とアナウンスされた。
「ニューモデルの「ウトピア-Utopia」は2.3ミリオンユーロ(約4億円)のプライスとなります。99台限定で、既に完売しています」。
ゾンダ、ウライアに続く最新モデルレンジのローチにおいて、このようなコメントを受け取った。
冷静に考えてみれば、一台4億円ものクルマを、実車も見ずに99台が完売してしまうとは、もはやフツウの出来事ではないのだが、現代のハイパーカー・ウォッチャーとしては、“ああ、そう”とごく当たり前に受け止めてしまうのが恐ろしくもある。
そもそもパガーニ社は1992年にモデナにおいて、オラチオ・パガーニが創設した自動車メーカーだ。つまり、まだ30年ほどの歴史しか持たない若いブランドである。
こういった激戦区に参入し、大成功を収めているのだから、パガーニはきっと大資本を投入して準備万端でスタートアップした会社であろう、と思う方も居られるであろうが、それは全く正しくない。
■ランボルギーニで実績をあげて会社設立へ
1955年アルゼンチン生まれのオラチオが、倒産して裁判所管理となっていたランボルギーニの門を叩き、無理矢理潜り込んだところからそのストーリーは始まった。
もともとデザインやFRPを用いた試作などのスキルを持ったオラチオはマンパワー不足のランボルギーニにおいて重宝された。
カウンタック25thアニバーサリーのスタイリング開発をはじめ、重要な案件を矢継ぎ早に手がけることとなった。まさに、彼の持ち前の情熱で頭角を現したワケだ。
オラチオは、当時レースカーに応用されはじめたカーボンファイバーによるボディ製作のスキルも会得していた。彼は独立し、ランボルギーニやフェラーリF1などに提供する特殊パーツ製造を請け負う会社を設立した。
このモデナデザイン社が、パガーニ社の起源となる。
オラチオがランボルギーニ在籍中にスタイリング開発に携わったカウンタック25thアニバーサリー。
■人気に火を付けたのはやっぱり限定車だった
1999年に発表されたゾンダ。デビュー時はC12、その後写真のFなど、仕様変更の度に車名が微妙に変更されていく。
自分の理想とするスポーツカーを作るという情熱に燃えていた彼は、フェラーリでもランボルギーニでもない、少量生産のスポーツカーの開発を決意したのは当然の成り行きであった。
最新のマテリアルを用いて、誰も作ることのできないようなユニークなスポーツカーを作るというテーマから、ゾンダと称すプロジェクトがスタートした。
しかし、このカテゴリーには歴史と強力なブランド力を持ったフェラーリをはじめとするライバルがひしめいていた。そんな中で新しいメーカーが初めて作った、フェラーリよりも高価なクルマを誰が買っただろうか?
案の定、ゾンダは全く売れなかったのだ。しかし、クルマに限らず富裕層にとってはひとつしか存在しないとか、ごく少数しか作られないという特別な限定モデルに対する関心が当時、高まっていたことに彼は気づいた。
その後、全世界5台限定というゾンダ・チンクエ(=イタリア後で5を現す)を発表したことで、パガーニの人気に火が付いた。
ハイクオリティでユニークなモデルというオラチオのものづくりの主旨が理解されたのでその後、それをきっかけにして現在に続くパガーニ人気が確立されていったのだ。
ゾンダFをベースにしてさらなる軽量化が施された5台のみの限定車「CINQUE(チンク)」。
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