水素エンジンで24時間耐久レースに臨むトヨタの野望
かねて既報の通り、トヨタ自動車は水素エンジンを搭載したプロトタイプをレースに投入し、耐久性や動力パフォーマンスを含め、サーキットを実験室とする企てを実行に移す。果たしてトヨタが提案する水素エンジンとは如何なるもので、どのような思惑のもとレースに、しかも24時間耐久という過酷なシチュエーションに挑戦するのか? 国内外で水素エンジンの研究・開発に携わってきた金沢工業大学の長沼教授に、トヨタのチャレンジについて解説していただく。
トヨタ、水素エンジンで24時間耐久にチャレンジ! 水素エンジンの専門家がレースの見どころを語る
トヨタが開発した水素エンジンとは
水素でレース!?
トヨタ自動車株式会社がこの週末、水素で24時間耐久レースに挑むという。
どういうことだ?と、「?」が頭をよぎる。「水素エンジン」っていうからにはFC(燃料電池)ではないよな? ガソリン併用か? あるいは液水(LH2)か? いや高圧だろうな! 燃料補給は???などなど、とめどない「?」のオンパレードだ。
さっそく得られる情報を方方から収集し、少しずつわかってきた。車両はカローラ スポーツをベースに1.6リッター3気筒ターボエンジンを搭載するという。おそらくGRヤリスに搭載されているであろう最新ガソリンレシプロエンジンをベースに、燃料系を改造して水素仕様にするようだ。
燃料電池ではなく水素を燃焼して駆動力を発生
燃料タンクにはMIRAIで量産車に採用されている高圧タンク、そして噴射弁は直噴だ。この中で最も興味を惹かれたのが噴射弁だった。ポート噴射かなとも思っていたが、そこはトヨタ。直噴タイプを選択しデンソーがサプライヤーだという。さすがだ。水素エンジンには直噴が必須だと筆者も考えているがこの技術が非常に難しい。そこを24時間耐久レースにて評価しようというのだ。この辺をテーマにするとどんどん深みにはまっていくので、詳しくは回を分けて別途説明しようと思う。ガソリン同等の最高出力も可能だが、もの凄い燃焼制御が必要だ。
すでに4月28日に富士スピードウェイでのテスト走行を終えて良い感触を得たようだが、つまりはかなりの完成度の高さなのだろう。水素エンジン開発のためのエントリーとはいえ、そこはレース! 最速ラップが2分4秒程度だったというから、スピードも当然無視してない。耐久レースにあえて出るということは燃費にも目処があるのだろう。燃費と補給回数をシミュレーションしてみよう!
大小4本のタンクを用いるがエネルギー搭載量はガソリンより低い
気体燃料の場合、面倒な単位変換や前提がつきまとうが、ここでは一回の燃料補給でどれくらいのエネルギーが搭載できるかを考えるだけとスッキリさせてみる。
今回のカローラ スポーツはMIRAIの水素タンクを基本とする。大きいタンクを2本と、少し小さい特別なタンクを2本、そして一回の充填で7.34kgの水素が搭載(使える)できるという情報がある。となると一回のエネルギー搭載量は約881MJ。対してガソリンだとN1規定で認められる最大95リットルタンクだと約3GJ(3127MJ)ものエネルギー搭載量となる。ちなみにJ(ジュール)というのはカロリーとも変換できるエネルギーの単位。
つまり、ガソリンレーシングカーの3~4分の1程度のエネルギー量しか搭載できないわけで、燃費(エネルギ変換効率という意味)が同じと仮定して3から4倍ものピット回数が必要となる。それだけのピットロスを回収できるだけのラップタイム差があるか? そこはテスト結果からは見られない。燃費がどれだけ違うかが勝負になるが、現状だと良くてもガソリンと同程度だと予想される。もっともガソリン同等にするのもそう簡単ではない。
EVや水素には多くの課題が残っている
これだけのハンデがあるなか、水素エンジンでレースに挑もうというトヨタ自動車の意図はどこにあるのだろうか。その真意を探ってみよう。
公表されているカーボンニュートラルモビリティに向けての研究開発の一環というのはもちろんだが、“水素を使えば良い”ってものでもないことくらいもはや言うまでもない。 EVとか水素自動車とかいうと諸手を挙げて賞賛され「一気に置き換わるしかない」という意見も見受けられるが、実際はそう簡単にいかない。
事実、良いことづくしならばとっくの前に普及し、ガソリン車及びディーゼル車など駆逐されている。従って現実には課題が多く残っていることを示している。さらに世の中の流れではこのところ“エンジン”が目の敵にされ、悪者扱いされているとも筆者は感じている。無くすべきはLCA(ライフサイクルアセスメント)での二酸化炭素排出なのに「エンジンを無くさなきゃ」という風にも聞こえてくる。
内燃機への厳しい風当たりに対するアンチテーゼか
おそらくそんな風潮に待ったをかけようとレーシングドライバーのMORIZOさんが思ったかは想像の域を超えないが、根っからのカーガイでありトヨタ自動車の社長でもあるMORIZOさんによる、行き過ぎた“絶対電動化”への流れ、エンジンバッシングに対するひとつの異論・反論として捉えてもよいのでないだろうか? 機会があればお伺いしてみたいものである。
そんな粋な研究開発の一環だが、これまで水素エンジンに携わってきた研究者の一員として、今後の進展には興味が尽きない。ピット回数を劇的に減らせる液体燃料だったらどうだろうか? しかも液体水素のまま筒内噴射なんてできれば、数段の性能向上が期待出来、もうアンチエンジン風が一気に止むくらいの勢いをもつだろう。
予選は雨天中止。果たして本戦の行方は?
もちろん、これまで世界中で進められてきた水素エンジンの研究開発を知っているからこそ、その困難さは承知しているが改めて挑戦したくなる自分がいるのも事実。新たな研究意欲が湧き出るきっかけを与えてくれたこのチャレンジ、ぜひともこの週末はCO2フリーレーシングエンジンカーを応援したい! エンジンオイル由来のCO2が出るじゃないかなどという重箱の隅をつつくようなことは無視し(実際無視できるレベル)、NOxはどうするんだとかいうのは解決法が見えているのだから、ただただ完走に向けてひた走ってもらいたい。
この原稿を書きつつ、予選結果を楽しみにしていたのだが、天候回復が見込めずに公式予選は中止になったというニュースが入ってきた。これまでのシリーズランキングでのグリッドとなるようなので、カローラ H2コンセプトは最後尾かもしれないが、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンとは異なるサウンドを奏でるであろう決勝での走りが楽しみで仕方がない。
TEXT/長沼 要(Kaname NAGANUMA)
PHOTO/トヨタ自動車
【筆者プロフィール】
長沼 要(ながぬま・かなめ)
日産自動車(株)総合研究所動力環境研究所にてエンジン制御に関する研究開発に従事。その後低公害車両開発会社立ち上げや多くの環境負荷低減技術開発プロジェクトに関与。2016年より金沢工業大学教授に就任し、工学部 機械工学科にて教鞭をとる。専門は熱力学、エネルギー変換、自動車工学、エンジン制御で、論文・著書に“Electricity Powering Combustion: Hydrogen Engines”(IEEE)、 “筒内直接噴射式水素エンジンの熱効率向上とエミッション低減に関する研究”がある。
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