車種別・最新情報 [2023.08.11 UP]
愛のスカイラインNISMO【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】
文●池田直渡 写真●日産、池田直渡
日産「スカイラインNISMO」9月上旬発売 限定1000台【動画あり】
8月8日、日産自動車は突如スカイラインNISMOを発表した。横浜の日産グローバル本社内、日産ホールの壇上には2台のクルマの姿があった。1台は言うまでもなく、今回の主役スカイラインNISMO。もう一台は1963年デビューの2代目スカイライン。いやもっと正確に言わねばならない。1964年にグロリア用の直6ユニットを与えられて第2回日本グランプリに挑み、純レーシングカーのポルシェ904を抜いて喝采を浴びた伝説の54A型である。半世紀以上の時を経て、あのデッドヒートに演出的背景があったことはすでに知られているが、まあ無粋なことを言わずに、欧州のトップコンテンダーにニッポンのクルマが一泡吹かせた物語として受け止めようではないか。
スカイラインNISMOの発表会にはプリンス スカイラインGTも登壇した
ちなみに綺麗にレストアされた54Aのボンネットを開けると、そこにはオプションの3連ウェーバーとミスタースカイラインこと故・桜井眞一郎氏のサインが覗く。蛇足を加えれば、この急造ホモロゲモデルたる54Aの翌年、ホントの意味での商品化モデルである54Bが生まれる。
スカイライン伝説の原点となる54Aのエンジンルーム(筆者撮影)
「スカイラインと言えばGT-R」。それに異論はないが、スカイラインの伝説がスタートしたのは前述の通りポルシェと死闘を演じた第2回日本グランプリであり、当時のカーマニアから「スカG」の名で親しまれたのは、Rの付かないGTであることもまた忘れてはならない。ある時代の日本のクルマ好きにとって、スカイラインは特別なクルマであり、スカイラインによって日産の評価があがった。もちろんその全てがスカイラインのおかげだと言う気はないが、だとしても、日産にとっても極めて重要なクルマである。
ところが、このクルマには紆余曲折があった。そもそもスカイラインは旧プリンス自動車のクルマであり、1966年に旧通産省の指導で、プリンスが日産と合併したことで日産ブランドになった。以来反りが合わない呉越同舟の中で、スカイラインは一方で花形車種でありながら、一方で冷遇されるという複雑な扱いを受けてきた。
現行のスカイラインのデビューは2013年。通常の2世代分を生き延びてきた古参兵である。本来であれば歴戦の英雄、あるいは看板車種としてキッチリ手を掛けてフルモデルチェンジがあってしかるべき存在だが、なにぶん昨今消滅の危機すら漂うセダンマーケットである。とてものことフルモデルチェンジなどという大勝負は掛けられない。だからと言って大名跡たる名前に、このまま静かすぎる幕引きというわけにもいかない。そんなアンビバレンスを体現するかの如く、スカイラインは放置されてきた。
スカイラインNISMO
かろうじて400Rを出したのだが後が続かない。もう打つ手もなくそのまま沈んで行くのだろうかと悲観する中で突如現れたのが今回のスカイラインNISMOである。GT-R NISMOは日産ハイパフォーマンスカーの頂点であり、それが存在する意味は大きいのだが、価格的にも性能的にも、市井の勤め人には荷が重い。走る・曲がる・止まるについてキチンと仕立てられて、ワインディングでも街中でもおよそクルマで行きたい所で破綻なく振る舞えること。それはまさにGTの真骨頂である。スカイラインNISMOは、そういうスカイラインのど真ん中なのだ。フェンダーに輝く紅白のGTエンブレム。そこに日産の、スカイラインに対する愛がしっかり燃え続けていることに、筆者は密かに感動していた。
スカイラインNISMOのフェンダーに掲げられたGTエンブレム
その内容を簡単にまとめれば、新たにチューンが加えられたパワートレイン。ワイド化されたリヤタイヤとサスペンションのチューン。何より極め付けは前後ウィンドーには高剛性接着剤を用いてボディ剛性を高めたところに日産の本気を感じる。空力も含め、「それらしいドレスアップパーツを纏ったお買い得仕様です」ということにはなっていない。どれも機能的に意味のあるチューニングであり、今の世にGTとは何かを問おうとする強い意志を感じるのである。それは復活の道を歩む日産にとって今できる限りの全てを注いだスカイラインGTであり、その先には次の世代のスカイラインへの希望が見える気がするのだ。
スカイラインNISMO
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