ターボが落ち、GTSがトップグレードに
text:Greg Kable(グレッグ・ケーブル)
【画像】マイナーチェンジ ポルシェ・マカンGTS 競合のスポーティSUVと比較 全102枚
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
ポルシェ・マカンの純EV版には、幾つかの噂が聞こえてくる。英国へは2023年に上陸するらしい。ポルシェ自ら、1年以上前からその計画を匂わせてきた。英国編集部ではプロトタイプの画像を入手してもいる。
次期型が刻一刻と迫っている。しかしポルシェは、既存モデルを放置してはいない。登場から7年目となる2021年、マカンはフェイスリフトを受けることになった。
7年間といえば、通常なら次期モデルが登場してもおかしくない時間。しかしポルシェは例外。何十年も911を通じて重ねてきた独自の進化プロセスを守り、マカンにも落とし込んでいる。
見た目をリフレッシュさせ、インテリアを改め、機能をアップデート。エンジンにも手が入り、パワーアップを果たしている。グレードの選択肢も、ベースのマカンとマカンS、マカンGTSに絞られるという。
マカン・ターボはラインナップから落ち、GTSに吸収される。フェイスリフト後のマカンは、英国では7月から注文が受け付けられる。
スタイリングの変更は小さい。フロントバンパーには、ボディのワイド感を強調するデザインのエアインテークが開けられた。ドア下部に付くトリムも、新形状になっている。
リアを観察すると、新しいバンパーに大型化されたディフューザーがえぐられている。今回試乗したプロトタイプのGTSが履く、21インチのRSホイールも新設定。ボディには3種の新色が追加される。詳しい情報は、7月末までのお預けだ。
2.9L V6ツインターボで440psと55.8kg-m
インテリアの変更も限定的だが、より快適な運転環境に仕上がっている。写真撮影が許されたのは、ほぼ全面が布で隠された状態のみだった。
シフトレバーは短くなり、ステアリングホイールは新しいマルチファンクション仕様になる。アドバンスド・コクピットと呼ばれる機能の一部として、メーターパネルはモニタータイプに。インフォテインメント用の10.9インチ・タッチモニターも据えられる。
エンジンルームの内側も忘れてはいない。エントリーグレードのマカンに搭載される2.0L 4気筒ターボは改良を受け、20ps増しの264psを獲得。最大トルクは3.0kg-m増え、43.7kg-mとなった。
ミドルグレードのマカンSには、3.0L V6ターボではなく、よりパワフルな2.9L V6ツインターボを登用。従来比で26ps増しの380psと、4.0kg-m増しの52.8kg-mを獲得している。トップグレードとなるGTSにも2.9L V6ツインターボが載るが、よりパワフル。
最高出力は既存のマカン・ターボに並ぶ。2.3barのブースト圧で過給し、新ECUで制御することで、440psと55.8kg-mが与えられている。60psと3.0kg-mが上乗せされることになる。
ポルシェがマカンGTSで目指したことは、パワーへ引き上げることだけではない。よりシャープでスポーティな性格付けも、一環に含まれていた。
チューニングを受けたエンジンは、明らかに好戦的。低回転域から非常に力強く、マカンへ一段上の加速性能がもたらされている。中回転域での鋭さも見事。6800rpmのレッドライン目掛けて、猛然と吹け上がる。
引き上げられた性能と魅力的なサウンド
高いパフォーマンスを苦もなく発揮し、スポーツ・モードを選択すると、高負荷時には刺激的なエグゾーストノートが高らかと響き渡る。アフターファイヤーの破裂音も、その後に続く。
ポルシェは速さに関する数字をまだ発表していない。オプションのスポーツクロノ・パッケージを組めば、従来のマカン・ターボと同等の、0-100km/h加速4.3秒と270km/hの最高速度は期待できるはず。
ちなみに現行のマカンGTSは、0-100km/h加速4.7秒で、最高速度は260km/h。決して遅いわけではない。
