メルセデス初の3列シート・コンパクトSUVである「GLBクラス」の人気が止まらない。その理由を今尾直樹がさぐった。
なかなか賢い買い物
ご存じでしょうか、昨2020年6月に上陸したメルセデス・ベンツのコンパクトSUV、GLBが飛ぶように売れているということを。Gクラスを思わせる四角い外観と3列7人乗りのユーティリティが、大いにウケているというのだ。
そういえば、このクルマが国内で発売されたばかりの頃、とりわけ30代の家族持ちの男子に刺さっている、という話を某メディアの編集部で筆者も耳にした。最近、都内を走っていると、1日に何台も見かけたりもする。
ふ~む。どこがいいのだろう。理由は前述した通りなのでしょうけれど、ここでは改めてGLBのベーシック・モデルの200dに試乗し、GLBの人気の秘密について、あれこれ思案してみた。
まずもって、GLBの日本仕様には、最近追加になった180とAMG 35 4MATICを別にすると、200dと250 4MATIC スポーツの2モデルがある。売れ行きは2:1でディーゼルの200dだそうで、おそらく200dは518万円(現在は4MATICとなり価格は553万円)と、絶対的には安いものではないけれど、比較的お求めやすいことが、そこにはひとつの理由としてある。ガソリンの250は4MATICと後ろについていることからわかるように、4WDで、しかもスポーツ、200dでは28万3000円のオプションの「AMGライン」に相当するスポーティな内外装が標準になる。価格は704万円と、200dとは186万円もの開きがあるのだ。
186万円あったら、なにが買えますか? という話はともかく、GLBの200dはいまのところ駆動方式がFWDゆえにこの価格で、どうしても200dで4MATICの小型SUVを、というのなら、いちばん近いのはGLAということになる。GLA200d 4MATICは503万円で、GLB200dとは15万円の差だから、機能で考えれば、なかなか賢い買い物であるといえそうだ。
さりとて、GLAは乗車定員5名だし、なによりGクラスとは似ても似つかぬ、丸っこいかたちをしている。そもそも輸入車のコンパクトSUVで、7人乗りが標準仕様になるのはGLB以外にない。
ディーゼルを運転していることを忘れる
というようなわけで、某日、そのメルセデス・ベンツGLB200dでテスト・ドライブに出かけた。250 4MATICスポーツに昨年試乗した記憶で申しあげると、こちらのほうが乗り心地は明らかに快適だ。ホイール&タイヤがこちらは18インチで、あちらは19インチという以上の違いがある。前者は「コンフォートサスペンション」、後者は「スポーツサスペンション」とカタログに書いてある。250はそうとう硬かった。ガンガン飛ばす若者、もしくはヤング・アト・ハートなひと向けであると筆者は思った。
200dは250よりまろやかで、ディーゼル・エンジンとの相性もピッタンコだ。1949ccの 直噴4気筒DOHCターボは、最高出力150ps/3400~4400rpm、 最大トルク320Nm /1400~3200rpm。2.0リッターの直噴ディーゼル・ターボとしてはやや控えめなチューンだけれど、発生回転数が示しているように、低回転からトルクが豊かで、100km/h巡航は8速DCTのトップで1500rpmに過ぎないから、めちゃくちゃ静かでもある。しかも、レッドゾーンの始まる4600rpmあたりまで滑らかに気持ちよくまわって、ディーゼルにありがちだった頭打ち感がない。低速トルクがめちゃくちゃ分厚い印象もない分、感覚的にはガソリン・エンジンみたいで、自分がディーゼルを運転していることを忘れる。
まずもってサイズ感がいいことはいまさらいうまでもないながら、全長4640×全幅1835×全高1700mmというのは、1クラスの上のGLC、708万円より65mmほどナローではあるけれど、25mm 背高ノッポで、体格的にヒケをとっていない。だからといって大きすぎないし、ボディが四角いから見切りがよくて、取りまわしがよい。日本の道路事情を考えると、クルマはナローなほうがいいこともある。
