+αの楽しさと魅力をどう訴求するかが込められていた
かつてボブ・ディランの“Like A Rolling Stone”に乗せて「モノより思い出。」とやったのは、日産セレナの2代目が登場したときだから1999年のTV−CMだったと思う。うまいことを言うなぁ……と感心しながら聞いていた覚えがあるが、ある意味、燃費がどうだとか、ラゲッジスペースの奥行きは何cmだとか、そういう即物的な尺度ではなく、乗ってどれだけ心地いいかとか、情感面での訴求で打って出てきたところは、先行ライバル車だったホンダ・ステップワゴン(子どもといっしょにどこいこう……がキャッチコピーだった)を意識したものだということが理解できた。
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ところでピープルムーバー、日本流に言うところのミニバンは、ライフステージの一時期を担うファミリーカーとしてポピュラーな存在だ。残念ながら筆者は、自身でそういうミニバンで育った経験も家族を育てた経験もないが、想像するに、人の原体験におけるファミリーカーの存在はやはり大きなものだと思う。何に乗って育ったか、何をしたか、どこへ行ったか……は重要だ。
……と、ややこしくあらぬ方向に文脈が流れてしまったが、本稿では肩のチカラを抜いていただき、いかにもファミリー向けのミニバンらしいホノボノとした装丁のカタログを振り返ってみよう……がテーマだ。
ルノー・メガーヌ・セニック
そのキッッカケになったのが、1996年のルノー・メガーヌ・セニックのカタログだ。写真でもおわかりのように、このカタログは表紙から最後のページまで一貫して、まるで子ども向けの絵本か図鑑のような仕立てになっているのが特徴だった。
題材を動物、植物、空、星、雲といった自然界に求め、よく目を通すとクイズになっていて、その答えは最後の見開きページに。たとえば“危険を察知したら丸くなって自分の身を守るのはどれ?”の問に対して答えは“ハリネズミ”といった風で、これなら小さなお子さまのいるご家庭で親子で楽しむことができる。
ちなみにその身を守るハリネズミは、セニックのボディ骨格を説明したページに載せている点が秀逸。しかも掲載されているのは漫画ではなく、リアルな写真で情操教育的な雰囲気も高い。もちろん主役のセニックについても、こちらはシッカリと自動車のカタログ調で紹介されており、いわばリビングルームで親子揃って楽しめるカタログになっているという訳だ。
日産セレナ
そんなルノーのカタログのニオイが感じられたのが、日産の初代セレナ(カタログは1997年9月)のカタログ。ヴィヴィッドでカラフルな色合いの表紙からして日本車離れした雰囲気だが、ページを捲ると、各所にクルマの写真にからめて動物が載せられている。
ジャンル的にはセニックのようにキリンやゾウは登場してこないまでも、おもに身近なペットを想定した犬、猫が登場(風景のなかで鹿、馬、海鳥は登場する)。
肝心の人は日本車ながら外国人モデルが起用されており、ペットの猫をドライブに連れ出すのもレアケースかもしれないが、ともかく、冒頭に触れた2代目セレナの「モノより思い出。」に繋がる、ファミリーで過ごす時間の新しい楽しみ方を訴求していると理解できた。
トヨタ・ノア
もう1台がトヨタ・ノア(初代)の2002年8月のカタログ。カラフルな花のイラストで飾られた表紙からしていかにもファミリー向けだが、ページを開くと“ノアなら、かなう夢がある”“ファミリー・ファンタジア「ノア」誕生。”とある。
そしてトーンとしては空想、ないしは夢のなかのシーンを描いたようなイラストに実車の写真が組み合わせられ、まさしくファンタジーの世界に誘われていくような感じだ。
図鑑というわけではなく、その意味ではフィクションであるが、同じ合成写真でもどこかの写真エージェントが持っていた海外の風景写真と組み合わせて作ったのではない、おとぎ話風の世界観が子どもでもちょっと関心がもてそうな装丁だ。
マツダ・ボンゴ・フレンディ
もう1台、モノよりコトという方針でいうと、マツダの初代ボンゴ・フレンディ(1995年)のカタログも見逃せない。このクルマの場合は、何といってもオートフリートップと呼ぶ、電動でルーフを開けることができ、そこに出現するスペースをテントのように活用できる点が魅力だった。
そのスペースは全長1850mm、幅1080mm、そして床からの高さは2450mmと余裕のあるもの。“家族みんなの「感動体験基地」”“ひる、よる、ゆかい。遊べる、泊まれるワゴン”がキャッチコピーだった。
今回取り上げている他車同様に、イラストと組み合わせたソフトでスマートなイメージの楽しみ方の紹介ページなどと合わせて、家族ぐるみでクルマに乗ってどこかに出かけたい、アウトドアを存分に楽しみたい……そんな行動派のファミリーからの注目度は高く、今あっても受け入れられそうなクルマだった。
ミニバンというと基本は実用車だ。だから道具としての使いやすさは最低限必要な要素となる。だが、それだけではなく+αの楽しさ、魅力をどう訴求するか。今回ご紹介した4車のカタログには、そういう工夫が溢れていた。
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