現行シリーズの開始から10季目を数えるWEC世界耐久選手権の2022年シーズンが、いよいよアメリカ・セブリングで開幕する。ここでは、伝統ある『セブリング12時間レース』とのダブルヘッダーイベントとして同時開催されるWEC開幕戦『セブリング1000マイル』を前に、今季の開催日程やレギュレーション、ラインアップの変更などを確認しつつ、2022年シーズンの見どころなどを紹介していく。
■ル・マン24時間が6月に戻る。WEC富士も2シーズンぶりに開催へ
「荒れた路面は予想どおり」と平川亮。トヨタ「タイムを追い求めずに」テスト完了/WECプロローグ
2021年シーズンに引き続き、年を跨がないかたちでの開催となるWECの2022年シーズン。そのオープニングは3年ぶりにカムバックを果たすセブリング戦だ。1000マイル(最大8時間)で争われるレースを終えたシリーズは、例年どおり5月上旬にスパに移動し、その約ひと月後にはシリーズのハイライトであるル・マン24時間レースを迎える。
“世界三大レース”のひとつに数えられるル・マンは過去2年間、新型コロナウイルスの影響で8月や9月に延期されていたが、今年は3年ぶりに6月に開催されることが決まった。
シーズン後半は、昨年初めてWECを開催したイタリア・モンツァを皮切りに、富士スピードウェイで行われる日本ラウンド『WEC富士6時間レース』を経て最終戦バーレーン8時間へとつながっていく。
なお既報のとおり、集中的な車両開発を理由にル・マンを含む開幕3戦の欠場をアナウンスしているプジョーは、早ければ7月のモンツァで独創的なエアロパッケージに身を包むハイパーカー『プジョー9X8』をデビューさせる予定だ。
●WEC 2022年シーズンカレンダー
RoundDateRaceRd.13月18日セブリング1000マイルRd.25月7日スパ・フランコルシャン6時間Rd.36月11~12日ル・マン24時間Rd.47月10日モンツァ6時間Rd.59月11日富士6時間Rd.611月12日バーレーン8時間
■環境に配慮したバイオ燃料を採用
2022年シーズンのトピックのひとつにWECがル・マンを含むシーズン全戦において、100%持続可能燃料を導入することが挙げられる。
『エクセリウム・レーシング100』と名付けられた新燃料は、フランスのエネルギー大手トタルエナジーズ開発したもので、同社が計4クラス全車両を対象に単独供給する。また、ACOフランス西部自動車クラブが運営するELMSヨーロピアン・ル・マン・シリーズでも、今季から採用されることが決定済みだ。
WECは環境に配慮したバイオ燃料の効果について、残留ワインを原料としたバイオエタノールと、トタルエナジーズのファイザン製油所で生産されるETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)から製造される新燃料を使用することによって、レーシングカーが排出する二酸化炭素量を65%削減できるとしている。
■LMH規定の2年目、トヨタとグリッケンハウスが車両をモデファイ
2022年はLMHル・マン・ハイパーカー規定の下で行われる、ハイパーカークラス2年目のシーズンだ。昨年、生まれ変わったシリーズの最高峰カテゴリーには、TOYOTA GAZOO Racingの『トヨタGR010ハイブリッド』と、グリッケンハウス・レーシングの『グリッケンハウス007 LMH』という新型車両が登場した。
これらの車両は2年目のハイパーカークラスでも引き続き、世界タイトルとル・マンでの総合優勝を懸けて戦うことになるが、双方とも新シーズンに向けて改良が加えられている。
王者トヨタが走らせるトヨタGR010ハイブリッドの2022年仕様は、タイヤとホイールのサイズが変更された。これは今季の車両規定で前後31インチか、フロント29インチ/リヤ34インチか、このどちらかを選択しなくてはならないためで、トヨタは後者を選択。前輪は12.5×18インチホイールに29/71-18サイズのタイヤを装着し、後輪には14×18インチホイールに34/71-18サイズのタイヤという組み合わせを採用している。
この変更に合わせて、レギュレーションで定められた空力的な性能を維持するためにボディワークにも若干の変更が必要となり、“シャークフィン”と呼ばれるエンジンカバーとリヤウイングの翼端板が大型化された。また、前述の新燃料に対応するため、3.5リットルV6ツインターボエンジンも最適化が行われている。