室内はこの四角いボディのおかげで、たいへん広々している。Aピラーが、Gクラスほどではないにせよ、比較的立っていて、見慣れた風景が新鮮に見える。2830mmのホイールベースはGLAより100mm長い分、おそらく乗り心地のフラットさにも寄与している。
3列目のシートは安全性を理由に身長168cm以上のひとの使用をメーカーは禁じているけれど、2列目シートに座るひとの協力を得られれば、170cm程度なら、頭上も足元もそれなりの空間を確保できる。乗降はおとなには狭くてたいへんだけれど、元気な子どもにはアスレチックみたいでオモシロイと思ってもらえるかもしれない。
もうひとつ、GLB200dで特筆すべきなのが、19万1000円のナビゲーションパッケージを選ぶと、いわゆるADAS(運転支援システム)がグレードアップする点だ。高速道路上では、渋滞で自動再発進もするし、車線維持機能も付いている。Sクラスと同等の最新システムを採用しているというのだ。安全に対するメルセデスの考え方は、いまもって模範的ということだろう。完璧ではないとはいえ、ハンズ・フリーは未来の自動車っぽくて、子どもにもおとなにもウケるはずだ。
じつにリアルな存在
GLA、GLBを含むメルセデス・ベンツのコンパクト・クラスはいまや、日本で売れるメルセデス・ベンツ車の45%を占めているという。そのあとなかでも、GLB200dは最良の乗り心地を提供していると筆者は思う。
その一方で、それでも往年のメルセデス、たとえば1980年代の190Eの時代の記憶と較べてみると、あの頃のようなまろやかさはない。SUVということもあって、路面からの突き上げをどうしても、若干感じる。
いや、むしろ近年のメルセデス・ベンツのコンパクト・モデルの成功は、このハーシュネスを感じさせる乗り心地にある。オーナーの高齢化という最大の課題を解決すべく、若者ウケのする、ハンドリング優先の乗り心地に仕立てているのだ。
筆者も若い頃は乗り心地なんてまったく気にならなかった。NVHの塊のオリジナル・ミニの上下動の絶えない、あの乗り心地が楽しいと思っていた。メルセデスはそのことに気づいたのだ。たぶん、ですけど。
GLBが30代半ばの男子に刺さっている、とすると、いま35歳のニッポン人は1985年生まれである。芸能人では松田翔太、松山ケンイチ、山下智久などの名前がネットに出てくる。女性の場合、綾瀬はるか、上戸彩、蒼井優とか。任天堂のファミコンの発売と東京ディズニーランドの開園がともに1983年。彼らは日本が豊かだった1980年代に幼少期を過ごし、バブル崩壊後の「失われた20年」のあいだに思春期を送り、社会に出た途端、「リーマン・ショック」を体験した。朝日新聞がいうところの「ロスジェネ」ど真ん中、といってもいいかもしれない。GLBの購入者は幸いにして、そうしたことがもたらしたネガティヴ・インパクトを免れたひとびと、ということになるのだろうか。
GLBのなにがいいって、繰り返しになるけれど、Gクラスを思わせる四角い外観と、7人乗りである点だ。都会にいながらにしてジャングル・クルーズに出かけるみたいなデザインは、ファミコンのゲームやディズニーランドの世界観との相性もよさげである、と筆者には思える。
でありながら、同時に7人乗りでミニバンのように使えるユーティリティを備えている。奥さまにも子どもたちにもウケる、のだろう。
でもって、乗り心地には、ちょっとしたツッパリ感がある。路面が荒れていれば、荒れているとちゃんとわかる。それがバーチャルではない、リアルな世界を実感させてくれる。
しかもメルセデスとしては手頃な価格である。
バーチャルとリアルの間を行ったり来たりすることが日常のリアルである30代半ばの青年たちにとって、GLBは手を伸ばせば届く、じつにリアルな存在なのではあるまいか。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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みんなのコメント
同じ価格帯として考えると圧倒的にメルセデスの方が性能が上だから当たり前か。
そろそろ顧客層もアウディに価値が無いことを真剣に考え始めてる模様。