憧れのフェラーリオーナーになったなら、アナタはまず何をしてみたい?
ボクが初めてフェラーリを買った90年代半ばの頃なら、間違いなく“フェラーリブランチに参加すること”だった。今ならさしずめ“レーシングデイズに自分のクルマで参加したい”と言うかも。
コイツは完璧に動くショーカーだ!──日産GT-R50 by イタルデザインに乗った
いずれもオーナーとして参加することに意義のあるイベントだ。そういう意味ではフェラーリだけのドライブラリーツアー「カヴァルケード」(イタリア語で、あえて訳せば馬車パレード)の存在も、忘れちゃいけない。
かの有名なクラシックカーラリー「ミッレミリア」と、それはほとんど同じシステムを採りいれた、跳ね馬オーナー限定のドライブツアーだ。毎年、イタリアのどこかで開催されるカヴァルケードに、自分のフェラーリを“里帰り”させて参加することが、今、跳ね馬オーナーたちの憧れになりつつある。
スーパーカー仲間の友人が、この4月に納車されたばかりの812スーパーファストを、一度日本で乗っただけでイタリアへ送り返し、カヴァルケード2018に参加するというので、コ・ドライバーを前のめりにかってでた。
ミラノからおよそ150km。アオスタはサン・ヴァンサンにあるグランドホテル「ビリア」が、2018年イベントのベース基地だ(ミッレミリアなどとは違って、ゴージャスなホテルを起点に、日々、四方八方へとドライブに繰り出す。毎日の荷物まとめがないぶん、とてもラク!)。
初日。午後にレジストレーションを済ませ、夜のドライバーズ・ブリーフィングに出たら、あとはパーティで飲んだくれるだけ!(2日酔い厳禁)。ウエルカムパーティはサン・ヴァンサンの街の広場を貸し切ってゴージャスに。早速、隣に座ったラ・フェラーリ乗りのご夫婦と意気投合する。なんでもそうだけれど、飯どきは知り合いを造るチャンス、だったり。
友人の812はゼッケン35番。合計110台の並び順は、ほぼほぼ新しいもの&高価で希少な個体順、といった感じ。ラ・フェラーリから順に、812スーパーファスト、ポルトフィーノ、70周年テーラーメードモデル、テーラーメード(特注)、F12tdf、GTC4ルッソ、488、カリフォルニア、458、そのほか、という順でゼッケンが割り振られている。
珍しいところでは、SAアペルタや599GTO、エンツォ、F50、F40も! ちなみに、812だけですでに21台。また、日本人も5組リストに載っているから頼もしい。
スタートと同時に手渡されたタイムカードによると、ボクたちは次の目的地まで遅くとも11:15までに行かなければならない(つまり、11:15が次の場所からのスタートタイムになる)。遅れるとペナルティ。実際には、目的地でのレストコントロール(休憩時間)をたっぷりと含んでいるから、大きくミスコースさえしなければ、たいてい早めに辿り着く。
カヴァルケードは単なるドライブツーリングじゃない。ルート案内はコマ図のみ。初めてだとちょっぴり難しい。とはいえ要所要所に矢印の看板もあって、見落とさなければ大丈夫。さらに、専用スマホも渡されている。万が一迷っても、目的地へはすっ飛ばして行くことも可能だ。
もちろん、クラシックカーラリーのような競技性だってある。基本はミッレミリアと同じ。前述したように、各ポイントにおけるスタート時間を守ることがまずひとつ。つぎに、チェックポイントを必ず通過すること。そして、PC競技=決められた区間における指定タイムとの誤差を競うもの、だ。
PC競技はラリーイベントの醍醐味のひとつで、ミッレミリアなどでは1/100秒を争っている。そのほか、カヴァルケード独自のお楽しみとして、クイズや専用スマホで探し物(今年はアイベックス=ヤギの看板)撮影、といったアトラクション的な競技もあった。要するに、走ること以外で、これがけっこう忙しい。
いきなりアウトストラーダにのって、かっとんだ。前日のうちにテレパス(イタリアのETC)を取付けておいてくれたので、有料道路でもストレスなく走っていける。最新12気筒モデルだけあって、812軍団のペースはそうとうに速い!
ピッコロ・サン・ベルナルド(フランス語ではプチ・サン・ベルナール)峠を抜け、フランスへ向かう。イタリア側では公道を封鎖してのPC競技だ。タイム計測に必死で、景色を見ている暇なんて、ない!
