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エンジン非分解で筒内デポジットを除去する──安藤眞の『テクノロジーのすべて』第28弾

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エンジン非分解で筒内デポジットを除去する──安藤眞の『テクノロジーのすべて』第28弾

直噴時代ならではの悩み・デポジット付着。除去するためには高圧高温の薬品を流し込みながら——というのが非分解式のこれまで、そうでなければ分解して削り落とす必要があった。しかし、ロールス・ロイス・モーター・カーズ東京のツールでは、非分解で高速除去が可能だという。TEXT:安藤 眞(Ando Makoto)

 ガソリンエンジンにとって、インテークバルブや燃焼室内にデポジット(「カーボン」とも呼ばれる)が堆積するのは、古くからある問題。ことに燃焼技術が繊細化している昨今ほど、問題が顕在化しやすくなった。

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 デポジットとは、ガソリンやエンジンオイルの不完全燃焼生成物で、気化しきれなかったガソリンや、ブローバイガスに含まれるオイルミストが吸気バルブや燃焼室壁に付着し、高温に曝されて炭化することによって堆積する。吸気バルブのデポジットは、ポート噴射なら噴射されたガソリンによって多少は洗い流せるが、筒内噴射では、それはできない。また、筒内噴射は気化熱で筒内温度を下げ、耐ノック性を高められるのがメリットだが、アイドリングなど低回転では温度が下がりすぎ、未燃焼成分が発生しやすくなる。


 デポジットのなにが問題なのかというと、ひとつは「ノッキングが発生しやすくなる」ということ。デポジットによって燃焼室容積が小さくなり、圧縮比が高くなるのに加え、炭化物がヒートスポットとなり、自己着火を誘発しやすくなるからだ。

 現在のエンジンは、ノッキングの兆候を察知すると点火時期を遅らせて回避するため、エンジンが破損に至ることはまずないが、点火時期が遅くなった分、熱効率が悪化して、パワーが出なくなり燃費も悪化する。

 また、吸気バルブにデポジットが堆積すると、吸気抵抗が増加して、設計通りの出力が出なくなる。特にロールス・ロイスに搭載されるBMW製エンジンには、吸気量を吸気バルブのリフト量でコントロールする“バルブトロニック”機構が付いており、吸気面積の狂いは燃焼の気筒間バラツキを発生させ、ロールス・ロイスらしい滑らかな回転を阻害してしまう。

 そこで、時期を見極めてのデポジット除去が必要になるのだが、これまでは一般に、シリンダーヘッドや動弁系を分解し、工具を使って機械的にデポジットを削り落とすか、薬剤を使って洗浄するという方法が取られてきた。しかし、分解するには工数がかかるし、化学的に洗浄する方法では、汚れが落としきれなかったり、廃液を適正に処理しなければならなかったりという問題が生じる。

 そこでロールス・ロイス・モーターカーズ東京では、粒子の粗いブラストメディア(研磨剤)を圧縮空気で噴射し、物理的にデポジットを粉砕するショットブラスト法を数年前から使用してきたのだが、噴射する向きの都合上、吸気バルブには使用できても、燃焼室のヘッド側にはアプローチできないという問題があった。

 それを改善したのが、今回導入された逆噴射ツール(特定の名称は付けていないそうなので、仮に「リバースノズル」と呼んでおこう)。ノズルの先端から研磨剤が反転して噴射されるよう穴を開け、ブラストメディアがシリンダーヘッドにダイレクトに当たるようにしたもので、これをバルブホールから突っ込み、デポジットを落とす。

 ユニークなのは、ブラストメディアに粉砕したクルミを使用していること(汎用品として流通している)。軽いため圧縮空気に載せて反転させやすく、硬すぎないためアルミのピストンやヘッドを傷めない。しかも天然素材なので、焼却ゴミとして出しても環境負荷はゼロ。クレビス部に残留したとしても、エンジンをかければ燃えて排出される。

 さらに賢いのが作業方法。上下両面を清掃するには、クランク角を上死点後90度ぐらいにして作業すると具合が良いが、吸気上死点後90度にすれば、吸気バルブが全開になる。そこで吸気ポートに掃除機を接続して吸引すれば、ブラストメディアも粉砕したデポジットも、まったく外部には漏れ出さない。作業中は多少、周囲が埃っぽくなるような気がする程度で、マスクが必要になるレベルではないし、騒音も掃除機の音がほとんどだ。


 作業時間は汚れの付着具合にもよるが、このときは吸気ポートが2~3分、燃焼室も片面あたり2~3分で、ノズル交換を含めても、1気筒あたり10分かからない(実車での作業は吸気系全体の着脱があるのに加え、汚れの落ち具合を見ながら丁寧に行うため、1.5日~2日はクルマを預ける必要があるとのこと)。


 どのくらいのタイミングで実施すべきかは、クルマの使い方によって異なるそう。数字的な目安としては、走行距離で5万km、使用期間で3~4年とのことだが、アイドリングの頻度が高いクルマほどデポジットは堆積しやすく、熟練のテクニシャンが試乗すれば、ノックの兆候や加速時の振動などで的確に判断できるとのこと。作業工賃は32万円(税抜き)ほどかかるが、シリンダーヘッドを外すより安いし、工賃に見合うだけの効果は十分、得られるそうだ。

 唯一、残念なのは、ロールス・ロイス車以外、受託できないということ。メーカーが正規作業として認定していないことや、エンジンに合わせた吸引ノズルが必要になることが原因だが、汎用化できれば、やりたいと思う旧車オーナーは少なくないに違いない。


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