一方のグリッケンハウスは多くのファイン・チューニングを行うとともに、ハイパーカーの性能バランスに関わる議論をFIA国際自動車連盟とACOと持ち、その中で浮上したブレーキシステムの変更を実施。2022年仕様のマシンに、ボッシュが供給するブレーキ・バイ・ワイヤシステムを導入している。
また、トヨタと同様に新しいバイオ燃料への切り替えに対するエンジンの修正にも取り組んでおり、第2戦スパからピポ・モチュール製の新仕様エンジンが搭載される見込みだ。
旧規定のノンハイブリッドLMP1カーでハイパーカークラスに参戦するアルピーヌ・エルフ・チームは、オレカ製の『アルピーヌA480・ギブソン』の車両に関する一切の仕様変更が認められていない。このため彼らはカラーリングを除いて昨年とまったく同じ仕様のマシンでレースに臨むことになる。
●ハイパーカー諸元表 例:トヨタGR010ハイブリッド
シャシー車体構造カーボンファイバー構造全長4900mm(5000mm)全幅2000mm(2000mm)全高1150mm車重1040kg(1030kg)燃料積載量90リットルギアボックス横置きシーケンシャル7速ドライブシャフトトリポッドCVジョイント式ドライブシャフトクラッチマルチディスクデファレンシャル機械式デフロックサスペンション(前/後)プッシュロッド式独立懸架ダブルウイッシュボーンスプリングトーションバーアンチロールバー前/後ステアリング油圧式パワーステアリングブレーキアケボノ・モノブロック軽合金キャリパー/ベンチレーテッド・カーボンディスクホイール(前)レイズ製マグネシウム鍛造ホイール 12.5x18インチホイール(後)レイズ製マグネシウム鍛造ホイール 14x18インチタイヤ(前)ミシュラン・ラジアル 29/71-18タイヤ(後)ミシュラン・ラジアル 34/71-18パワートレインエンジン型式V型6気筒直噴ツインターボチャージャーエンジン排気量3.5リットル燃料エクセリウム・レーシング100・持続可能バイオガソリンエンジン出力500kW/680PSハイブリッドパワー200kW/272PSバッテリーハイパワー型・トヨタ・リチウムイオン電池フロントモーター/インバーターアイシンAW/デンソー製
※()内はLMH規定値
■引き続きBoPで調整。LMP2も性能ダウン
そんなハイパーカークラスのマシンは引き続き、モデルごとに最低重量と出力などが定められるBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)によってパフォーマンスの調整を受ける。
開幕戦セブリングに向けては、トヨタGR010ハイブリッドが前年最終戦より30kg重い1070kgとされた一方、グリッケンハウス007 LMHは1030kgに。3車の中ではもっとも軽いアルピーヌA480は952kgだが、最終戦バーレーンからは22kgの重量増となった。
1スティントあたりに使用できる最大エネルギー量は、トヨタが898MJ、グリッケンハウスが910MJ、アルピーヌは797MJだ。エンジン回転数に応じて定められる出力曲線上の最大値は、トヨタが506kW、グリッケンハウスが520kW、アルピーヌが430kWとなっており、ハイパーカークラス全体の出力が抑制される方向で調整されている。
トヨタのみが使用できるハイブリッドパワーのアクティベートスピードは、ドライコンディション、ウエットコンディションにかかわらず190km/hに引き上げられた。
●2022年WEC開幕戦セブリング ハイパーカーBoP
車両最低重量最大エネルギー量出力最大値トヨタGR010ハイブリッド1070kg(1040kg)898MJ(909MJ)506kW(520kW)グリッケンハウス007 LMH1030kg910MJ520kWアルピーヌA480 ギブソン952kg(930kg)797MJ(816MJ)430kW(454kW)
※()内は2021年最終戦バーレーンの値
※グリッケンハウスは2021年最終戦を欠場
これに連動してLMP2クラスの車両のラップタイムをさらに遅くする調整がなされている。2年シーズン続けて性能が落とされる調整には8kW(約11PS)の削減をもたらす新しいエンジンマッピング、フロントのダイブ・プレーンの削除、65リッターの燃料タンク容量、ディフューザーの50mm短縮が含まれる。
