現状として日本のクルマの需要=パイは一定数しか存在しない。だから「あるクルマが売れていたら、ほかのクルマから需要(パイ)を奪っている」といえる。
ではそのヒット中のクルマは、どのクルマの「パイ」を“喰って”いるのか? 自動車評論家の渡辺陽一郎氏によると、その矛先は“すべて身内”なのだという。
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企画担当、この話を聞いて思い出したのが、最近のトヨタのSUVラインナップだ。ライズ、RAV4、C-HR、ハリアー、ランクル、ランクルプラド、ハイラックスやレクサスのUXまで入れ、さらについ先日(4月23日)発表のヤリスクロスまで加えればその数はなんと9車種にものぼる。
価格帯やサイズなどで“棲み分け”ができるとはいえ、そこにも限界がある。となると、意図的に「喰い合い」を進めているんじゃないか、とさえ考えてしまう。
…なんてことを考えながら読み進んでいただくのも面白いかもしれない、仁義なきパワーゲームの様相を6つ、ご紹介しよう。
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※本稿は2020年3月のものです
文:渡辺陽一郎/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2020年4月26日号
■01. ライズがトヨタのコンパクトカーのパイを喰う
昨年11月に登場したライズの販売が絶好調だ。今年1月と2月は登録車の販売1位に。ライズは新規投入車種だから先代からの乗り換えはない。そして今は新車需要の80%が乗り換えに基づくから、ライズに喰われた車種がある。
●トヨタ ライズ(2019年11月デビュー → 2020年1月の月販台数:1万220台)
01.最近パイを大食いしているクルマ:ライズ
販売店によると「さまざまな車種から乗り換えているのがライズ。ジュークなどのお客様もいるが、トヨタ車が多い。ヴィッツ、ポルテ&スペイド、アクア、カローラフィールダーなどコンパクトな車種が目立つ」という。
昨年、国内で売られた登録車の46%がトヨタ車だから、「トヨタの敵はトヨタ」になり身内同士の喰い合いが多い。5ナンバーSUVにはスズキクロスビーもあるが、販売面ではトヨタの相手にならない。
ライズに需要(パイ)を喰われたのは、モデル末期で対前年比が約30%減ったヴィッツ、新鮮味が薄れて約25%減ったアクア、売れゆきガタ落ちのポルテなどである。
02.そのパイはライバルのクロスビーから取ったのではなく…
●トヨタ ヴィッツ(2019年6月の月販台数: 7974台→ 2020年1月の月販台数:3579台)
●トヨタ ポルテ(2019年6月の月販台数: 311台→ 2020年1月の月販台数:405台)
03. 新登場のライズの餌食になったのは同門トヨタのこれら。モデル末期のヴィッツも見事に自分のパイを喰われた
■02. RAV4がC-HRやハリアーのパイを喰う
昨年4月に登場したRAV4は人気が高く、10月までは国内のSUV販売No.1だった。他メーカーのライバル車はCX-5やエクストレイルだが、需要(パイ)をそれらから取ったのではなく、身内のC-HRとハリアーが喰い荒されているのが現状。恐ろしい。
●トヨタ RAV4(2019年4月デビュー → 2020年1月の月販台数:5549台)
01. 最近パイを大食いしているクルマ→RAV4
C-HRの月別登録台数はRAV4の登場以降、対前年比で20~40%下降。昨年度上半期(4~9月)も31%の減少だ。C-HRは2017年と2018年にSUVの販売1位だったので、昨年はRAV4にパイを喰われたカタチだ。
販売店側はこう話す。「C-HRは外観が個性的で走行性能も高いが、後席と荷室は少々狭い。ファミリーのお客様は、両車を比べてRAV4を選ぶ傾向です。またRAV4の2Lガソリンエンジン車の価格は、C-HRの1.2Lターボとあまり変わらず、これもRAV4が人気を高めた理由ですね」と。
また、現行ハリアーの登場は2013年で、今年6月にフルモデルチェンジ。設計が古いわりに売れゆきは堅調だが、やはりRAV4にパイを喰われている。
SUVは人気のカテゴリーだが、トヨタ以外は新型車があまり登場してこない。
マツダはCX-30を投入したが、ホンダのCR-Vは価格が割高で売れず、日産のエクストレイルは設計が古く、ジュークは販売を終える。
他メーカーの消極的な投入姿勢がSUVの需要をトヨタに集中させ、身内同士の喰い合いに発展させている、というわけだ。
02.そのパイはCX-5などから取ったのではなく…
●トヨタ C-HR(2019年4月の月販台数: 6085台 → 2020年1月の月販台数:3543台)
●トヨタ ハリアー(2019年4月の月販台数: 3770台 → 2020年1月の月販台数:1748台)
03.新鮮味がなくなりつつあるC-HRやハリアーから喰った。C-HRもハリアーも登場時は売れていた。が、その需要(パイ)が今ではRAV4に喰われている
■03. アルファードがクラウンのパイを喰う
昨年最も多く売れたLサイズミニバンはアルファード。6.9万台を登録して対前年比は17%増えた。現行型の登場は2015年だが今も人気。この犠牲になったのは、実はクラウン。昨年は3.6万台にとどまる。アルファードの約半分で、対前年比も28%減った。
