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昨年唯一のグランド・ツーリングをふり返る。エヴィアン~モナコ間をアルピーヌA110で縦断 前編

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昨年唯一のグランド・ツーリングをふり返る。エヴィアン~モナコ間をアルピーヌA110で縦断 前編

アルピーヌ・ラリーに最新A110で参加したのが、2020年、筆者唯一の海外長距離行となった。ヴィアン・レ・バンからモンテカルロまで、約800kmの“アルプス山中縦断”をリポートする。アルピーヌの創業者ジャン・レデレがラリードライバーとして走ったアルプスの山々で得たドライビングプレジャーを、はたして最新モデルで追体験できるだろうか?

それはタイムマシンへのお誘いのようだった

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思えばコロナ禍の2020年、唯一の海外での長距離行となってしまった。まだフランスの日々の感染者数が1万人弱で累計でも40万人(12月現在は、一時の4万人超からやや落ち着いて約6000人、累計は247万人)ほどだった秋口、本来は春夏予定だった様々のスポーツイベントが、失われた時間を取り戻そうとするかのように開催されていた。「不要不急」の定義と、クイーンの「ザ・ショー・マスト・ゴー・オン」が頭の中ではせめぎ合っていたものの、滅多にない機会であることは明々白々だったので、ほぼふたつ返事で行って来ることにした。それが「アルピーヌ・ラリー」に参加した経緯だった。

「クープ・デ・ザルプ2020」というヒストリック・ラリーと併催で行われ、対象車両は過去から現在までのアルピーヌ・ベルリネットすべて。ラリーと名はつくものの、計測やSSはないグランド・ツーリング的イベントで、エヴィアン・レ・バンからモンテカルロまで約800km、延々とアルプス山中を縦断する。アルピーヌの創業者ジャン・レデレは1940年代末から50年代初頭にかけて、ルノーのワークス・ラリードライバーとしてアルプスの山々で、それこそクープ・デ・ザルプなどに出走していた。その経験を通じて得たドライビングプレジャーを自らが造る車に込めたいと考え、1954年に「アルピーヌ」という自動車メーカーを興した逸話は有名だ。その原体験を、現行の最新A110で追体験できるか否か? そこに興味も妙味もある訳だ。

まだ1500kmしか走っていないリネージGT

現在、アルピーヌ本社はブローニュ・ビランクールというパリ16区をほんの少し出た先にある。用意された車両はA110リネージGT。「グランド・ツアラー」的な仕立てで、アルジャン・メルキュール(水銀色)のボディ外装に、アンバーブラウンのレザーに同じくアンバーがかったカーボンパネルをあしらった内装の組み合わせだ。加えてリネージGTだけの特長は色だけでなく、シートと同色でリアトランクにぴったり収まるボストンバッグとシューズケースほどのポーチ×2点が備わる。世界で400台、日本では30台の限定モデルだ。

ほかにもカラーリング上の特別仕立てとして、ホイールとロゴにペールトーンのゴールドが一部あしらわれている。よく見ないとボディ色の水銀のニュアンスと、区別をつけにくいほど薄いゴールドだ。小判かシャチホコみたいな金色に「シャンパンゴールド」と名づけている自動車メーカーに爪の垢でも煎じて飲ませたい、お手本のような「シャンパーニュ」ゴールドといえる。

「リネージGTの広報車を使うのは、世界でキミが初めてだよ」と広報担当者のジルはもち上げてくれるのだが、預かった時点での走行距離は1500km。パリからイベントのスタート地点であるエヴィアンまでは600km、アルプス山中で800km、さらにパリに戻るのに900kmほど走るので、総計2400km走行して返却する頃には慣らし運転完了……とも思えた。実際、エヴィアン手前までは日本で乗ったA110より明らかに足回りのストロークがまだ生硬だった。ところが走行距離2000kmを超えた辺りから、身体が慣れたのではなく、アタリがつき始めて明らかにハーシュネスが抑えられ、結果的に長距離巡航もワインディングも楽しませてくれた。252psというA110Sの292psより穏やかスペックのエンジンで、7J×18インチという控え目なホイールを履いたリネージGTは、単なる色違いのお洒落仕様ではなかったのだ。

フレンチ・アルプスに徐々に親しむ

エヴィアンでスタート地点に定められたプラース・ドゥ・レグリーズ(教会広場)には、20台強のモダンA110と4台のヒストリック、A110 1600Sと同SC、さらに2台のA310が並んでいた。やはりブルーが圧倒的に多い分、非ソリッドなシルバーのリネージGTは注目度も高かったが、今後、60~70年代のヘリテージカラー29色を選べるというサービス、「アトリエ・アルピーヌ」によって解消されていくだろう。それにしてもアルピーヌ以外にもヒストリック・カーに交じって、新車なのに刺々しく見えないA110の攻撃的でない存在感は、貴重と思わされた。現代のスポーツカーには珍しいタイプだ。

14時30分過ぎにスタートして、レマン湖を右に左に眺めながら、つづら折りになった丘の道を登り始める。本来、ラリーといえばマップを読み上げるナビゲーターがつきものだが、時節柄、無粋を承知でスマホの地図アプリに代替させた。スタートのゲートはバカンス直後のせいか、わりと地元っぽい人出で賑わった。お遍路さんか巡礼者でも送り出すように、冷やかしと賞賛が相半ばするような声援は、やはり独特のものがある。フットボールと同じく、公道を行くラリーが大衆スポーツとされるところでもある。レマン湖の周辺はスイス側、ジュネーブとローザンヌあとはモントルーぐらいが街らしい街なので、エヴィアンを一歩出れば畑や牧場、オレンジ色の屋根をした家並や、時には伝統的なサヴォワ風のシャレーといった、長閑な光景が広がる。谷間と丘を越えるごとに標高が上がって山が近づくという具合で、徐々に牧場が目立って家々の間隔も広くなり、道も曲がりくねりだす。

最初に現れた目ぼしい峠は、ラ・コロンビエール峠だった。ここは自転車のツール・ド・フランスの難所で知られ、標高は1600m強ほどだが周囲はロッククライミング名所の垂直の岩場で囲まれ、登りの勾配は最後の方で10%超えのキツさとなる。車にとっては絶景のほどよいヒルクライムだが、何せイベント初日で車にも慣れていないため、慎重を期してワインディングは遠慮気味に走った。ここを下った後、ダッシュボード上のタッチスクリーン内、車両モニターで面白い機能を見つけた。直近の走行中の、前後左右Gを記録するモードがあるのだ。まだブレーキも旋回も、かなりビビり気味で、ものの見事に座標軸下側と左右の張り出しが狭い、マッシュルーム型の軌跡が描かれていたのだ。かくして初日は午後スタートの小手調べとあって、走行距離も150kmほど、ムジェーヴというモンブラン山系から遠くないスキー・リゾートの街に投宿した。(中篇へ続く)

文と写真・南陽一浩 編集・iconic

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