RACラリーで8連勝したエスコート
グレートブリテン島の西、ウェールズ地方の山岳地帯はスッキリしない雲で覆われていた。しかし、そんな憂鬱な気分を吹き飛ばしてくれる、この場所にぴったりなクルマと今日は一緒だ。
【画像】MST Mk1とMk2 往年の名車が復刻 ミニにランチア レストモッド事例は他にも 全109枚
今から50年前の1972年、英国のモータースポーツ史に刻まれる出来事があった。ロジャー・クラーク氏とトニー・メイソン氏が、現在の国際ラリー選手権の1戦、英国RACラリーで初めて優勝を掴んだ英国人ペアになったのだ。
彼らが駆ったクルマが、英国で生産されていたフォード・エスコート Mk1 RS1600。各ステージで見事な走りを披露したが、いま筆者がいるスノードニア国立公園も、そんな舞台の1つだった。
1972年は、ロンドン・メキシコ・ワールドカップ・ラリーでハンヌ・ミッコラ氏がエスコート Mk1をドライブし、優勝してから2年後。重要な時代の始まりだった。
活躍はそれだけに留まらなかった。1973年、1974年、1975年とティモ・マキネン氏がエスコート Mk1で3連勝。ロジャー・クラーク氏はMk2のRS1800で、1976年に再び優勝を果たしている。
フォード以外のマシンがRACラリーで優勝したのは、1980年。エスコートMk1とMk2が成し遂げた、8年連続優勝は前人未踏といえる。その記録は、現在まで塗り替えられていない。
見事としかいいようのない戦いによって、フォードは英国でシェアを拡大。エスコートの熱狂的なファンを生み出すことにもつながった。
以来、エスコート Mk1は今でも多くのクルマ好きを魅了してやまない。価値も上昇の一途にある。今回試乗した、MST Mk1が誕生した理由でもある。
厳密にはフォード・エスコート Mk1ではない
この真っ赤なクルマは、50年間真空パックされてきたように真新しい、エスコート Mk1 RS1600のラリーカーのように見える。しかし落ち着いて観察すると、大切なものが欠けている。
フロントグリルには、ブルー・オーバルのエンブレムがない。トランクリッドにも、エスコートを示すロゴがない。
MST Mk1は、厳密にいえば1970年代のフォード・エスコート Mk1ではない。できたてのホヤホヤの新車だ。オリジナルのエスコートをレストアする際に用いられる、ボディシェルや駆動系で仕上げてある。
メカニズム的には、2022年仕様でもある。オリジナルをリスペクトして作られているが、ボディやシャシーは大幅に強化されている。見た目は殆ど変わらないが、フォードのエスコート Mk1ではないため、ヒストリックラリーのイベントへも参加できない。
これを製作したのは、ウェールズ地方の西端、プスヘリという街に拠点を置くモータースポーツ・ツールズ社。略してMST社だ。ラリーカー・ファンのために、14年前からアップグレード・パーツや工具類の提供を行っている。
気がつくと、同社はエスコート Mk1とMk2を専門に扱うようになっていた。高い技術力を活かし、完全なボディシェルを復元できる製品群を提供するに至った。
さらに顧客のニーズへ応えるように、自社製品を中心にエスコート Mk2を復刻。昨年、AUTOCARでも試乗させていただいた。そのMST Mk2は多くの称賛を集め、現在筆者の目の前にあるエスコート Mk1の復刻版へと結びついた。
シャシーとスタイリングは基本的に同一
エスコート Mk2で長年ラリー経験を積んできた、MST社を経営するカーウィン・エリス氏によると、フォード側とは非公式に情報を交わしただけだという。フォードやエスコートと表記しなければ、製造・販売しても構わないと確認は取れているそうだ。
つまり、少なくとも現在のフォードには、エスコート Mk1やMk2の復刻モデルの計画がないことを意味する。恐らく、今後もないだろう。
MST社が正式にこのクルマを作る権利を持つのか、あやふやではある。だが、高い完成度を目の当たりにすれば、フォードも強く否定することは難しいはず。細部に至るまで、見事にエスコートだからだ。
シャシーの主要なシェル構造部分とボディパネルは、オリジナルとまったく同一。だがシャシーは肝心な部分が補強され、パネルも2重構造が取られている。
今回お借りしたMST Mk1のデモ車両は、1970年代のグループ4ラリーマシンを模してある。大きく膨らんだフェンダーと、超ワイドな13インチのミニライト・ホイールが、なんともマッシブに映る。
低められた車高は、調整式サスペンションによるもの。フロントはストラット式で、リアは6リンクのリジッドアスクル。ビルシュタイン社製のコイルオーバーキットが、前後に組まれている。
エンジンは、コスワース社の設計がベースとなった、自然吸気の2.0L直列4気筒。BDGと呼ばれるレーシングユニットだ。組み立ては英国東部、ピーターバラのギャザーコール・レース・エンジンズ社が行っている。
この続きは後編にて。
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最近はこういうデザインは出せないでしょうけども
少し27に似てる?