国境あたりに、アイベックスが居た! スマホで撮影すると、自動的に事務局へと送られる仕組み。これ、いいアイデア。
クーシェベルの空港でランチタイム。料理はコースで、フレンチ。まわりはセレブリティ御用達のスキーリゾートで、なんと村の中に5つ星ホテルが20軒もあるらしい。
空港パドックにずらりと並べられた100台以上の跳ね馬たちを眺めていると、あることに気づく。赤いクルマが思った以上に少ないのだ。テーラーメード(特注)が流行っているせいか、“フェラーリといえば赤”といったイメージは、少なくともカヴァルケードに参加するような“跳ね馬上級者”には最早ないに違いない。
往路を逆さにイタリアへと戻った。初日のゴールはアオスタの中央広場。市民から盛大な歓迎を受ける。沿道の大声援もまた、ラリーの醍醐味だ。
ゴールポイントで朝に渡されたタイムカードが回収される。それまでにクイズの答も書いておかなければいけない(これがけっこう難しい)。
夜は、シャトルバスに乗って中世の古城へ。アオスタには沢山の古城が残っている。そのひとつをパーティ用に借り切ってのディナー。大いにシャンパーニュをサーブしてもらった。チーズがベラボーに旨かった。
決められた時間にスタートし、こんどは大きいほうの(グランデ・)サン・ベルナルドを目指す。昨日同様、イタリア側の見事なつづら折りはカヴァルケード用に占有されていて、そこで5連続のPC競技があった。
昨日の成績が思いのほか良かった(毎日、成績発表がある)ので、ちょっと気負ったのがいけなかったか。1つ目、2つ目と無難に切り抜けた、と思ったら、痛恨の計測ミス! 3つ目、4つ目を台無しにしてしまった。嗚呼。その上、指定時刻の再スタートも焦って早出のペナルティ。何だか今日は、ついてなさそう。
再スタートしてスイス側へと下っていく。国境を超えると、よく整備されたカントリーロードに出た。V12サウンドがアルプスに木霊した(ような気がする)。と、路肩の広場に、再スタート時には前にいたはずのラ・フェラーリ2台と他1台がポリスに停められていた! スピード違反か?
レマン湖が見えてきた。フランス領へ入ってからランチ。白ワイン造りで有名な「シャトー・ドゥ・レパイエ」の庭でビュッフェ。前菜のパテやソーセージが美味。
午後はレマン湖に沿って走る。ミネラルウォーターで有名なエビアンを抜け、再びスイス側へ。レマン湖って、北側がスイスで南側がフランスなのね、と、今さら気づく。
事務局からのスマホ指令で、“国境を超えるときは警察に注意”との報。途端にみんなスローダウン。先にポリスが確かにいる。国境のすぐ手前だ。せこい!
専用スマホには随時、ルート変更情報やアラートが入ってくる。ちなみに、この専用スマホ、参加者間のチャットやストップウォッチなど、カヴァルケードをさらに楽しむアプリが沢山入っていて、使いこなせば超ベンリ(なはず)。
シャモニーの街からモン・ブランを見上げたのち、その名も“モンブラン・トンネル”を抜けて、モン・ブランがモンテ・ビアンコへと名を変えるイタリア側へ戻った。標高1300mのポンタル・ダントレーブがラリー2日目のゴールだ。
クルマをパーキングに並べて、いざ、スカイウェイ(ロープウェイ)へ。標高3466mのエルブロンネル展望台に登ってアペリティフ(食前酒)を頂く。ダウンを着込んで直径14mもの屋外展望テラスに出てみれば、澄み切った青空のもと360度の大パノラマが広がっていた。
4800mのモン・ブランの頂きがすぐそこに見えている。これほど見事に晴れ渡ることなんて、めったにない。世界のフェラーリオーナーたちは、やっぱり“もっている”。その夜はスカイウェイ中間駅パヴィヨン・ドゥ・モンフレティでディナー。参加車両のホテル帰着は、なんと夜の11時を過ぎていた。
カヴァルケードが訪れる先々は特別な場所が多く、ふだんはクルマで入れないような場所にも愛車を並べたりすることができる。けれどもクルマはともかく、一般人が普段めったに入れない場所というのは、そうあるものじゃない。この日の最初の目的地が、正しくそういう場所だった。
ミラノとトリノの中間くらいに位置するバロッコ村の、FCA(フィアットグループ)プルービンググラウンドだ。フィアットのバンからマセラティ、ときにはフェラーリだってテストする。そんな場所だから入場チェックが異常に厳しい。もちろん撮影も厳禁。
アオスタからアウトストラーダをぶっ飛ばすこと小一時間でバロッコへ。ゲートでスマホカメラを目張りされ、中に進めばいきなりジムカーナ競技が待っていた。812スーパーファストのドライブモードをCTオフにし、張り切ってスタート。トラコンカットでテールスライドをほどよく許しつつ、電動パワステの制御で適切な操舵角をそれとなく教えてくれたうえに、まずい事態になればESPが助けてくれるという、お楽しみモードだ。
ランチ前には、その名も「アルファロメオサーキット」を4周、高速周回路を2周した。これまでに試乗会で5回ほど、このサーキットを走ったことがあるけれど、812ほど速いクルマでは初めてだ。見慣れた景色が、少しだけ歪んで見えてくる。
バロッコのなかには、アウトデルタが使っていたれんが造りの“スクーデリア(厩舎)”も残る、美しい一帯がある。そこでランチだ。メニューは屋外BBQによるビステッカ(ビーフステーキ)!
