かつてアメリカのCARTでチャンピオンを獲得し、F1でも6シーズンに渡って活躍したファン・パブロ・モントーヤ。彼は45歳となった現在も、インディカーやプロトタイプカーを駆ってレースに参戦している。
今ではモントーヤの息子であるセバスチャンも、F4に参戦してレース界のピラミッドを駆け上ろうとしている。その中でモントーヤは若手ドライバーの教育や、モータースポーツ界により若いファン層を取り込むにはどうすればいいかを考えるようになった。また彼は上記の理由から、eスポーツにも関心を持っている。そんなモントーヤが、今回motorsport.comのインタビューに答えてくれた。
■モントーヤJr.、プレマに加入。イタリアとドイツのF4選手権に参戦
■「スプリントレースはF1の目指すべき道」
ーーではまずは、あなたと最も関係の深いふたつのシリーズ、F1とインディカーについて考えていきましょう。これらのシリーズは今日、どういった状態にあると思っていますか?
「とても良い状態だと思う。F1はリバティ(リバティ・メディア/現オーナー)がやってきて以来、多くの変化があったので興味深い。正直、パドックに行くと昔と比べてかなり良くなっていることに驚かされるんだ」
ーー政治的な色が薄くなった?
「とにかく以前より良い感じで、人々もフレンドリーだ。より素晴らしい場所になっているよ。インディカーに関しては、ロジャー(ペンスキー)が運営を引き継いだのはとても良かったと思う。特にこのコロナ禍を考えればね。ロジャーがいなかったらこのシリーズは危機に陥っていただろう。ロジャーはインディカー、インディ500、そしてそれらが持つ伝統に大きな情熱を持っている。彼はその伝統を維持しつつ、より良くしていく方法を見つけるだろう。ロジャーの細部へのこだわりはすごいんだ」
ーーF1は現在、チーム間格差をなくすために空力ハンデや予算制限などを導入していますが、これらはあなたの時代には考えられなかったものです。こういった動きはF1を正しい方向に導くと思いますか?
「そう思う。これらをうまくコントロールできればね。いつものように抜け道を考える人も出てくるだろうが、時が経てばそのあたりは改善されるだろう。トップチームには限界というものがないので、勝つためには何でもやってくる。そういう意味で、格差をなくそうとすることはショー的な観点では素晴らしいことだ。ただそれでも、より優秀なチームが勝つのは同じだと思う。最善のアイデアを持っている人は、他と比べて半分の時間でも良い仕事ができる。そこが問題なんだよね! でもF1とリバティ・メディアの関係は興味深い」
「人が注意力を保てる時間は年々短くなっている、ということに皆気付き始めていると思う。人々がテレビの前に座って2時間も同じレースを見ることはもう望めない。そのスポーツが本当に好きな人はそうするかもしれないけどね。でも若い世代であるほど難しいと思う。そういう意味では、F1が今話し合っているスプリントレースは、F1の進むべき道だと思っている」
ーーその点インディカーに関しては、多くのドライバーが優勝を争えて、小規模チームでもビッグチームと競い合えることがシリーズのDNAですから、F1とはまた少し違った課題があるでしょうね。将来に向け、インディカーがどのように発展していくのを見たいですか?
「インディカーは正しい方向に進んでいると思う。彼らはふたつのことについて話していて、ひとつが近々実現する予定のハイブリッドシステム、もうひとつがパワーの増加だ。パワーはインディカーには必須だよ。CART時代のインディカーの魅力のひとつは、パワーだった。今のマシンも走らせるのが楽しいけど、アクセルを踏んだ時の『オーマイガー!』という感触はないんだ……分かるよね?」
■「与えられたもので走っているだけでは成功しない」
ーーあなたの息子のセバスチャンは今、イタリアとドイツのF4でレースをしています。自分の子供をレースに送り出すことで、若手ドライバーの育成についての考え方は変わりましたか?