これまでのマカン・ターボはドラマティックさが足りなかった、と感じていたドライバーなら、新しいマカンGTSは試す価値がある。実環境での速さはそのままに、より魅力的なサウンドも楽しめるようになった。より力強く吠え上げる。
マカンGTSは刺激を強めながら、リラックスした側面も忘れていない。ドライブモードで、クルマの性格は顕著に変化する。ステアリングホイールのコントローラーでコンフォートを選べば、静かで落ち着いた特性へ切り替わる。
高められたエンジンの魅力は、相性の良い7速デュアルクラッチATが巧みに引き出してくれる。ギアボックス任せのATモードでも、ステアリングホイールのパドルを弾くマニュアル・モードでも、素早く確実な変速を決めてくれる。
知的な四輪駆動システムも協働し、トラクションも秀逸。さらにトップグレードのマカンとして際立つのが、抜群のハンドリングだ。
SUVらしくないダイナミックな運転体験
向上したエンジンのパフォーマンスを完全に受け止めるべく、シャシー側も応答性や操縦性が従来以上に磨き込まれた印象。ダイナミックなドライビング体験を求めてSUVを選ぶドライバーはいないと思うが、マカンGTSならそんな願望も許してくれる。
ポルシェらしく、改良は細部に至るまで徹底している。従来のGTSを支えていたスチールコイルはエアサスペンションに置き換わり、フロントで10%、リアで15%、レートが高められた。車高調整も可能で、スポーツ・モードでは10mm低くできる。
アダプティブ・タンパーも改良を受け、従来以上に高速な減衰力制御を実現したという。タイヤサイズは、フロントが265/40、リアが295/35というワイドな21インチ。ピレリPゼロ・コルサが標準だ。
ステアリングの重み付けはちょうど良く、SUVの中では群を抜いて感触に優れる。操る自信を生んでくれる。コーナリング時は横方向の動きを上手になだめ、ボディロールは最小限。高いグリップを活かし、見事な落ち着きを披露する。
マカンGTSの俊敏性を高めているのが、前後タイヤ間のトルク分配率をリアルタイムで可変させる、四輪駆動システム。さらにリアタイヤ左右の駆動力を操る、オプションのトルクベクタリング・プラスを組み合わせれば、さらなる強化も可能だ。
とはいえ、マカンGTSは軽くはない。プロトタイプに同乗した技術者は、1925kg近い重量になるだろうと話していた。この質量をシャシーは見事に受け止め、遥かに軽量なクルマに感じさせてくれる。
ライバルが到達できなかった水準
スポーツ度が高められた性格は、乗り心地にも反映している。コンフォート・モードでは充分なしなやかさが備わるものの、スポーツ・モードで傷んだ路面を走ると、なかなか手厳しい。
その原因の1つは、快適性より積極性を重視したタイヤサイズにあるだろう。少なくとも、隆起部分などを通過しても、ホイールが暴れるようなことはない様子。絶えない振動に悩まされ、我慢できないほどではない。
フェイスリフトを受けるポルシェ・マカン。歓迎すべき親しみやすさと、走りの向上を実感できるはず。見た目は機能的なデザイン変更を受け、車内の広さはそのままだが、インテリアはよりモダンな雰囲気になる。
何より、ドライビング体験の磨き込みが素晴らしい。まだテスト段階であり、開発チームと一緒の移動に限定されていたが、群を抜く走行性能を保持することは疑いようがない。
BMW X3やメルセデス・ベンツGLCのスポーティ仕様が目指して、到達できなかった水準にある。純EVへ生まれ変わるマカンが登場するのは、最短でも2年先。当面は、ポルシェの内燃モデルは高い訴求力を維持するだろう。
価格は未発表ながら、現行のGTSより英国では6000ポンド(92万円)ほど上昇するという。かなりの値上げに思える。しかし同等の性能を備える現行のマカン・ターボより、4000ポンド(61万円)安いということも忘れないで欲しい。
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