●トヨタ アルファード(2019年2月の月販台数:5651台 → 2019年12月の月販台数: 5183台 → 2020年1月の月販台数:5147台)
01. 最近パイを大食いしているクルマ→トヨタ アルファード
販売店では「今のクラウンはスポーティになり、ロイヤルサルーンも廃止され、従来のお客様が乗り換えに悩んでいる。その一方で最近は、テレビニュースなどで政治家がアルファードを使う様子が報道されている。
この影響もあり、法人のお客様を中心に、クラウンからアルファードへの乗り換えが多いですね」という。
セダンの王者もパイを喰われている現実、恐ろしい。
02.そのパイはオデッセイから取ったのではなく…
●トヨタ クラウン(2019年2月の月販台数:3802台 → 2019年12月の月販台数: 1687台 → 2020年1月の月販台数:1764台)
03. “らしさ”が失われた!? 現行クラウンから喰った!
■04. スペーシアがワゴンRのパイを喰う
軽カテゴリーではスペーシアも大ヒット中だ。昨年は16.6万台を売り、N-BOXとタントに次ぐ3位に。現行スペーシアの登場は2017年12月だが、1年後にSUV風のスペーシアギアを加えた。
これの効果で昨年の売れゆきは、発売直後の2018年と比べても約9%増えている。
●スズキ スペーシア/スペーシア ギア(2019年2月の月販台数:1万5824台 → 2019年7月の月販台数: 1万2688台 → 2020年1月の月販台数:1万2411台)
01.最近パイを大食いしているクルマ→スペーシア(写真はスペーシア ギア)
ライバル車はN-BOX、タント、ルークスなど軽スーパーハイトワゴンだ。これらのなかでN-BOXとタントの販売数はスペーシアより多いから、この2車種のパイを喰ったとはいえない。
では、スペーシア人気の一番の被害車は? それはワゴンRだ。過去を振り返ると、2008年にスペーシア前身のパレットが誕生したが販売はイマイチ。2011年まで、軽全体の販売第1位はワゴンRで、首位は安泰だった。
が、2011年に初代N-BOXが発売されると状況が一変。2012年の軽販売1位はミライースだったが、2位にN-BOXが入り、ワゴンRは3位に後退する。2014年以降はタントも上位に入る。そして2016年には、ワゴンRはスペーシアにも順位を抜かれた。「軽スーパーハイトワゴンの大攻勢」である。
翌2017年はワゴンRが現行型に一新されてスペーシアを一時的に抜き返したが、2018年にはスペーシアが現行型に一新されてN-BOXに次ぐ国内販売2位となり、ワゴンRは後退。つまり、ワゴンRは身内のスペーシアにユーザーを奪われ、かつての販売1位の座を追われたことになる。
初代N-BOXの登場と大ヒットが契機となり、軽スーパーハイトワゴンが注目され、スペーシアは身内ワゴンRのパイを喰う結果となった……。
02. そのパイはN-BOXやルークスなどから取ったのではなく…
●スズキ ワゴンR(2019年2月の月販台数:9132台 → 2019年7月の月販台数: 6672台 → 2020年1月の月販台数:4182台)
03. 身内のワゴンRから喰った。軽ハイトワゴン、斜陽気味か!? それにしてもワゴンRの落ち込みは顕著だ
■05. N-BOXがフィットやフリードのパイを喰う
今の大食いグルマの1位は、昨年25.4万台を販売したN-BOXだ。2位のタントは17.5万台だから大差をつけている。ちなみに登録車で1位のプリウスは12.6万台、その差は歴然だ。そして昨年のN-BOXの売れゆきは、国内で売られたホンダ車全体の35%に達している。
●ホンダ N-BOX(2019年10月の月販台数:1万5475台 → 2020年1月の月販台数:1万8830台)
01. 最近パイを大食いしているクルマ→N-BOX
タントも需要(パイ)を奪われたが、最も恐怖を味わっているのは身内となるホンダのモデルだ。2001年に初代が誕生したフィットは、2002年に25万台を登録して国内販売の1位になったが、昨年、モデル末期の3代目は7.4万台と低迷。
また、フリードは昨年ホンダの登録車では最も多く売れたが、8.6万台だからN-BOXの34%にすぎない。1997年、初代が11万台を登録して話題になったステップワゴンも、昨年は5.3万台。ダウンサイジングの嵐でN-BOXへの乗り換えが進む状況だ。
つまり、いろんなホンダ車からN-BOXへの乗り換えが顕著になっている。
こんな具合だから、国内で登録されたホンダの登録車は、2009年には46万台だったのに昨年は36万台に減少。逆に軽自動車は2009年の16万台から36万台へ急増している。
N-BOXの好調と登録車の衰退で、今のホンダは軽自動車の販売比率が50%を占める。N-BOXが絶対的な強さを誇り、N-WGNも人気。軽がますます色濃くなる。
02. そのパイはライバルのタントから取ったのではなく…
●ホンダ フリード(2019年10月の月販台数:4038台 → 2020年1月の月販台数:5325台)
●ホンダ フィット(2019年10月の月販台数:3136台 → 2020年1月の月販台数:1735台)
03. モデル末期だったフィット、定番人気のフリードに加えステップワゴンまでもオーナーがN-BOXに奪われた。まさに“ダウンサイジングパイ喰い”!?
