F1マイアミGPの決勝レースで、RBの角田裕毅は7位フィニッシュを果たした。そのレースペース、そしてレース中のポジションを分析していくと、セーフティカーがまさにドンピシャリのタイミングで出動したように思える。
角田は10番グリッドから決勝レースをスタート。スタート直後にメルセデスのジョージ・ラッセルを抜いて9番手に上がるも、その後抜き返されて10番手。アストンマーティンのランス・ストロールにプレッシャーをかけられるシーンもあったが、レース序盤はこの10番手のポジションをキープした。
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その時の角田のペースは、メルセデス勢やハースのニコ・ヒュルケンベルグとほぼ同等。実に秀逸なモノだったと言える。
このレースは1ストップ作戦が主流になると事前から指摘されていたが、57周レースの10周目前後から、複数のマシンが動く。そこには、角田のふたつ前を走っていたヒュルケンベルグ(12周目)、そしてひとつ後ろを走っていたストロール(11周目)らがいた。
しかし角田はステイアウト。直近のライバルに反応しなかった。これについてRBのビークル・パフォーマンス責任者のギヨーム・デゾトゥーは、レース後に次のように語っている。
「最初のスティントでユウキは、長く走ることにした。12周目にピットインした、ヒュルケンベルグに反応しないことにしたんだ。セーフティカーが出た時、ポジションを奪うのに理想的な位置にいたのだ」
この判断を可能にしたのは、特殊な特性のマイアミ・インターナショナル・オートドロームの路面にあった。
今回のサーキットは、タイヤのデグラデーション(性能劣化)が著しく小さかった。つまり、新しいタイヤを履いた時のメリットがほとんどないということである。しかもミディアムタイヤでスタートしていたマシンは、1ストップを目指すならば必然的にハードタイヤに交換しなければならなかった。
■デグラデーションほとんど”ゼロ”。難しいマイアミの路面
ライバルよりも先にピットストップを行ない、タイヤを履き替えるのは、新品タイヤのメリットを活かしてラップタイムを稼ぎ、ライバルがタイヤ交換を行なった際にポジションを奪うもしくは差を広げるため……いわゆる”アンダーカット”をするためである。デグラデーションの大きいサーキットであればあるほど、この”アンダーカット”が活きる。しかし逆に、今回のようなデグラデーションの小さいサーキットでは、アンダーカットの効果が小さい。
上のグラフを見ていただくと、それがよく分かる。青の実線が角田、蛍光ピンクの実線がヒュルケンベルグ、そして濃い緑の点線がストロールである。新しいハードタイヤを履いているヒュルケンベルグやストロールは、まだタイヤを変えていない角田とほとんど同じペースなのである(グラフの赤丸の部分)。これでは、アンダーカットは活かしにくい。
とはいえ、アンダーカットの効果はゼロではない。ほんのわずかではあるが、ヒュルケンベルグやストロールのペースの方が、タイヤ交換直後は優れていた。この状況で角田がピットストップすれば、この2台に先行されてしまうのは明らか。そのため、角田としてはステイアウトせざるを得なかった。もしヒュルケンベルグらに反応していたら、それこそ入賞を逃した可能性もあっただろう。
ただステイアウトしたことで、角田には勝機が見えてきた。それが、このふたつ目のグラフを見ていただくと分かりやすい。
■SCが入らなくても、そろそろピットストップのタイミングだった?
このグラフは、角田とライバル関係にあったドライバーたちとのポジションの推移を示したものだ。青い縦軸「0」の角田の位置を基準に、上は角田より前、下は角田よりも後方にいるということを示している。
前述の通り、タイヤ交換を終えた後のヒュルケンベルグ(蛍光ピンク)やストロール(緑点線)は、角田との差を縮められていない(赤丸の部分)。つまり、新品タイヤに履き替えた効果はほとんどなかったということだ。
ただ、今回のマイアミGPでピットストップした時のロスタイムは、18.5~20秒程度と言われていた。もし角田は、15周目とか16周目あたりでピットストップすれば、ストロールの前には戻れていた可能性が高いが、ヒュルケンベルグを抜くことはできなかったはずだ。
今季のハースのマシンVF-24は、立ち上がりの加速という点で優れており、オーバーテイクしにくいマシンであることは、同チームの小松礼雄代表も「このクルマが本来持っている強み」と認めている。実際、今季の角田はそれで散々苦しめられてきた。RB陣営としては、状況を打破する何らかの要素が欲しかった。
ひとつめの好機は、22周目のバーチャル・セーフティカーだった。しかしこのVSCが宣言された時には、角田はすでにピットレーンの入り口を過ぎており、しかもすぐにVSCは解除。この好機を活かすことはできなかった。
しかしそのVSCが終了すると、ヒュルケンベルグのペースに異変が生じる。ペースが一気に落ち始めたのだ。一時は16秒台まで縮められていた差は、17秒、18秒、19秒……と、徐々に広がっていったのだ。そして27周目には21.167秒。これなら角田としてはピットストップしても、ヒュルケンベルグの前で戻れる(青丸の部分)、それだけの差を築くことができていたのだ。
そしてそんなタイミングで、コース上で事故が発生。セーフティカーが出動することになった。角田はこのタイミングでピットインしてタイヤを交換。ヒュルケンベルグの前で戻ることができた。それだけではなく、メルセデスのジョージ・ラッセルの前に出ることにも成功……これはある意味ご褒美的なモノだったかもしれないが、それでもレース再開後のペースは、ラッセルをも凌ぐモノであり、素晴らしい走りを披露したのは間違いない。
さてもうひとつ考えておきたいのは、”もしセーフティカーが入っていなかったら”ということだ。
ペースの落ち込みを考えれば、セーフティカーが出なかったとしても、角田はヒュルケンベルグやストロールには勝てていた可能性が高い。しかしここで問題となってくるのが、VSCのタイミングでタイヤ交換をしたエステバン・オコン(アルピーヌ)とフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)の存在だ。彼らはロスタイム少なくタイヤを交換していたため、27周目の時点で角田の約17秒後方に位置していた。この位置関係で角田がピットストップすれば、2台に先行されるのは必至だった。さてどうするか……。
そこで考えたいのは、ソフトタイヤの存在だ。レース後半までミディアムタイヤで我慢し、ソフトタイヤを投入してオコンとアロンソを抜く……そういう選択肢もあったのではないかと思う。
事実、このレースではキック・ザウバーの周冠宇が、後半スティントでソフトタイヤを履いた。キック・ザウバー自体のペースが今回は優れず、レース前半のペースはかなり低調だった。しかしソフトタイヤに履き替えた後の周は、ストロールやオコンらと遜色ないペースを披露。しかもデグラデーションはゼロどころか、ハードやミディアム以上に、走れば走るほどペースが上がる傾向にあった。今回最も適したタイヤは、ソフトだったのではないかと思えるほどだ。
角田には新品のソフトタイヤはもう残っていなかったが、予選で3周だけ走ったソフトタイヤが残っていた。これを使えば、十分にそのメリットを活かすことができたように思える。つまり、少なくとも8位は狙えただろう。
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