午後には再びアルプスを目指した。「イタリアで最も美しい村」のひとつがあるサン・ジュリオ島が浮かぶオルタ湖を通過。ただ通り過ぎるだけというのが、もったいないほどに美しい景色が広がっている。
さらに北へと進んで、イタリア高級織物の聖地、ビエラへ。山間を進み、PC競技をこなしてこの日最後の休憩ポイントに辿り着いてみれば、巨大な聖堂がボクたちを待ち構えていた。ピューリタンが多数訪れるサントゥアリオ・ディ・オロパ。標高およそ1200mに立つ高さ80mもある圧巻のアッパー・バジリカは、なんと3000人もの参拝者を飲み込む。
ホテルに戻ってみれば、エントランスからプールサイドまで、なんと施設がすべて1920年代の誂えに“改装”されていた。そう、今夜は“グレート・ギャツビー”スタイルでの仮装パーティ。デカプリオみたいに白いスーツに金のタイ&ベストで決めたかったけれど、さすがに日本人には似合わない。ちょっと外した20年代ワーカーズスタイルで参戦。これが殊のほか、ヨーロッパの人たちにはウケた。夜中まで、タイムスリップのどんちゃん騒ぎは続いて……。
最終日の行程はおよそ160kmと、前日までの半分くらいに抑えられている。ラクショーかと思いきや、スタート直前に大きなハプニング!
急遽、1カ所目のコーヒーブレークポイントと2カ所目のランチ会場を入れ替えるという、大胆過ぎるルート変更が入った。山の上のダムの堤防でランチ、というとても面白い趣向だったのだけれど、なんでも午後から山側の天気が悪くなるという予報だったらしい。そこで急遽、ルートを入れ替えたらしい。なんと臨機応変なことか。追加マップからルートの矢印、会場設営までちゃちゃっとやれてしまうあたりもまた、イタリアらしいというか、らしくないというか。
狭いワインディングロードを駆け上がっていく。一般車も多い。イタリア人といっても皆がみな運転上手なわけじゃなく、のんびりノロノロ走るヒュンダイも多かったりするから、上手に抜かしていく。そうして辿り着いたモウリンダムでのコーヒーブレークもまた、非日常の極み。ちょっと寒かったけれど。
山を下り、こんどはアウトストラーダを挟んで反対側、つまり南へと走る。イタリア最初の国立公園「グラン・パラディーソ」の小さな村、コーニュのランチポイント(どうやって予約変更したの?)へ向かった。何となく街に気品が漂ってみえたのは、その昔、ここがサヴォイア・アオスタ家(トリノの分家筋だけど当代はイタリア王を請願しているらしい)が狩りを楽しむプライベートフィールドだったから、かもしれない。
ランチを終え、この日はみなホテルへの帰路を急ぐ。幸いにも、この日一日の天気はもった。否、4日間の全行程とも晴れわたった。世界の跳ね馬トップオーナー、やっぱり“もってます”。
最後の夜は、参加者全員がフォーマルに着飾ってのガラ・ディナー。アオスタの中心部にある、紀元前25年頃に造られたロマーナ劇場に特設パーティ会場は設えられていた。石舞台でパーティするようなもんだから、イタリアにおけるフェラーリへのリスペクトはそうとうに大きい。
パーティ中には参加者限定のサプライズインフォメーションが(これだからやめられない)。さらにはF1関連のレアグッズ&パーツなどのオークションも行なわれた。なかでもカヴァルケード2019(カプリ島がベース)においてゼッケン1番を付ける権利が10万ユーロで落札され、一同大いに盛り上がる。
カヴァルケードが跳ね馬オーナーにとって大きな価値のあるイベントであるということの、それは証だ。参加費はかなりの高額だし、インビテーションの届くオーナーも限られているとはいうものの、参加する価値は精神的にも経済的にも、“十分”にある。
跳ね馬をレンタルして参加することも可能(当然だが、けっこう高い)だけれど、せっかくの機会だ、自分のクルマを里帰りさせて参加するというのが理想というものだろう。
どうせ遊ぶなら“全力”で。このイベントの底辺に流れているコンセプトが、それくらいシンプルだからこそ、ほかのラリーツアーとは一線を画している。
翌日、友人とボクは、せっかくイタリアまで来たのだからとマラネッロへ向かった。なるほど、カヴァルケードに出たあとに愛車(愛馬?)で本当に里帰りするというのもまた、全力の一興というものだ。
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