ベテランモータースポーツジャーナリスト、ピーター・ナイガード氏が、F1で起こるさまざまな出来事、サーキットで目にしたエピソード等について、幅広い知見を反映させて記す連載コラム。今回は、ブラジルGPの舞台サンパウロの治安情勢をテーマに取り上げた。
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F1コラム:標高2240メートルでの過酷なレース。高地のコンディションがドライバーとチームメンバーにもたらす困難
今年のF1サンパウロGPは、雨の影響で混乱した週末になった。レースコンディションは危険だったという人もいるが、そんななかでドライバーからひとりも怪我人が出なかったのは、現代F1の安全性が非常に高い証といえるだろう。
インテルラゴスを訪れる人々にとって、“安全性”というキーワードは、コース上だけに関連するものではない。むしろ、サーキット周辺の地域、人口約3500万人の都市サンパウロの治安が問題視されている。
昔からサンパウロの治安はF1関係者のなかで悪評を受けてきた。犯罪率は近年減少しつつあるものの、それでもブラジルGPは、訪れる人々にとって、カレンダーのなかで最も危険な場所のひとつとみなされている。
インテルラゴス周辺はサンパウロでも最も貧しい地域のひとつだ。世界で最も高額なスポーツに関わる人々と、掘っ立て小屋やバラックに住む人々との間には、非常に大きな格差がある。強盗や窃盗が蔓延しているこの街で、グランプリの週末にサーキット周辺が地元犯罪者の標的になるのは不思議なことではない。
今年も、強盗未遂事件が起きた。ウイリアムズの数人のメカニックたちが、ホテルに到着した際、銃を突き付けられたのだ。
市警察は、サンパウロを訪れる人々の安全と、市の評判を守るため、グランプリ期間中は大勢の人員を出動させる。日没後は、トラックの正面入り口に続くアベニーダ・インテルラゴスには、多数の警官がびっしりと隙間なく並んで立っているが、それでも毎年、この通りの信号で強盗未遂や襲撃事件が起きたという話が伝えられる。
チームメンバーたちは危険を認識しており、アベニーダ・インテルラゴスでは、信号で停止しないですむようにタイミングを計って走行する。赤信号で止まることが、黄色信号で進むよりも、より大きな危険をもたらす可能性があるのだ。
2010年には、前年の世界チャンピオン、ジェンソン・バトンが事件に遭った。サーキットからホテルに向かう途中、信号待ちの際に襲撃を受けそうになったのだ。しかし彼は、現地で雇った運転手のおかげで被害を免れた。バトンが乗った車が拳銃を持った若者たちに囲まれたが、特別な訓練を受けた運転手が逃げ切ることに成功したという。
「ドライバーは、あえて前の車と十分な距離を取って停車していた。そして強盗を見た瞬間にアクセルを踏み込んだ」とバトンは後日語った。
「彼は6台の車の間をジグザグに走り抜け、そのうち何台かにぶつかりながらも、なんとか逃げ切った」
今年のサンパウロGPを体調不良で欠場したケビン・マグヌッセンは、昨年、インテルラゴスへの備えについて、こう話していた。
「ハースは、僕が空港に到着した瞬間から出発するまでずっと、僕に付き添うボディガードを雇ってくれている。さらに、週末の間ずっと、防弾車を使用する。幸い、僕自身はこれまでサンパウロで犯罪被害に遭ったことはない」
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