■06. レクサスESがレクサスLSのパイを喰う
昨年、国内で売られたレクサス車のなかで、登録台数が最も多い車種はSUVのUX、2番目がLサイズセダンのESで1.1万台を登録した。
ESはFFモデルだが、ボディサイズはレクサスGSに近い。欧州のプレミアムブランドでは、ベンツEクラスやBMW5シリーズと同等だ。
●レクサスES(2019年2月の月販台数:1057台 → 2019年5月の月販台数: 1009台 → 2020年1月の月販台数:493台)
01.最近パイを大食いしているクルマ→レクサスES
ただし、ESがこれらのライバル車を喰ったわけではない。レクサスの店舗に尋ねると「先代LSのお客様がESに乗り換えることが多い」という。LSのパイはESに喰われているという状況だ。
現行LSはボディを大幅に拡大して、全長5235mm、全幅は1900mmに達する。ベンツならSクラスのロングボディと同等だ。
先のレクサス店では「このサイズになると、法人のお客様なら会社の駐車場に収まるが、一般のお客様が使うマンションなどでは入庫が難しい。その点でESはボディがひとまわり小さく、FFだから車内の広さはLSとほぼ同じ。そこでLSからESへの乗り換えが増えている。
ただしベンツEクラスの上級グレードに移るお客様もいて、LSのサイズアップは顧客離れにも繋がっている。レクサスとして厳しいですね」と話す。
昨年(2019年)のLSの登録台数は、3000台少々だからESの約30%だ。先代LSが発売された直後の2007年頃は、1年間に1.6万台前後を登録したから、相当の台数がESに喰われたといえるだろう。まさにレクサス内の下克上だ。
02. そのパイは5シリーズやEクラスから取ったのではなく…
●レクサスLS(2019年2月の月販台数:225台 → 2019年5月の月販台数: 169台 → 2020年1月の月販台数:172台)※ガソリン&HVの合計
03. 格上のLSから喰った。LSはやたらとでかくなりすぎ
■【番外コラム】輸入車にもある 恐ろしすぎる「喰って喰われて」
●ボルボV60がベンツCクラスを喰う
ボルボの国内登録台数、2009年は6213台だが昨年は1万8583台。10年間で約3倍に増えている。そして昨年、目立つ数字はV60(CC含む)の3764台。ボルボ販売店によると「ベンツCクラスなどドイツのプレミアムブランドからの乗り換えが目立つ」という。ボルボはブランドイメージが上質で安心。先進安全装備を割安で得られることもCクラスのパイを喰った要因といえそうだ。
元気にパイを食ってます
●ルノーメガーヌR.S.がVWゴルフGTIを喰う
輸入スポーティカーの定番ゴルフGTI。このパイを静かに浸食するのがメガーヌR.S.。ドライバー中心の考えが備わり、1.8LターボはゴルフGTI以上の性能を発揮。約448万円とゴルフGTIより約30万円高いが、車両との一体感を味わえる走りを重視する層に人気。そのぶんGTIはパイを喰われているわけだ。
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みんなのコメント
前の型が全然いいと思う。
やはりセダンは堂々とした風格が
無いと駄目だし、クーペ調は後部座席
乗りにくいですq
ヤリスクロスオーバーと新型ハリアー加わったらどうなんだろ??