「多くのことに気付かされた。例えば今の若いドライバーが、マシンには何が必要で、チームを前進させるにはどうすればいいかなどを理解するのに苦労していることだ。これは彼らがカートの時から『セットアップとはこういうもので、こうやってマシンを走らせれば良い』などと言われて育ったからだ。これは本当に良くない。チームにとってはその方が楽だろうけどね。でもその問題点は、優秀な人材だがマシンのことが好きでないという人が出てくるかもしれないということだ。自分の才能に合わせてマシンを調整できれば誰にも負けない速さを手に入れられるだろうが、与えられたものだけで走っていても、トップレベルでは成功はしない」
「今年インディカーとWECのテストに参加した時に、それを感じた。若いドライバーは与えられたマシンであれば何でもドライブし、時には酷い走りもする。しかし、それでペンスキーやガナッシ、アンドレッティを相手にして勝てるかと言われれば、それは難しい。なぜなら、僕と同じように『マシンをより良いものにしないといけない』という理論で育った経験豊富な人たちがたくさんいるからだ。マシンをより良くした者がレースに勝つんだ」
ーー今の若者はデジタルのない世界を知らないため、問題解決の方法もかつてとは異なりますよね。息子のセバスチャンやあなたが支援する若手ドライバーを見て、そういった時代背景がどのように表れていると感じますか?
「10歳や12歳くらいの子にデータのグラフを見せても理解することができるんだ。これは面白いし、信じられないよ。僕がそういうグラフを初めて見たのは1995年、ヨーロッパで初めてレースをした時だ。それから20年の月日が経った。時代は変わるものだね」
ーーでは荷重移動など、物理的なものなどについてはどうやって教えているのですか?
「僕はシンプルをモットーにしている。いずれ歳を重ねれば、物理も分かるようになるからね。もし僕が10歳の子に『そんなアクセルワークをしていると、フロントの荷重が……』なんて言っても、彼らには何のことやら分からないだろう。彼らはただ『こういう時にアクセルを緩めすぎると良くない』というだけ分かっていればいい」
「僕としては、ビデオがとても役に立っている。僕はずっとそうしてきた。若いうちはテレメトリーを見せても、そのデータがコーナーでのスピードとどう関連しているのかまで理解するのはとても難しい。テレメトリーに関しては僕が2分だけ見れば十分だし、1時間見た時と同じくらいのことが分かる。彼らにとっては、どのコーナーでどういう動きをしていたかを知ることが大事だから、ビデオを見せて理解させるんだ。そして彼らは『ここが問題だ』と言う。そっちの方がずっと簡単だ」
■「eスポーツは精神面でも学べることが多くある」
ーー今ではゲーム、eスポーツがひとつのプラットフォームとして確立していますが、これもあなたがレースを始めたばかりの頃にはなかったものですよね。これはレース界の新たな才能や、新たなファンを発掘するための魅力的なプラットフォームになりそうですが、あなたはeスポーツをどのように評価していますか?
「eスポーツは実際のレースをする手段がない人たちに向けて門戸を開くものだと思う。今ではまともにレースをするためには莫大な資金が必要になる。ゴーカートのレース1回に出るお金で、上等なシミュレータが買えるだろうね。しかもそれ(シミュレータ)を買ってしまえば他はいらない訳だから。1年経った頃には100ドル(約11000円)でいろんなサーキットを(ゲーム内で)買ったりするだろうけど、その程度だ。親が9時から17時まで働いていて、子供をカート場に連れて行く時間がなかったり、レーサーを仕事にするつもりがない人にとって、eスポーツは良い手段だ。実際にシミュレータでレースをしてみると、どれだけの努力が必要かが分かる。そして安定感を保つこと、タイムに関する感覚を磨くこと、目標に向け努力することなど、精神面で学べることが多くある」
「レースで重要なのは全てのことを正しく行ない、繰り返すことだ。1周速く走ることは簡単だけど、10周以上同じことをするのは気が散ってしまってできなかったりする。ブレーキングポイントが来た時に『さっきのは楽勝だったから、もっと攻めてみるか』なんて風に心がイタズラしてきて、そこからミスが生まれるんだ。eスポーツはそういった訓練をするのに適している」
ーー昨年のロックダウン期間では、素晴らしいバーチャルレースがいくつも開催されましたね。ドライバー、ゲーマー、ファンがそれぞれ交流できましたし、バーチャル・ル・マン24時間では、現実世界では実現しないような夢の組み合わせもありました。
「僕が本当に面白いと思ったのは、今まで会ったことのないドライバーと仲良くなったりして、チャットで会話したり、現実で会って笑い合ったりできることだ。これは良いことだね。レース界をもっと身近なものにしてくれると思う。(シャルル)ルクレールやランド(ノリス)、マックス(フェルスタッペン)なんかはゲーマーだし、多くの若手が彼らとレースをすることで、これまではなかった人間関係が生まれたり、新たなヒーローが生まれるかもしれない。そうすることで、レース界は外の世界にとってより親しみやすいものになると思う」
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