また、リヤウイングのフラップには10mmのガーニーフラップを追加し「空力バランスを補正」することも一連の調整に加えられた。エアロパッケージは引き続き、全ラウンドで“ル・マン・スタイル”のローダウンフォーム・トリムの使用が義務付けられている。
■平川亮がWEC再挑戦。最高峰カテゴリーで王座獲得目指す
フルシーズンエントリーした35台に加え、撤退を表明したGドライブ・レーシングに代わってレース・バイ・レースでの出場となるアルガルベ・プロ・レーシングのオレカ07を加えた計36台が参戦する今季のWEC。日本からはシリーズ王者でありル・マン5連覇を狙うTOYOTA GAZOO Racingがエントリーしているが、既報のとおりドライバーラインアップが一部変更され、現役を退いた中嶋一貴TGR-E副会長に代わり、平川亮が8号車トヨタGR010ハイブリッドに乗り込むことになった。また、僚機7号車はラインアップに変更はないものの、小林可夢偉がドライバーとチーム代表を兼務する新体制となっている。
このほか注目のエントリーを挙げると、昨年TOYOTA GAZOO Racing WRTで自身8度目のWRC世界ラリー選手権タイトルを獲得したセバスチャン・オジエが、LMP2チームのリシャール・ミル・レーシングに加入した。
同クラスは今季、チーム・ペンスキーやプレマ・オーレン・チーム、ベクター・スポーツ、アルティメットという4つの新しいチームが加わったことで、シリーズ史上最大規模のエントリーを集め、その数は15台を数える。
昨年はフェラーリとポルシェの一騎打ちとなったLMGTEプロクラスには、初めてシボレーがフル参戦を果たし、コルベット・レーシングが全戦で64号車シボレー・コルベットC8.Rを走らせる予定だ。全12台がエントリーしているLMGTEアマクラスには、日本籍のDステーション・レーシングが名を連ねており、星野敏と藤井誠暢の日本人コンビに若手のチャーリー・ファグを加えた布陣を組み、2年目の挑戦をスタートさせる。第3戦ル・マンでは木村武史がケッセル・レーシングから出場予定だ。
■2022年もトヨタ内でのタイトル争いとなるか
世界選手権タイトルが懸かるハイパーカークラスでは、今季もトヨタがライバルたちから一歩抜け出すものと予想され、チャンピオンチームの7号車組と平川を迎えた8号車組によるタイトル争いが繰り広げられるものと思われる。
もちろん、BoPの調整具合によってライバルチームが速さを見せる可能性もあるが、スピードと信頼性、さらにチーム力を組み合わせた総合力でトヨタを上回るかと言うと疑問が浮かぶ。
一方、予想が難しいのがLMP2クラスだ。実力が拮抗している上位チーム、とくにWRTやJOTA、ユナイテッド・オートスポーツはどこか勝ってもおかしくない。また、実力派ドライバーを起用して殴り込みをかけるペンスキーやプレマ・オーレン・チームといった新チームが、いきなりシリーズチャンピオンをさらっていく可能性も大いに考えられる。
GTEプロクラスは王者AFコルセに対し、昨年涙を飲んだポルシェGTチームが雪辱に燃えているはずであり、ふたたび熱いバトルが繰り広げられることだろう。ここにコルベットがどのような形で割り込んでくるのか注目したいところだ。
フェラーリ、ポルシェ、アストンマーティンの3車種で争われるGTEアマクラスも混戦必至。チャンピオントリオのLMP2挑戦にともない、王者不在となる同クラスには今季、ニック・キャシディが“強豪”AFコルセ54号車フェラーリのメンバーに加わった。チャンピオン候補はこのイタリアチームと、GTE王者マルコ・ソーレンセンが加入したTFスポーツ、ポルシェユーザーのデンプシー・プロトン・レーシングなどが挙げられる。
●2022年WEC開幕戦セブリング1000マイル エントリーリスト
