多くのミュージシャンに愛されるジョシュア・ツリー国立公園
広大なアメリカを東西2347マイル(3755km)にわたって結ぶ旧国道「ルート66」をこれまで5回往復した経験をもつ筆者が、ルート66の魅力を紹介しながらバーチャル・トリップへご案内。イリノイ州シカゴから西に向かい、ついに最西端のカリフォルニア州に突入しました。モハヴェ砂漠にさしかかったら、ルート66からちょっとだけ南に寄り道して、「ジョシュア・ツリー国立公園」を訪れてみるのがお勧めです。
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群生するジョシュア・ツリーと巨岩が織りなす神秘的な景色
荒涼としたモハヴェ砂漠のオアシス的な存在、「アンボイのロイズ・モーテル&カフェ」。2019年の12月に約30年ぶりとなるネオンが再点灯し、運よく近くにいた私はキャンプの途中で撮影に駆け付けた。今回はそのキャンプ地でありルート66から1時間ばかり南に位置する、数えき切れないほど通った「ジョシュア・ツリー国立公園」へ寄り道してみよう。
私がルート66と並ぶライフワークと考えているのは、60ほどあるアメリカの国立公園をすべて制覇すること。2024年の時点で足を運び撮影した国立公園は20ほどあるが、もっとも気に入っているのはジョシュア・ツリー国立公園だ。
ロサンゼルスから近いせいで最初のうちこそ「いつでも行ける」と後まわしにしていたものの、群生するジョシュア・ツリーと巨岩が織りなす壮大かつ神秘的な景色に魅了され、今では渡米のたびキャンプしながら撮影したり本を読むのがルーティンと化した。
ジョシュア・ツリーはユッカと呼ばれる植物の一種で、その枝ぶりが、旧約聖書に登場するヨシュアが手を伸ばし天を仰いだ姿に似ていることから命名。正式にはユッカ・ブレヴィフォリアという名称で、寒暖差が激しく雨の少ないモハヴェ砂漠で生育し、樹高は15mに達することも珍しくないそうだ。
ここに遺灰を撒いてほしいと願ったミュージシャンも
ジョシュア・ツリーの存在を知ったのはアイルランドのバンド「U2」が1987年に発表し、日本を含む世界で2500万枚を超えるセールスを誇る名盤『ヨシュア・ツリー』だった。お膝元であるアメリカにもジョシュア・ツリー国立公園を愛するミュージシャンは多く、バーズなどで活躍したカントリー・ロックのパイオニアであるグラム・パーソンズは、死後に火葬した灰をここへ撒いて欲しいとマネージャーらに生前から話していたほど。そんな彼は27歳で麻薬の過剰摂取で亡くなってしまうが、遺言を託された人々はなんと空港から遺体を棺ごと盗み出し、ジョシュア・ツリー国立公園まで運び本当に焼いてしまった。一連の事件は『グランド・セフト・パーソンズ』として映画化され、日本語の吹き替えや字幕こそないもののDVDは手にいれることが可能だ。
また『ホテル・カリフォルニア』など数々の名曲で知られるイーグルスも、若かりしころ夜中にジョシュア・ツリー国立公園までクルマを走らせ、曲作りに没頭したと自分たちの軌跡を振り返るインタビューで語っている。
静かにキャンプするもよし、写真を撮ってもさらによし
私がいつも過ごすのはサイト数が少ないうえ、設備もゴミ捨て場しかない小さなキャンプ場。サイトどうしが離れているため他人を意識することなく、音楽にしろ読書にしろ瞑想にしろ延々と没入できるのだ。日本から持ち込んだスマートフォンがまったく繋がらないのも幸運と考え、時計はクルマに放置して、空の明るさと腹の空き具合だけを目安に行動する。
夜は夜でさらに神秘的。酒を飲んで騒ぐような無粋な輩はおらず、街灯もないため静寂と漆黒の闇しかない。そんな状況でテントに篭っていると、すぐ側の砂を踏み締めて歩く動物の足音や、次々に連鎖していくコヨーテの遠吠えがやけに神聖なものと思えてくるのだ。宗教やスピリチュアルの類とはまるで縁がなく信じてもいない自分ですら、ジョシュア・ツリー国立公園には何かしらの神秘性や精神性を感じてしまう。
もうひとつの楽しみは写真。昼は当然として夕方や太陽が沈んだ直後のトワイライト・タイム、プラネタリウムと錯覚する満点の星に包まれる夜から夜明けまで、どの時間帯であろうと感動で涙があふれるような表情を見せてくれる。
道具やある程度のスキルが必要なキャンプとまでは言わずとも、行くならば近隣の29(トゥエンティナイン)パームスやユッカ・バレーに宿を取って、あらゆる時間帯のジョシュア・ツリー国立公園を堪能してほしい。
今までルート66から寄り道するスポットをいくつも紹介したが、私がどこか1カ所だけを厳選するなら間違いなくここだと思う。過去に撮影したジョシュア・ツリー国立公園の画像は、記事のギャラリーにそれぞれの時間帯を掲載している。ご覧になった方と少しでも感動を共有することができれば幸いだ。
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