まったく運の無い奴と呼ばれたレーサー「マンフレッド・フォン・ブラウヒッチュ」
1930年代に「まったく運の無い奴」と呼ばれたメルセデス・ベンツのレーサー、マンフレッド・フォン・ブラウヒッチュ(Manfred von Brauchitsch)はチームの問題児でありました。しかし多才でひらめきがあり、メルセデス・ベンツ シルバーアロー誕生のきっかけをつくったのも彼でした。その活躍にスポットを当て紹介します。
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レースでの実力はもちろん多彩な才能を発揮した
ドイツの貴族階級出身を示す「フォン(von)」という名前を持つ誇り高く傲慢で多才なマンフレッド・フォン・ブラウヒッチュは、メルセデス・ベンツ レーシングチームの歴史の中で、もっとも問題児であった。しかし、ひらめきがあり、速いドライバーでもあったことは否定できない。
事実、1934年にドイツ ニュルブルクリンクサーキットで行われたアイフェルレースで優勝したほか、1937年のモナコGP、1938年のフランスGPでも優勝し、つねに上位の成績を残した。
ドイツ陸軍将官の家系に生まれた彼は陸軍に入隊したが、モーターサイクルの事故をきっかけに退役。その後、ベルリンで舞台俳優になった。また、1932年公開のドイツ映画『Kampf(戦い)』では主演を務め、レーシングドライバーを演じている。その後、1952年公開の自動車レースを題材にしたドイツ映画『Rivalen am Steuer(ステアリングを握るライバル達)』では脚本(原案)に協力している。
1932年5月のベルリン郊外のアフスレースに、ブラウヒッチュはストリームラインボディのメルセデス・ベンツ「SSKL」(ポルシェ博士がダイムラー・ベンツ社に在籍して設計した一連のSシリーズ)で出場し、アルファ ロメオに乗ったルドルフ・カラッチオラを僅差で破り優勝している。ちなみにこのSSKLは「Super Sport Kurzes Leicht Fahrgestell(スーパー・スポーツ・ショートライトシャシー)」のドイツ語略だ。
なぜメルセデス・ベンツのエースドライバーであるカラッチオラがアルファ ロメオで出場したかと言えば、ドイツ帝国の失業や暴動のため、当時のダイムラー・ベンツ社はレース活動を休止し、カラッチオラは仕方なく1932年にアルファ ロメオに移ったからである(1933年まで)。
このレース活動休止のこともあり、メルセデス・ベンツのレース監督であるアルフレッド・ノイバウアーがこの問題児であるブラウヒッチュの面倒を個人的に見るようになった。
1934年、ダイムラー・ベンツ社がレース活動を再開することになり、1932年のアフスレースの活躍が評価されたブラウヒッチュは1934年シーズンからメルセデス・ベンツチームと契約した。
シルバーアロー誕生はブラウヒッチュのひらめき
昔のレースは出場国のナショナルカラーでボディ色が決められていた。イギリスはグリーン、イタリアはレッド、フランスはブルー、そしてドイツはホワイトである。
1932年10月、当時のAIACR(国際自動車クラブ連盟・パリ本部)は、いつも高馬力で重量の重いメルセデス・ベンツ(まさに白い象)が優勝し、限りのない超高性能車の開発に歯止めをかけるため、1934年からの新しいGPフォーミュラを発表した。車両の重量は燃料、オイル、タイヤそして冷却水を除いて、750kgを越えてはならないとされ、エンジン出力と排気量は限定されなかったが、レースの距離は最低500kmと決められた。750kgフォーミュラは1934~1936年まで適用され、当時の技術開発全体の水準に合っていた。
1934年、メルセデス・ベンツは極秘に354PSの「W25」を車両重量750kg以下となった新フォーミュラに合わせて開発し、1934年6月3日にドイツ ニュルブルクリンクサーキットで行われたアイフェルレースに出場した。
しかし、メルセデス・ベンツW25のこのデビューレースの前夜の車検でこのW25レーシングカーは規定の750kgを1kgだけオーバー。頭を抱えたアルフレッド・ノイバウアー監督にブラウヒッチュは「ヤスリをかけてボディのアルム外板でも削るか」と何気なくつぶやいた。彼の言葉がきっかけで、ノイバウアー監督の指示の元、メルセデス・ベンツのエンジニアたちはドイツのナショナルカラーであるホワイトのペイントを徹夜で全てはがし、750kgとしたことで出場許可を得ることができた。
アルミ地肌の「シルバーアロー」のW25を誕生させたのは、彼の「ひらめき」であり、またこのレースで優勝したのも彼であった。メルセデス・ベンツはこの年、イタリアおよびスペインGPなどで優勝、翌1935年には7つのGPを制覇。その後のレースでも連戦連勝を重ね、シルバーアローが定着したのは周知の通りだ。
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