Pos.No.ClassTeamCarDriverTyre17 HYPERCARトヨタ・ガズー・レーシングトヨタGR010ハイブリッドM.コンウェイ小林可夢偉J-M.ロペスMI28 HYPERCARトヨタ・ガズー・レーシングトヨタGR010ハイブリッドS.ブエミB.ハートレー平川亮MI336 HYPERCARアルピーヌ・エルフ・チームアルピーヌA480・ギブソンA.ネグラオN.ラピエールM.バキシビエールMI4708 HYPERCARグリッケンハウス・レーシンググリッケンハウス007 LMHO.プラR.デュマR.ブリスコーMI51 LMP2リシャール・ミル・レーシング・チームオレカ07・ギブソンL.ワドゥS.オジエC.ミレッシGY65 LMP2チーム・ペンスキーオレカ07・ギブソンD.キャメロンE.コラールF.ナッセGY79 LMP2プレマ・オーレン・チームオレカ07・ギブソンR.クビサL.デレトラズL.コロンボGY810 LMP2ベクター・スポーツオレカ07・ギブソンN.ミューラーR.カレンM.ロッケンフェラーGY922 LMP2ユナイテッド・オートスポーツUSAオレカ07・ギブソンP.ハンソンF.アルバカーキW.オーウェンGY1023 LMP2ユナイテッド・オートスポーツUSAオレカ07・ギブソンP.ディ・レスタO.ジャービスJ.ピアソンGY1128 LMP2JOTAオレカ07・ギブソンO.ラスムッセンE.ジョーンズJ.アバディンGY1231 LMP2WRTオレカ07・ギブソンS.ゲラエルR.フラインスR.ラストGY1334 LMP2インターユーロポル・コンペティションオレカ07・ギブソンJ.スミエコウスキーA.ブランドルE.グティエレスGY1435 LMP2 ProAmアルティメットオレカ07・ギブソンJ-B.ライエM.ライエF.エリオGY1538 LMP2JOTAオレカ07・ギブソンR.ゴンザレスA.F.ダ・コスタW.スティーブンスGY1641 LMP2リアルチーム・バイ・WRTオレカ07・ギブソンR.アンドラーデF.ハプスブルクN.ナトGY1744 LMP2 ProAmARCブラティスラバオレカ07・ギブソンM.コノプカM.ベッシェT.ファン・デル・ヘルムGY1845 LMP2 ProAmアルガルベ・プロ・レーシングオレカ07・ギブソンS.トーマスJ.アレンR.ビンダーGY1983 LMP2 ProAmAFコルセオレカ07・ギブソンF.ペロードN.ニールセンA.ロベラGY2051 LMGTE ProAFコルセフェラーリ488 GTE EvoA.ピエール・グイディJ.カラドMI2152 LMGTE ProAFコルセフェラーリ488 GTE EvoM.モリーナA.フォコMI2264 LMGTE Proコルベット・レーシングシボレー・コルベットC8.RT.ミルナーN.タンディMI2391 LMGTE ProポルシェGTチームポルシェ911 RSR-19G.ブルーニR.リエツMI2492 LMGTE ProポルシェGTチームポルシェ911 RSR-19M.クリステンセンK.エストーレMI2521 LMGTE AmAFコルセフェラーリ488 GTE EvoS.マンC.ウルリッヒT.バイランダーMI2633 LMGTE AmTFスポーツアストンマーティン・バンテージAMRB.キーティングR.ラトーM.ソーレンセンMI2746 LMGTE Amチーム・プロジェクト1ポルシェ911 RSR-19M.カイローリM.ペダーセンN.ルートウィラーMI2854 LMGTE AmAFコルセフェラーリ488 GTE EvoT.フローF.カステラッチN.キャシディMI2956 LMGTE Amチーム・プロジェクト1ポルシェ911 RSR-19B.イリービO.ミルロイB.バーニコートMI3060 LMGTE Amアイアン・リンクスフェラーリ488 GTE EvoC.スキアボーニM.クレッソーニG.フィジケラMI3171 LMGTE Amスピリット・オブ・レースフェラーリ488 GTE EvoF.デゾトゥP.ラゲG.オーブリーMI3277 LMGTE Amデンプシー・プロトン・レーシングポルシェ911 RSR-19C.リードS.プリオールH.ティンクネルMI3385 LMGTE Amアイアン・デイムスフェラーリ488 GTE EvoR.フレイM.ガッティンS.ボビーMI3488 LMGTE Amデンプシー・プロトン・レーシングポルシェ911 RSR-19F.プアダッドP.リンジーJ.アンドラウアーMI3598 LMGTE AmノースウエストAMRアストンマーティン・バンテージAMRP.ダラ・ラナD.ピタードN.ティームMI36777 LMGTE AmDステーション・レーシングアストンマーティン・バンテージAMR星野敏藤井誠暢C.ファグMI
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